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クオ=ヘン・ホアン

肥大化した権力「GAFA」の脅威――警鐘鳴らす米教授

2019/01/29(火) 08:04 配信

オリジナル

グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン――いずれも米国生まれの大企業で、いまや私たちの生活から切り離せない4大プラットフォーマーへと成長した。それぞれの頭文字をとって「GAFA(ガーファ)」とも称される。GAFAの分析を長年続けてきた、ニューヨーク大学スターン経営大学院のスコット・ギャロウェイ教授は、その強さに感服しつつも、あまりの影響力の大きさに警鐘を鳴らす。(インタビュー:津山恵子、写真:クオ=ヘン・ホアン/構成:Yahoo!ニュース 特集編集部)

「いいね!」に病みつきになり、コメントに傷つく

ギャロウェイ教授は、日本を含む22 カ国で刊行されている著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』のなかで、4強をヨハネの黙示録の四騎士に例えた。剣や飢饉などで「地上の人間を殺す権威」を与えられているという存在だ。恐ろしい騎士の挿絵まで入っている。便利な検索(グーグル)と無数の商品が選べるオンラインショッピング(アマゾン)、世界の友人をつなげるプラットフォーム(フェイスブック)に、未来性を常に追求するコンピューター(アップル)のどこが、「地上の人間を殺す」のだろう。2018年末、ギャロウェイ教授にニューヨークで話を聞いた。

――4社をまとめて四騎士に例えて警告を発する書は、珍しい存在です。そもそも、なぜこの本を書こうと思ったのですか。

「もともと私は、4強のことを気に入っていました。パフォーマンスが抜群な、彼らの株式も所有していました。私の学生の最大の就職先がアマゾンで、これまでに170人が入社しています。就職先の2位、3位はフェイスブック、グーグルです。だから、私はこの本を『ラブレター』として書き始めたのです。でも2年間を分析とリサーチにかけた結果、ラブレターは『警告の書』となりました」

――引き金になった個人的な体験があったのですか。

「11歳の息子とビーチにいて、逆立ちするところをビデオで撮り、YouTubeに公開したことがありました。すぐに『いいね!』がついたので、『誰かがいいね!って言ってるよ』と言ったら、『いいね!って何?』と息子。その後7日間、彼は15分ごとに私にYouTubeへログインしてと頼むようになりました。『いいね!』がいくつついたか知りたくてたまらなくなったのです」

「まさに一瞬で、息子はYouTubeに病みつきになり、さらに誰かが残した意地悪なコメントに打ちのめされました。そのとき思ったのです。こんな短いビデオが、誰かのドーパミンを刺激し虜(とりこ)にすると同時に、匿名やボットかもしれない心ないコメントで息子が傷ついた。これが世界10億人以上に起きている。これがソーシャルメディアの世界だ、と」

4強のサービス・製品は、私たちを虜にしているばかりでなく、空前の富を稼ぎ出している。つまり、ギャロウェイ教授自身を含むたくさんの株主を潤してきた。また、世界トップクラスの人材を雇い、新たな雇用も創出している。しかし、ギャロウェイ教授は、4大企業に「別の顔」もあることを発見した。

「私は、権力の腐敗を目の当たりにしました。政府の規制が有効に機能しないなか、4強は中小企業を滅ぼし、(米国の)売上税を払うのを回避しています。(2016年米大統領選挙ではロシアに悪用されたフェイスブックが)選挙のあり方さえ危うくしました。民主主義をむしばむほどの影響力を持つ、そんな肥大化した4企業に私たちは囲まれています」

「それだけではありません。欧米社会で、4強はもっと危険な傾向を助長しています。つまり、人となりや寛容さよりも、テクノロジーと億万長者を評価し崇拝するようになりました。つまり、私たちこそが4強の肥大化を許してしまったのです」

「フェイスブックに絡むケンブリッジ・アナリティカのスキャンダル(注:2016年にフェイスブックの8700万の顧客データが漏洩し、共和党のトランプ大統領候補=当時=の選挙陣営がそのデータを使ったとされる)が浮上したのは、フェイスブックが何のセーフガードも講じようとしなかった表れです。もしシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)が魅力的な女性リーダーでなかったら、もしマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が現代の稀有なイノベーターの一人でなかったら、連邦地検は彼らの訴追を本気で検討したでしょう」

