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塩田亮吾

共産党・志位委員長に聞く 政権獲得への本気度

2017/02/22(水) 11:04 配信

オリジナル

日本共産党が政局の“要”になりつつある。昨夏の参議院選挙で“野党共闘”が行われ、共産党など4野党は32の一人区で11議席を獲得。今年1月の共産党大会では、民進党や自由党など他党から登壇者を招くなど連携を積極的に打ち出し、政権交代を視野に野党による連合政権構想を掲げた。だが、安全保障をはじめ、基本政策の違いから、民進党ら他党との本格的な連携の実現に疑問をもつ向きも少なくない。果たして共産党は野党共闘にどこまで本気で取り組み、政権獲得にどこまで本気なのか。志位和夫委員長に尋ねた。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース編集部)

共闘の現実性は高い

衆議院の記者会見場。ドナルド・トランプ大統領との初の日米首脳会談のため、安倍晋三首相がアメリカへ飛び立った日の午後、志位和夫共産党委員長は安倍首相の姿勢を厳しく批判した。

「(首相は)貢ぎ物の目録づくりをやっている。一つは辺野古の新基地建設を着工、もう一つはアメリカで70万人の雇用創出。日本では正社員を減らしているのに」

その後の質疑で、野党による「国民連合政府」構想について問われると、志位氏は今回の構想はこれまでの野党間の取り組みとは異なると語った。

「連合政権構想は過去にもありましたが、昨年の参院選で共闘したように、今回ははるかに現実性の高いものでもあります」

その共闘態勢とはいかなるものなのか、会見後、あらためて志位氏に問うた。

「集団的自衛権行使容認の閣議決定をしたのは政府。閣議決定を撤回するのは政府でしかできない。ならば、それを撤回する政府をつくろうと呼びかけた」(志位氏)(撮影: 塩田亮吾)

安保法制の廃止で野党間が一致した

──共産党は「国民連合政府」の実現を党大会でも正式に掲げました。これはどういう経緯でしたか。

まず一昨年(2015年)9月に安保法制(安全保障関連法)、つまり“戦争法”が成立しました。この憲法違反の法律は、そのままにしておけない。そこで、戦争法の廃止、立憲主義の回復を目標に、それを実行する「国民連合政府」をつくろうと、党の中央委員会総会を緊急に開き、全会一致で賛同を得ました。

その後、昨年(2016年)2月19日に民主、維新、社民、生活(いずれも当時)との5党首会談を行い、「安保法制の廃止と集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回」「国会や国政選挙で協力をする」など4点で合意した。この合意があって、昨年7月の参院選では一人区の選挙区32議席のすべてで野党統一候補が実現し、11選挙区で勝利したのです。

──どうして野党が連携できたんでしょう。

SEALDsのような市民との共闘は大きいですね。“戦争法”への反対、立憲主義を取り戻す。平和や民主主義を願う流れを背景に、一致結束したわけです。

2016年の参院選、3党の合同街頭演説。左から、SEALDs・奥田愛基氏、社民党・吉田忠智党首、民進党・岡田克也代表、志位氏(写真: Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

日本共産党は1922年に結成。今年で結党95年、現存する日本の政党においてもっとも古い。戦前は天皇制廃止を掲げたことで非合法活動として弾圧を受けるが、戦後、合法的組織として再建された。戦後の冷戦期初期には暴力革命も辞さない姿勢を示したことで批判を受けたが、その後は自民党などの与党に対抗する革新勢力として存在を示してきた。現在の党員数は30万5000人。「しんぶん赤旗」の購読料を運営費とし、根幹の政策として、日本国憲法9条維持、自衛隊違憲などを掲げて活動する。

今年1月の共産党大会には、民進党から安住淳代表代行、自由党から小沢一郎代表など他党の要職が列席。党大会史上初めてのことで、野党共闘を象徴することから、政界では大きな話題を呼んだ。一方で、野党共闘といっても、各党の政策には小さくない隔たりがあり、どこまで連携できるのか疑う声も少なくない。

