幸田大地

住宅街や東京五輪会場の近くにも…… 原発事故に伴う「指定廃棄物」 処理の行方見えず

11/20(火) 6:46 配信

千葉県柏市の住宅街近くで、2020年東京オリンピックの会場から2キロも離れていない場所で……。東京電力福島第一原発の事故で発生した放射性物質を含む廃棄物(1キログラム当たり8000ベクレル超)が、首都圏でも行き場のないまま一時保管されている。ゴミの焼却灰や汚泥といった汚染廃棄物は、11都県で計21万トン。「政府が処理する」の約束は大半が果たされぬまま、7年半が過ぎた。一方、除染で出た「汚染土」を袋から取り出し、全国の道路や農地造成などに使えるように、という動きも環境省主導で始まった。「汚染土のほとんどは再利用可能」と同省は言う。汚染土も放射性セシウム濃度を低減したうえで土砂やアスファルトで覆う「安全な利用方法」があるからだ、と。これらは本当に実効ある措置なのか。終わりの見えない原発事故の後始末。その現場を追った。(青木美希/Yahoo!ニュース 特集編集部)

8000ベクレル超 柏市の住宅街近くで保管中

増田則政さん(65)の自宅は千葉県柏市の住宅街にある。市の清掃工場「北部クリーンセンター」から200メートルほどしか離れていない。利根川に近く、周囲には大小の公園やゴルフ場、高校、寺院などもある。その清掃工場に約500トンの「指定廃棄物」が保管されたままになっていることを、多くの人は忘れているかもしれないと増田さんは言う。

「一刻も早く、この場所からなくなってほしいんですけどね」

放射性物質で汚染された指定廃棄物を保管している千葉県柏市の施設(撮影:幸田大地)

増田則政さん(撮影:幸田大地)

「指定廃棄物」は放射性物質汚染対処特措法に基づき、環境大臣が指定する。福島第一原発事故由来の放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル超の焼却灰や汚泥、稲わらなどを指し、最終的には国が責任を持って処分する仕組みだ。

事故当時、放射性物質の一部は気流に乗って千葉県北西部にも到達し、雨などの影響もあり、一帯の放射線量は上昇した。柏市のものは、枝や草などの一般ゴミを燃やして放射性セシウム濃度が高くなった「焼却灰」だ。2011年6月には1 キロ当たり7万800ベクレルが検出されている。

北部クリーンセンターの「仮保管庫」は鉄筋コンクリート製だ。奥行き41メートル、幅6 メートル、高さ3.5メートルの箱形で、厚さ30センチの壁は遮蔽率99%だという。それが2基。市の資料によると、そこに置かれた指定廃棄物は、事故後おなじみになった黒いフレコンバッグで702袋分になる。

柏市北部クリーンセンター。右側の箱形のコンクリートが仮保管庫。周辺には田園風景が広がる(撮影:幸田大地)

増田さんは「仮保管庫は地震や竜巻で壊れるかもしれない。そのときには、すぐ住民に知らせてもらえるのだろうか」と話す。

仮保管庫を使った指定廃棄物の保管は2015年3月に始まった。住民の間には子どもたちや農家などへの影響を懸念する声が強く、増田さんら住民は強く反対していたという。

仮保管が始まると、増田さん家族は線量計を身に付け、計測を始めた。2015年4〜11月の値は年換算すると0.7~0.8ミリシーベルト。柏市から届いた文書には、日本平均の自然放射線量は外部被曝で年0.63ミリシーベルトと書かれていた。だから、計測結果は問題になる値ではないと思ったが、「何かあったときは……」という不安は消えない。

柏市内にはこの他に2カ所の保管場所がある。さらに千葉県内では今年3月現在、柏市のほか、松戸、流山、我孫子、印西、東金、市川、八千代、野田の計9市に計約3700トンの指定廃棄物がある。

増田さんの孫の遊び道具(撮影:幸田大地)

増田さんが役員を務める町内会などは「確認書の締結後、3年が経過した時点で国による最終処分場確保のめどが立っていない場合は、今後の対策に関する協議を行う」という確認書を市と交わしている。今年2月にその期限は来たが、先行きは何も見えない。

「“仮”というのは1~3年じゃないですか。何年になるか分からないというのが一番困る。えらい心配です」

隣家には娘家族がおり、4歳の女児がいる。増田さんの自宅には、孫の大好きなおもちゃやトランポリンが置いてある。

東京・お台場エリアの近くにも

柏市のような指定廃棄物は現在、岩手県から静岡県まで11都県に存在している。では、東京都の指定廃棄物はどこにあるのだろうか。

東京湾沿いの江東区青海にある「りんかい線」の東京テレポート駅か「ゆりかもめ」のテレコムセンター駅から路線バスで10分ほど行き、さらに車で数分。そこに指定廃棄物は積み上がっている。「新夢の島」から東京ゲートブリッジを渡った先の「新海面処分場」の一角だ。