女性ビジネスリーダーを象徴する人物の一人として取り上げられることも少なくない、フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(写真:ロイター/アフロ)

「ダース・ベイダー」が率いるGAFA

――なぜ4強に対して、人々がそんなに寛大になってしまったのでしょう。

「彼らは、進歩的でリベラルな思想を支持しています。サンドバーグは、男女平等について、そして夫の死について非常に雄弁に語り、皆が耳を傾けます。アップルのティム・クックCEOは、フォーチュン500社の現役トップとして初めて、同性愛者であることを公表しました。グーグル創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの2人は、移民です。大衆のリベラルに対する見方は、無害で親切で優しい人たちというものです。彼らは世界をもつなげています。でも現実は、羊の衣を着た狼、『ダース・ベイダー』なのです」

アップルのティム・クックCEO(写真:ロイター/アフロ)

――2016年の米大統領選の後、フェイク広告などをめぐって、フェイスブックのザッカーバーグCEOが、連邦議会に召喚されました。でも公聴会では、ザッカーバーグには余裕があり、議員側はまったく追い詰めることができませんでした。

「フェイスブックに限らず4強は、ワシントンでのロビー活動を怠ったマイクロソフト(注:独占禁止法違反を巡り欧州連合=EUに課徴金を支払った)からの教訓で、その分野にすごく投資をしています。アマゾンは、フルタイムのロビイストがワシントンに88人もいます。イノベーターに対する世間の崇拝が強いので、広報部隊もそれをうまく利用しています。フェイスブックでは、2万4000人の社員のうち600人がパブリック・リレーションズの人員です」

米下院の公聴会で質問に答えるフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(写真:ロイター/アフロ)

「これに対し、選挙で選ばれる政治家のうちほんのわずかしか、テクノロジーやエンジニアリングのバックグラウンドがないのです」

――お話からすると、『GAFA』を書かれた当時よりも4強に対してより厳しい意見をお持ちですね。テクノロジーに詳しい政治家の選出が大事と思われたのは、2016年の米大統領選がきっかけですか。

「そうですね。選挙期間中にプラットフォームが悪用されないよう、基本的なセーフガードを設定することをフェイスブックが拒否していたと分かったときです。フェイスブックは、私たちの社会の絆を引き裂く(フェイク)広告を受け入れ、その広告費はルーブルで支払われたのです」

「4強の行動が、民主国家の利益と相反することもあります。アマゾンが、米国で第2本社の候補地を探す案を打ち出したのもその例です。結局ニューヨークとワシントンという大都市に決定しましたが、地元の雇用を拡大したい地方自治体が、住民の税金と人員を使って、誘致コンテストに殺到し、最終的にそのお金はアマゾンと株主の懐に入っていくわけです」

アマゾン第2本社の建設が決まったニューヨークでは、大規模なデモが起きた(写真:ロイター/アフロ)

インスタ買収を許したのは政府の失態だ

――米国は、AT&T分割など規制の歴史があります。4強も分割すべきですか。

「4強は、雇用を生み出し、他のビジネスとのエコシステムを創造し、株主に利益をもたらす、感嘆すべき企業です。でも彼らの影響力をそぐべきです。それができるのは、独占禁止法違反訴訟だと、私は思います。過去10年における米政府の最大の失態の一つは、フェイスブックにインスタグラムとWhatsAppの買収を許したことです」

ニールセンの調査によれば、米国でフェイスブック、フェイスブック・メッセンジャー、インスタグラムは、人気スマホアプリの上位を占め、それぞれ第1位、2位、8位だという。ユーザー1人あたり、1日50分を、このソーシャルネットワークに費やしている。また、何かの商品を探している人の55%が、まずアマゾンで調べているというのだ。

「私たちの生活で、ある考えを行動に移す場合、多くは検索が元になっていますが、グーグルが、その検索の大部分を占めています。『政府を変えるにはどうしたらいいか?』『銃を製造するにはどうしたらいいか?』などというキーワードをタイプすることが膨大な回数で起き、人々の行動を左右している一方で、その答えをはじき出す検索アルゴリズムが極秘事項のままというのは不健全でしょう」

(写真:ロイター/アフロ)

