殿村誠士

寄り添えるか、優しくできるか――綾野剛と常田大希が語るクリエイティブの「原点」

1/29(金) 10:00 配信

俳優の綾野剛(39)と、King Gnuやmillennium paradeで活動するミュージシャンの常田大希(28)は、コロナ禍でも常にお互いの活動を見守ってきた。2019年に出会ってから、週に何度も会うほど親密になったふたりの間で共鳴している、クリエイティブの「原点」を探った。(取材・文:宗像明将/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)

初対面は「お疲れっす」とハグ

2019年には「NHK紅白歌合戦」に出演し、2020年にはコロナ禍でも日本武道館2DAYSや幕張メッセ国際展示場でのライブを成功させたKing Gnu。「紅白」で披露された「白日」のMVのYouTubeでの再生回数は、実に3億回を超えている。

そのKing Gnuの中心人物である常田大希への深い親愛とリスペクトを隠さないのは、2012年にNHKのドラマ『カーネーション』への出演で頭角を現し、2014年の主演映画『そこのみにて光輝く』や2016年の映画『怒り』などで数々の賞を受けた俳優の綾野剛だ。

この日の対談は、常田が主宰する音楽ユニット・millennium paradeの制作作業が大詰めのなかで行われた。常田が「今日、ミックス」と言えば、綾野は「差し入れ持ってくわ、じゃあ」と返す。そして、綾野が「なに緊張してんだよ」とちゃかすと、常田が「いやいやいや、緊張するよ、こんなカメラの前で」と笑う。2019年に出会ってから、週に何度も会うこともあるというふたりの親密さが伝わってくる。

綾野「僕が中国で撮影してるときに、King Gnuのセカンドアルバムが発売されると聞いて、微博(ウェイボー)でアップしたんです。それを大希たちが知ってくれて出会って」
常田「うちのスタッフが『綾野剛が書いてくれてたぜ!』みたいな。その頃は今ほどグツグツ来てないときだから珍しくて、ちょっとざわついてたのをすごい覚えてる」

その後、ふたりはすしを食べに行くことになるが、第一印象は「初めて会った感じじゃなかった」と常田が振り返る。

綾野「すし屋の前で待ってたら、大希が向こうからニコニコしながら小走りで来て、『お疲れっす』って言っていきなりハグして。その時点で、なんかもう昔から知ってるかのような関係だった」

綾野剛

綾野から見た常田は「包み込む変態」

綾野は、常田に対する世間のイメージとふだんの本人にはギャップがあると言う。

綾野「大希ってかわいいよ」
常田「なにそれ?(笑)」
綾野「すごいきゃわ。そういうギャップは会ったときから思ってた」
常田「すごいつんけんしたやつに思われるからね」
綾野「お互いにね。友人から始まってるから、一緒にクリエイションしたことなかったけど、『ヤクザと家族』を今一緒にやってるなかで……やっぱ変態だよね」
常田「いい声だね。今、(綾野の声を録音して)サンプリングしたい声だった、『変態だよね』(笑)」
綾野「人を傷つけない変態っていうか、包み込む変態だよね」

「最上級の褒め言葉かもしれない」と常田が笑う。綾野と常田のお互いへのリスペクトが顔をのぞかせる。2021年公開の映画『ヤクザと家族 The Family』では綾野が主演し、常田のmillennium paradeが主題歌「FAMILIA」を担当。その制作過程での常田を、綾野は「まぶしかった」と振り返る。

綾野「それこそスイッチが入ってるときは、電話した瞬間、わかる。機嫌がさまよっている。いろんなものをまとっていて渋滞してる感じ。そこも含めてきゃわだよね」
常田「俺も(綾野は)やっぱきゃわだなと思うよ。仕事とのスイッチのギャップはすごいあるから。自分のドラマを『これ絶対見ろよ』って送ってくるあたりも、ちょっとやばいじゃん。『やばきゃわ』だよね(笑)」

常田大希

不急だけれど、不要ではない

綾野は以前、テレビで「自分を殺している」と語ったことがある。自分の出演しているドラマを見てほしいと常田に言うのは、実はそんな綾野が変化してきたからだという。『ヤクザと家族 The Family』でも、綾野が演じる山本賢治は、役と綾野自身のハイブリッドになってきているという。

綾野「そもそも役者だから、作品で全部語ってるので、自分の人生を。だから綾野剛っていうものを表現する必要があるんだろうか、みたいな乖離が起きる。自分を殺して役に投下するようなことをずっと続けてきたけど、もっと役と綾野剛のハイブリッドでいいのかなと。山本と自分がちゃんとリンクできる部分があるんだったら、自分の景色も混ぜて、山本をより魅力的にしていく。もう少し自分のこと愛せよって話なんだと思うんだけど、放棄に近い達観みたいなものがずっとあったから。役は自分への放棄を払拭してくれる人物だし、ある種、理想郷に近いというか、サンクチュアリだったりするんだよね。だから、そのサンクチュアリに綾野剛が入る権利はないという感覚がずっとあった。でも、大希はこんな俺を理解してくれる。そういうふうに愛してくれてる人たちの綾野剛を、もっと役と同化させていいんだと思えた、素直に。『MIU404』って作品を大希に見てほしいと言ったのは、ドラマではそれが一発目だったから、その過程を、見てもらいたかったんだ」