「戦争法の廃止を求める統一署名」は、2015年秋から共産党や各種市民団体が中心となって取り組んできた(撮影: 塩田亮吾)

選挙協力という点で一致

──国民連合政府構想、野党間に共通政策はあるのでしょうか。

大まかに4点はあります。第一はさきほどの「安保法制の廃止」と「集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回」。第二は「アベノミクスによる国民生活の破壊・格差・貧困の是正」。第三は「TPP、沖縄問題のような国民の声に耳を傾けない強権政治を許さない」。第四は「安倍政権の憲法改悪に反対する」。この4点は党首合意で確認しています。他にも昨年の通常国会には4党共同で15本の議員立法を提出しているわけです。長時間労働の法的規制や保育士の給与引き上げなどもありました。

選挙協力では4党で合意したと強調したが、政権構想で合意はしていないと語った(撮影: 塩田亮吾)

──一方、今年1月16日の記者会見で、野田佳彦民進党幹事長は「理念や基本政策が違うところ(共産党)と連立政権は組めない」と発言しています。これはどういうことでしょうか。

政権構想では一致していないということ。一緒に政権をつくるということでは一致していません。選挙で協力するという点で一致しているんです。ただ、民進党との関係では、党大会に見えた安住代表代行が「政策の違いはあっても、誠実に話し合えば、違いのある政策も一定の幅の中に入れることは可能だ」と発言されています。

たしかに政策で違いはあります。たとえば、安全保障、エネルギー、税と社会保障。しかし、話し合えば前向きな一致点があると安住さんは発言されたんです。

総選挙は政権選択ですから、野党でどういう政権をつくるかと話し合い、合意を得ることは必要だと思っています。ただ、この点ですべての一致はないんですよ。各政党で目指す将来像も理念も違うのは当たり前ですから。

志位和夫(しい・かずお)1954年千葉県四街道市に生まれる。両親ともに共産党員で、父は船橋市議会議員でもあった。東京大学工学部物理工学科卒業後、日本共産党東京都委員会、中央委員会勤務を経て、中央委員、書記局長などの党役職を歴任。衆議院議員としては現在当選8回。(撮影: 塩田亮吾)

志位氏は党の活動家から党職員を経て議員となった。1973年、東京大学に入学すると、正式に共産党に入党。1980年から党の職員となり、1989年に党中央委員に。1993年の衆議院議員選挙で初当選を果たし、2000年に党幹部会委員長に就任した。80年代末からのソ連や東側社会主義国家の崩壊を背景に、2004年、43年ぶりに党の綱領を全面改定し、自衛隊や天皇制などを当面容認しつつ、改変を迫る「柔軟路線」を積極的に打ち出してきた。

日米同盟廃棄で、日米友好条約を

──共産党は共産主義を目指す政党というイメージがあり、そんな党とは組めないという“共産党アレルギー”という言葉もあります。

私たちは「共産党」という名前ですけど、すぐ社会主義、共産主義をという目標ではありません。まず資本主義の枠内で、国民が主人公と言える日本をつくる。憲法の上では“国民主権”と書いてありますが、実際には主人公になってないじゃないですか。アメリカが主人公、財界が主人公じゃないですか。その主人公を正して国民が主人公と言える民主主義をつくろうというのが、私たちの大方針なんです。いまの政府はあまりにアメリカの言いなりですから。アメリカとの関係をもっと対等にしていくことが大事だと思います。

安保関連法案の採決を前に衆議院本会議から退席する民主党と共産党の議員ら(2015年9月16日)(写真: 読売新聞/アフロ)

──その日米関係ですが、共産党は半世紀以上にわたって、「対米従属をやめ、日米安全保障条約を廃棄する」と主張してきました。今もそう考えているのですか。

党の大方針に、「日米安保を国民多数の合意を得て廃棄し、日米友好条約を締結する」とあります。この方針は他党と合意していません。他の党は日米安保は必要という立場ですから。でも、今回の野党共闘では各党の不一致点は持ち込まないことにしたんです。だから、共産党独自の主張は持ち込まない。