海を隔てた向こうに羽田空港の管制塔が見える。お台場ともそう離れていない。

東京都の湾岸エリア。右下のレインボーブリッジとつながるのが「お台場」エリア。その向こうで、海に浮かんだように見える部分に東京都の「新海面処分場」はある(写真:アフロ)

この10月、取材で現地を訪れ、職員に案内してもらった。

一般の立ち入りが禁止された場所に、黒っぽいシートに覆われた“小山”があった。長さ150メートル、幅6.2メートル、高さ2メートル。一時保管する東京二十三区清掃一部事務組合によると、この巨大なシートの内側にはフレコンバッグが2段重ねになっている。また、放射線を遮蔽するために厚さ30センチの土がシートとフレコンバッグの間に盛られているという。

これらの指定廃棄物は、江戸川区の「江戸川清掃工場」で発生した。原発事故の後、一般ゴミを焼却した際に出た灰のうち、1キロ当たり8000ベクレル超になったものを集めた。最大1万3000ベクレル近くで、計981トン。そこから2キロ足らずの場所では、都が「海の森水上競技場」の建設を進めており、2年後の東京五輪ではボートやカヌーの競技会場になる。

シートに覆われた「指定廃棄物」。内側ではフレコンバッグが2段重ねになっているという(撮影:幸田大地)

政府のスキームによると、指定廃棄物については環境省に最終処分の責任がある。福島県内で出た指定廃棄物は富岡町の処分場で埋め立て。ほかの都県のものは、それぞれの都県のエリア内で処分する決まりだ。

加藤徹也管理課長は「周囲の放射線量に影響がないことは測定して確認しています。最終的には国が(別の場所に)持っていってくれる、という話なので……」と言う。

ところが、環境省の担当職員はこう説明した。

「都内には、国が新設の(指定廃棄物の最終的な)処分場をつくる予定はありません。どこか既存の処分場で処分するということになるのでしょうが、どうなるか分かりません。(放射能の)自然減衰で8000ベクレルを下回れば、指定廃棄物の指定を解除して(一般の廃棄物とし)、その廃棄物がある自治体の責任で処分するという選択肢もありますから」

「指定廃棄物」が置かれた施設。一般の人は立ち入りできない=東京都(撮影:幸田大地)

ほかの県でも、「国による処分」は進んでいない。

宮城、栃木、千葉の3県では、処分場予定地近くの住民が強く反対し、建設の見通しは立っていない。環境省は、茨城県と群馬県については地元の意向を踏まえ、「自然減衰で8000ベクレル以下になるのを待って自治体や事業者などが既存の処分場などで段階的に処理することを目指す」ことを決めた。

セシウム137の半減期は30年だ。指定廃棄物の放射性セシウム濃度の自然減衰について、環境省が昨年3月に公表した試算がある。茨城県では、指定廃棄物3643トンのうち、2026年に8000ベクレル超は0.4トンとなり、現在の0.01%にまで減少する。一方、同じ年になっても千葉県の3690トンは、4割が8000ベクレル超だという。

「自然減衰で8000ベクレル以下になるのを待つ」といっても、各県の推計値には大きな差がある。

汚染土を「安全な方法で使ってもらう」

指定廃棄物とは別の汚染物質の問題も持ち上がっている。「除染」で集められた大量の汚染土。それをいったいどうするのか、である。

福島県内の汚染土は、全て双葉町・大熊町の「中間貯蔵施設」に入れることになっている。最大2200万立方メートルと見積もられており、10トントラックに積載可能な土砂を1 台約6立方メートルとすれば、約370万台分という途方もない量になる。政府はさらにこれらを県外の最終処分場に運ぶ、としている。

福島第一原発の入退域管理施設内。おびただしい数のマスクと、放射性物質の付着を防ぐための道具が用意されていた=2016年3月(撮影:幸田大地)

この現実を前にして、政府は2015年、「汚染土のうち最大で約99.8%は再利用できる」という試算を公表し、再利用先は公共事業などとした。原子炉等規制法は、廃棄物の再利用基準を1キロ当たり100ベクレル以下と定めているが、この再利用には同8000ベクレル以下の汚染土を使用。土砂やアスファルトで覆うなどの対策を講じて、住民や作業員の追加被曝線量が年1ミリシーベルトを超えないようにするとした。

翌年にはこれに関する「工程表」も示し、2017年度には「再生利用先の具体化」「再生利用の順次開始」といった方針を打ち出した。利用先は道路の盛り土や農地(園芸、資源作物)などだという。

環境省の担当者は言う。

「除染のため取り除いた土を安全な方法で使うことができるとして、全国の自治体などに『使わないか』と持ち掛けていくことになります。(使う側のメリットは)土が無料で手に入ることではないでしょうか。(事業によっては)2億円ぐらいの節約になる場合もあるのでは」

土の中から「汚染土」を掘り起こし……

同じ汚染土でも、福島県外の場合は、国ではなく各市町村が処分の責任を持つ。再利用か、埋め立てか。その決断を自治体が迫られる構図だ。

保養地として知られる栃木県那須町で今年10月24日、ある「検証事業」が始まった。事業主体は環境省で、場所は伊王野(いおうの)地区の「山村広場」。かつて中学校があったこの町有地は、サッカーや野球などを楽しめる場所となっている。