その『MIU404』は、コロナ禍で撮影が一時中断した。常田のKing Gnuも2020年8月に無観客配信ライブを行い、11月から12月にかけては、会場の入場者数を減らしたうえでアリーナツアーを開催。綾野もライブ会場に足を運ぶなど、お互いの活動を見続けてきた。

常田「あの時期にドラマっていうエンターテインメントを提供できるって、すげえなって思ったね。やっぱライブはどうしても、この環境にフィットしにくい。だから、俺は逆にテレビにけっこう刺激をもらった感じはあるかな。でも、『MIU404』の撮影もすごい押してたもんね」
綾野「緊急事態宣言が出る前後も様子を見ていて、結局2カ月半現場が止まった。俺たちもこの時期にロケしていいのか、常に悩んだ。全14話だったのが全11話になって、内容もテコを入れるべきなのか、自分たちがもともと持っていたエンターテインメントを届け切ったほうがいいのか、すごく悩んだ。ライブっていう環境はまだまだ完全復活はしてないけど、そのなかでも、不急ではあるだろうけど、不要ではないっていうことの確信が持てたのは大きかった」
常田「それはすごい感じたね。テレビも新しいものが作れなくなって、昔のものを再放送するっていう形が続いたじゃん。フラストレーションを感じた人はすごい多かったと思う。日々提供してもらってるエンターテインメントっていうのは、やっぱ必要だったんだって思い直す人は多かったんじゃないのかな。俺たちも、どうやったら活動できんだ、って試行錯誤してたんだけど、やっぱり『ライブをやるのが一番かっけえんだな』っていうのはすごい感じたことで。ストレートにライブをする様を見せるっていうのが、一番かっこいいんじゃないかなって」
綾野「うん、かっこよかったよ」

仲間に演奏を教えて「粉雪」をカバー

綾野は岐阜県出身、常田は長野県出身。ともに海のない県で生まれ、10歳の年の差こそあれ、成長する過程で音楽に魅了されていく。

常田「俺はもう完全に60年代、70年代のロックスターたちが好きだったね。『ウッドストックフェスティバル』(1969年)っていう、アメリカのヒッピーカルチャー全盛期のフェスを見て、『ロックかっけえ、音楽かっけえ』みたいな感じかな。バンドを組んだのは中学校だね。みんな演奏できなかったから、バンドを組むために教えてたね。(レミオロメンの)『粉雪』とか。沢尻(エリカ)パイセンの『1リットルの涙』がはやってたから」

綾野「アスリートと呼ばれる人たちに大きい影響を受けながら、同時進行で音楽にも入っていって。当時って、BRAHMANとかハイスタ(Hi-STANDARD)とかがはやってて、海外のものだとオフスプリング、NOFX、グリーン・デイの3強みたいな感じだったとき、なぜか俺は、ニルヴァーナとかマンソン(マリリン・マンソン)とかに行ってた。日本のアーティストだと、もうhide with Spread Beaver。何か軍隊みたいな集団力がすごく魅力的でまぶしかった。PVを見るために、わざわざカラオケに行って。親の前では見れないR18みたいな感覚で、なんか初めて性を知っていくみたいにドキドキした感じがあった」

しっかり立っていれば、同じような感覚のやつが集まってくる

「一番の挫折」という質問に対する答えからは、常田がクリエイティブチーム・PERIMETRONとしても活動しはじめた動機がうかがえた。PERIMETRONはKing GnuのMVの制作も手がけている。

常田「俺、なんか順風満帆にやってきたみたいな感じに思われるけど、全くそうではない」
綾野「挫折は隣人として存在してることによって、いい意味の臆病さを持てたりするし、俺にとってはわりとポジティブなワードだね。ただ、セリフが出てこなくなったことがある。『ありがとう』っていうセリフすら。2カ月間くらい続いたね」
常田「その状況、どう抜けられたの?」 
綾野「何か大きなきっかけがあったっていうよりかは、自分じゃない誰かをちゃんと信じたっていうことかもしれない。現場の人たちは家族みたいなもんだし、総合芸術だから自分ひとりで闘ってるわけではない。左右を見れば、同じところでみんなが前に向かい、刀を構えてるような状態で一緒に闘ってくれてるじゃないか、と。そっからかな」
常田「俺は、最初は全部自分でやってたから、人と一緒にやることに挫折と似たような経験はあるね。MV作るときに、出来上がりに全然納得できなくて、『こうしたほうがいい』みたいなこと言ったら、ディレクターに『なんで映像畑じゃないやつに言われなきゃいけねえんだ』みたいなこと言われて。若い頃、その類いの揉め事は日常茶飯事だった。一緒に作品を作るってことが、こんなに大変なことなんだ、って。自分でできることは自分でやるってことに戻るきっかけになったかな。でも、そこにひとりでしっかり立ってれば、同じような感覚を持ったやつがちゃんと集まってきて、いいほうに転びだしたな、その時期くらいから」