──日米安保を廃棄した場合、アメリカの後ろ盾がなくなる。日本みずから防衛力を上げるのですか。

そうはなりません。在日米軍が日本に駐留しているのは、何のためですか。日本を足場にして世界に展開するためです。沖縄を本拠とする海兵隊と横須賀を本拠として空母を置く海軍。過去のベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争。こういう戦争で日本の基地は使われてきたんです。それはアメリカの当局者も言っている。安保条約がなくなって、そういう部隊が本国に戻ってもらっても困りません。

──ただ、いまの日本の周辺では中国の海洋進出などの脅威が高まっていると言われます。それについては、共産党も党大会ではじめて言及していましたね。

はい、中国に対する率直な批判をしました。「いまの中国に新しい覇権主義、大国主義の誤りが生まれている」と。ただ、この問題をどう解決するかという点で言えば、やはり平和的な外交交渉しかない。軍事的な対応は反対です。

主張を語るときには押しの強い口調になるが、現状分析を語るときには皮肉やユーモアも交えた語り口になる(撮影: 塩田亮吾)

自衛隊は憲法違反。だが、存続させる

──そもそも現在、自衛隊は共産党にとってどういう位置づけでしょうか。

憲法違反です。誰が見たって軍隊じゃないですか。憲法違反、だから、矛盾するんです。矛盾を解消する方法は2つしかありません。一つは自衛隊の存在を合法化する、つまり憲法改正です。これは自民党が言っていることで、われわれは反対です。もう一つは自衛隊を9条の理想に合わせて、自衛隊の現状を一歩一歩改革していくと。

──具体的にはどういうことですか。

やっぱり私たちも安保をなくした段階で、すぐ自衛隊をなくすことはできないと思っています。

ただ一歩一歩軍縮していく。9条の完全実施、つまり自衛隊の解消というところに踏み出すのは、どういう段階かと言ったら、日本がすべての国と友好な関係を築いて、日本を取り巻く平和的な環境が十分に熟したとき。われわれはやがてそういうときが来ると思っています。

野党連携の動きは2015年9月の安保法制(安全保障関連法)成立を機に活発化。2016年1月5日、学生団体SEALDs、安保関連法に反対する学者の会(学者の会)らの「市民連合」が開いた街頭集会で、7月の参院選での野党共闘を呼びかける志位氏(写真: アフロ)

2016年1月5日、「市民連合」が主催した東京・新宿駅前での街頭集会の光景。この日は各市民団体の代表の他、志位氏、民進党・蓮舫氏らがマイクを握った(写真: アフロ)

──政権交代という構想ですが、一橋大学の中北浩爾教授(政治学)が朝日新聞(1月26日付)で「野党共闘、問われる本気度」というタイトルでコラムを寄せていました。終盤にこんな記述があります。

〈共産党も本気で自公政権を倒したいのなら、「野党共闘に独自の立場を持ち込まない」という小手先の柔軟対応に終始せず、路線転換にまで踏み込まなければいけない〉

この指摘のように、共産党は本気で政権交代を考えているのか、と疑問視している向きは多いのではないかと思います。

あのコラムには同意できないですね。共産党が全部綱領や理念を捨てなかったら「小手先だ」というのは、まったく当たらない。政党と政党の共闘という原則を考える際、綱領や理念は違うものでも、当面の国民が望む大事な問題で政治を動かすという合意があるのなら、その一致点一つで連携して戦うし、政権もつくる。これは異なる政党同士なら当たり前の認識です。

2016年2月20日、「5党合意」の翌日開かれた社民党大会で手を取り合う各党幹部。左から、生活の党・小沢一郎代表、志位氏、社民党・吉田忠智党首、民主党・枝野幸男幹事長、維新の党・今井雅人幹事長(肩書きはいずれも当時)(写真: 読売新聞/アフロ)