「汚染土」を掘り起こすなどした伊王野地区の「検証事業」(撮影:幸田大地)

那須町での検証事業について語る町民たち(撮影:幸田大地)

検証事業は、こういう内容だ。

山村広場内のテニスコート跡地に、約350立方メートルの汚染土が袋に入れて埋めてある。まず、これを重機で掘り起こして取り出し、その跡地に遮水シートを張る。そこに汚染土を袋から取り出して埋め直す。一方、汚染土の浸透水は、貯水槽に集める。その水のセシウム濃度がもし一定の基準を超えていれば、「吸着槽」を使って濃度を下げ、そして基準値未満にして「側溝」へ流す。

これらの「検証」で安全性を確認できれば、福島県外の自治体が自ら汚染土の処分ができるように制度を整える、という枠組みだ。

ところが、実験で使う「側溝」は、天然鮎で著名な那珂(なか)川につながっている。豊かな自然環境で名を馳せる「那須」にとって、マイナスではないか――。今年1月に環境省が発表するまで、この事業を知らされていなかった町民の一部は強く反対した。

平野富子さん。母校の中学校の跡地に「汚染土」が埋められ、掘り返された(撮影:幸田大地)

この地区で農業を営む平野富子さん(68)は、かつてこの場所にあった中学校の卒業生である。

「まさか母校(の跡地)がこんなことになるとは思いませんでした。野生のタラノメなどの山菜も放射能の影響で出荷制限のままです。ただ、高齢化も激しいから『おれは先が短いから食べてもいいんだ』と言う人もいます。『お上が大丈夫というのだから大丈夫』という雰囲気もある。何も言えない地域だからここが(実験の場所に)選ばれたのではないですか。私は水について心配です」

「汚染土」で舗装道造成も 各地で「再利用」実験

福島県の二本松市でも今年、汚染土を使って山間部の未舗装の市道を整え、舗装する実験が計画された。そばに住む牧師の金基順さん(52)はこの春、犬の散歩をしていた農家の高齢女性に「この辺に道路つくるらしいよ。汚染土を使って」と言われた。自宅から300〜400メートルほどの地点だ。全く知らず、驚いたという。

福島県二本松市の金基順さん。牧師(撮影:幸田大地)

4月中旬の住民説明会に顔を出すと、地域の21世帯すべてから参加者が来ているのが見えた。環境省や市の職員らも参加し、会場はいっぱい。担当者はそこで、「近くの仮置き場内に置かれた(汚染土入りの)大型土嚢(どのう)約500袋を破って、異物を除去し、路床に使います。そのうえで舗装道路にする実験です」と説明した。

延長約200メートルの道路は行き止まりで、そばには民家がある。周囲にはキュウリ畑や田んぼが広がり、水も流れている。夏にはホタルも飛ぶ。典型的な日本の農村地帯だ。

説明を聞きながら、金さんは「せっかく除染で取り除いた土をどうして再び袋から出して使うのか。あり得ない」と思ったという。

「福島の農産物にまた影響が出て、福島から離れる人が増えてしまうかもしれません。各地で使われだしたら、海外でも『日本全国が汚染されている』と思われかねないのではないでしょうか」

「汚染土」を使った舗装道造成が予定された二本松市の道路(撮影:幸田大地)

この説明会からおよそ10日後、次の説明会があった。地区には実験に賛成の住民もいる。目を合わせないようにする近所の人もいた。金さんと同様に反対意見を言う人もいた。「農産物が売れなくなっても補償してくれるんだったらやってもいいよ」という声もあったし、反対意見に「そうよ、そうよ」と同調する声も上がったという。

その後、SNSなどで反対の声は全国に広がり、約5000筆の署名が環境省に提出された。すると、同省は6月下旬、二本松市長に対し「複数回の説明会において、風評被害への懸念など多数のご意見をいただいた」として実験の再検討を伝達し、この件はひとまず幕が下りた。

原発事故で生じた、行き場のない放射性物質を含んだゴミはまさに「やっかいもの」(環境省幹部)だ。それをどうするのか。

二本松市や那須町の実験だけではない。南相馬市では、汚染土を使った試験盛り土が完成し、飯舘村では汚染土を農地造成に使う実証事業が始まった。そして「工程表」に沿って、全国で汚染土を使ってもらうべく、環境省はたんたんと、だが着実に事業を進めている。

「汚染土」を掘り返す現場=那須町(撮影:幸田大地)


青木美希(あおき・みき)
新聞記者。1997年、北海タイムス入社。休刊にともない北海道新聞に入社し北海道警裏金問題を手掛ける。その後、朝日新聞社へ。原発事故を検証する「プロメテウスの罠」企画に参加、「手抜き除染」取材に取り組む。いずれも取材班は新聞協会賞を受賞。近著『地図から消される街』(講談社現代新書)は、貧困ジャーナリズム大賞2018、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞を受けた。

写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝


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