闇と光を行き来している

「幸せを感じる瞬間」について聞くと、綾野も常田もクリエイティブに関するシーンを挙げた。作品を通して、喜びに満ち溢れる瞬間も、高揚する瞬間も、涙を流す瞬間も、ふたりは共有してきた。

綾野「一番ビビッドに幸せを感じるのは、仲間が新しい作品を発表したときに受ける刺激というか高揚感というか。たまんないよね」
常田「身内がかっこいいことをやってるとか、かっこいいものを作ってるとか、すごい躍動してるのを見るのは幸せだよね。『ヤクザと家族』の映画の主題歌のオファーをもらって、オフライン(仮編集映像)を見たときは幸せを感じたね。理想として思い描くクリエイションができない20歳ごろの自分と今を比べて、『こんな最高の映画と関われる環境になったんだ』ってすごい幸せを感じたね」
綾野「初めて『FAMILIA』を聴いたのはカフェで。『剛ちゃん、まだ完成してないけど、できたから聴いてよ』なんて言って。聴き終えて俺がぽろぽろ泣いてたら、『けへへへ』とかって笑われて。で、試写を大希と一緒に見たとき、『明かりついて俺泣いてたら、また大希に笑われる』と思ったから、涙を拭いて。明かりついて、『大希よかったね』って言ったら、大希が大号泣してて。あんときは幸せを感じた」
常田「こういう仕事やってても、なかなかそういうことってないからね。やっぱ作品ができたときに満足できることが幸せじゃない?」
綾野「涙と笑顔って限りなくフィフティーフィフティーの存在であると思ってるから、あのとき、その両面が互いに見れたのは、やっぱものすごく幸せなことだよね。多面性の幸せも感じるけど、局面性で自分たちの仕事で幸せを感じることが、きっと一番の幸せだから」
常田「いや、いい経験だった、ほんと」
綾野「光のないところに人は集まらない。でも、闇でしかクリエイティブは生まれない。だから、闇と光を行き来してるだけ。でも、まずは楽しむために、自分たちは本気で向かい合う。うまい飯を食って、同じ釜の飯を食べて、最高の作品をつくるために、環境から変えていける努力をしていく。そして、新しい世代とかもいる。エンターテインメントを続けていくことの喜びみたいなものを、自分たちがまず感じてないと誰にも伝わらない」

綾野はミュージシャンと関わることが多い。常田と他のミュージシャンの違いを聞くと、「そもそも一緒の人間は誰ひとりいないですよ」と語気を強めた。

綾野「僕は30代前半ぐらいの、もう好きなものも構築されつつあるときに、大希がやっていたSrv.Vinciにアンチエイジングじゃないけど、活性されたんです。彼が作った音楽で自分は自分の構築から解放された。millennium paradeもKing Gnuも、このまま肉体が朽ち果てるまで、自分の魂に残る音楽だと思って向き合ってます。すごく単純なことなんです、人に寄り添えるかどうか、優しくできるかどうかなんです。だけど、皆さんそうじゃない瞬間も人生にはあったでしょう。そんななかでも、大希は、それさえも感じさせないものがあるんです。『何かちげえな』って思ったって、彼はたぶん向き合うことや寄り添うことを諦めない。個々別々が人間ですから、我々自身も全部わかってるはずないんです。だからこそまず寄り添っていかないと何も始まらない。それがクリエイティブの原点だと思っています」
常田「(照れくさそうに)うれしいですね」
綾野「この対談を見た人たちが、この状況の中でも、少しでも楽しいな、幸せだなって思ってくれる時間が、機微が増えたら幸いです」

綾野剛(あやの・ごう)
1982年生まれ。2003年に『仮面ライダー555』(テレビ朝日)で俳優デビュー。2012年に連続テレビ小説『カーネーション』(NHK)、2020年に主演ドラマ『MIU404』(TBS)に出演。2014年の主演映画『そこのみにて光輝く』、2016年の映画『怒り』などで数々の賞を受ける。

常田大希(つねた・だいき)
1992年生まれ。2015年にSrv.Vinciとして活動を開始、2017年にKing Gnuに改名。2019年には音楽ユニット・millennium paradeとしての活動を開始。クリエイティブチーム・PERIMETRONも主宰している。

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常識を疑い、固定観念を覆す人たちがいます。自らの挑戦によって新しい時代を切り開く先駆者たちが座るのが「RED Chair」。各界のトップランナーたちの生き方に迫ります。


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