──他の政党からすれば、共産党に対して警戒心があるように思います。たとえば古くからある「民主集中制」。ロシア革命で打ち出された概念で、共産党では執行部がほとんど権限を握っていて、党員はすべて上意下達の指示に従う。こうした考えには心配があるでしょう。党内に民主主義はあるのか、と。

いまはそんな上意下達なんていう組織じゃありませんよ。2000年に党の規約改定を行った際、「上級」「下級」といった書き方そのものをなくした。

たとえば1月の党大会。大会決議案は2カ月前に発表し、全党員が議論を積み重ねて、党大会で決める。むしろいまこれだけ民主主義的手続きを取っている党は他にないと思いますけどね。他の党だって執行部の方針から逸脱した場合には、除名なり処分なり、するじゃないですか。

──しかし、「民主集中制」という言葉はいまも使っています。どういう意味ですか。

簡単に言えば「党の意思決定では民主主義を徹底的に貫く」「決まった方針はみんなでやろう」という話です。

記者会見では共謀罪、南スーダンの「日報」問題、日米首脳会談について語ったが、囲みでは野党共闘に関する記者の質問に答えた(撮影: 塩田亮吾)

将来的には民主共和制の国を

──「天皇制」はどうですか。そもそも「天皇制」という言葉自体、戦前の日本の支配体制における天皇を絶対的な国家権力と捉え、「絶対主義的天皇制」と表記した共産党の「32年テーゼ」(1932年の綱領的文書)で持ち出されたものです。

それは戦前の話です。戦前の天皇の制度は国政に関して絶対的な権力がありました。天皇制をなくさなければ、民主主義もなかった。だから戦前の人(共産党員)は国民主権の国を守ろうと、命がけで頑張った。でも、戦後の天皇は国政上の権限はもっていません。君主制とも言えない。

しかし、われわれ共産党としては、一人の人が「象徴」となることが、人間の平等あるいは民主主義という点から見て両立しないと考えます。ですから、将来的には民主共和制をつくっていくという立場です。ただし、天皇の制度は憲法が決めるんです。憲法の制度がある以上、党の綱領では「その存廃は、国民の総意によって解決されるべきもの」という言い方になっています。

──その民主共和制というのは、いつ頃の実現を目指していますか。

相当先の将来です。かなり先でしょう。

共産党としては日米安保解消という大方針はあるが、野党共闘ではそうした主張は持ち込まないと語った(撮影: 塩田亮吾)

──最後に。記者会見では、日米首脳会談に向けた安倍政権の姿勢を批判していましたね。アメリカのトランプ大統領はメディアに対する対決姿勢を強めて混乱を生んでいます。

トランプ政権は、不都合なことを指摘されると、自らの言い分を、「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」だと言い張ったでしょう。安倍政権こそ、それを先んじてやっていましたよ。「戦争法」を「平和安全法」と言い、「共謀罪」を「テロ等準備罪」と言い換える。(福島第一原発事故の処理で)汚染水がダダ漏れなのに、「完全にコントロール」、南スーダンで「戦闘」が起きても「平穏」だという。オルタナティブ・ファクトの論理を駆使しまくっていますよ。こんなときこそ、ジャーナリズムのみなさんには、ファクトを重視して報道してもらいたいですね。

冬から春へ変わりやすい空模様の下、国会の論戦は続く(撮影: 塩田亮吾)

〈シリーズ・現代日本と政治〉
日々変転する政治情勢、政局に対して、その根幹にはどんな課題があるのか、注目の人物に直接疑問を投げていく。過去に「『連合』は誰の味方なのか 神津里季生会長に聞く」「小泉進次郎ら自民若手はなぜ新しい社会保障を構想したのか」「『東京五輪に責任者はいなかった』都政改革ブレーンに聞く」など。


森健(もり・けん)
1968年東京都生まれ。ジャーナリスト。2012年、『つなみ――被災地の子どもたちの作文集』で大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男 祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『反動世代』、『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』、『勤めないという生き方』、『グーグル・アマゾン化する社会』、『人体改造の世紀』など。
公式サイト

[写真]
撮影:塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