「アマゾンも電子商取引の50%以上を独占するべきではありません。独占が不健全なのは、たとえば音楽配信サービスを見てもわかります。Spotifyのほうがアップル・ミュージックよりも優れていると思いますが、後者は10億ものiOS端末にあらかじめ組み込まれているがゆえに急成長しています」

――4強を分割したら、どんなことが可能になるのでしょう。

「独禁法違反を争えば、私たちはもっと幅広い税収を得ることができて、売上税を免れる者もいなくなり、さらなる競争、雇用、合従連衡が生じてくるでしょう。フェイスブックも例えば4つに分割して、その中の1社が広告収入を上げようとしたら、他のところよりもセキュリティーに多く投資し、外国政府にプラットフォームを武器として使われないようにするでしょう」

「グーグルが分割されれば、YouTubeは動画ベースの検索エンジンになるでしょうし、数年で検索市場の大きなシェアを得る、つまり検索に2つのプラットフォームが生まれるわけで、それはいいことでしょう」

「資本主義は、競争です。競争的なマーケットを創造する鍵は、誰も肥大化した権力を持たないということです」

ソーシャルメディアは「10代のたばこ」

――息子さんの例を話されましたが、ユーザー側として次の世代は何に注意したらいいのでしょう。

「昔と異なり、友人のパーティーに呼ばれなかった場合、部屋に1人でいてリアルタイムで他の子がパーティーに行っているのがわかってしまう時代です。米疾病対策センター(CDC)の調査で、ソーシャルメディアが特に10代女子の自殺率の増加に影響しているというデータもあります。フェイスブックやインスタグラムは、年齢確認を行うべきです」

「私自身はフェイスブックはあまりやりませんが、ツイッターはよく利用しています。『ドーパミン袋』というのが、私のポケットに入っていて、他人に認められることが好きなのです。ツイートやビデオをアップしたら、毎時間チェックして『いいね!』がどのくらいついたか見てしまう。つまり私は中毒なのです。でも大人なので、それが良くないことはわかっているし、抑制もできます。でも、私が12歳だったらどうでしょう」

「ソーシャルメディアは、10代のころのたばこです。吸いすぎると、がんになります。ソーシャルメディアのがん細胞、あるいはニコチンは、『広告モデル』です。再考もしない、人格もない、礼節もない、単にクリックを増やすことにしか関心がない広告モデルです。そして、最も素早く広告のエンゲージメントを高めるのが、怒りを使うことです。それがさらなる怒りと分断を引き起こします。私たちは、ビジネスモデルが怒りへと導かれる中毒性の薬物に日々接しているのです」

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

――ユーザーが使っているときに気をつけることはありますか。

「発信と発言に責任を持つということです。YouTubeでも、誰もが自分の顔と名前を示してコメントしていたら、私に対する反ユダヤ主義的な反応は激減するでしょう(注:ギャロウェイ教授は、米国生まれのユダヤ系)。しかし、それ(実名化)をやったらツイッターの株価は、1桁ドルになりますが」

リスク、そして移民を受容する文化が必要だ

――4騎士の肥大化は、ドラマチックな成長あってこそです。こうした成長を生む背景には何があるのでしょうか。

「テクノロジー企業が急成長した要因には、リスク・テイキング・カルチャーと起業家精神があります。私は9つのビジネスを起業して、失敗も成功もありました。米国では、失敗はキャリアを終わらせる傷にはならず、セカンドチャンスがある、将来があると受け止められます」

「もう一つは、世界最先端のエンジニアリングの大学があるということです。グーグルはスタンフォード大学から、フェイスブックはハーバード大学から自転車で行ける距離の所で誕生しました。移民を受け入れ、世界からの才能を集めて、誰も作ったことがないものを生み出すという文化が必要です」

スコット・ギャロウェイ
1964年生まれ。ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。MBAコースでブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。連続起業家(シリアル・アントレプレナー)としてL2、Red Envelope、Prophetなど9つの会社を起業。ニューヨーク・タイムズ、ゲートウェイ・コンピュータなどの役員も歴任。YouTubeで毎週公開している動画「Winners & Losers」は数百万回再生を誇るほか、TED「How Amazon, Apple, Facebook and Google manipulate our emotions(アマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルはいかに人間の感情を操るのか)」は200万回以上閲覧されている。GAFAの成長と脅威を分析した著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』が、22カ国で刊行されている。


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