AERA編集部

血のつながりが自由をはばむ そして、親子になる

2016/2/24(水) 17:55 配信

家族だからこそ、ぶつかることもある。誰もが最も居心地のよい理想郷を、無条件に家族に求めるからだ。甘え、支配、遠慮、期待。いい親になりたい、親孝行な子でありたい、「幸せな家庭」に見られたい。家族をめぐるややこしさは、何から生まれているのか。
(ライター 大塚玲子/Yahoo!ニュース編集部・AERA編集部)

血のつながった子はいらない

ある地方都市に住む男性(49)は、祖父の代から続く家業を継いでいる。過疎化と不況で業績が右肩下がりになっても、長男として家業と実家を守り続けてきた。だが、その努力は自分で終わりにするつもりだ。

「血のつながった子どもはほしくない。跡取りという理不尽な十字架を、子どもにまで背負わせたくないんです」

大学進学で上京し、大手企業に就職したが、30歳を目前にして父親から突然、「地元に戻って家業を継げ」と言われた。幼い頃から、言うことをきかないと容赦なく殴ってくる父だった。すでに経済的に自立していたから、その父に逆らい続ける選択もできた。自由と家族、どちらを選ぶか。地方出身で長男という同じ立場の同僚や先輩に尋ねて回った。跡取りにならずに済んでいるのは、男兄弟がいる人ばかりだった。「親を捨てた罪悪感にさいなまれることになるよ」。上司の言葉に背中を押され、Uターンの道を選んだ。

イメージ:アフロ

結婚だけは自分で決めたかったが、相手の女性に離婚歴があり、連れ子がいることに両親は難色を示した。一方、自分にとっては、血のつながりのない子どものほうが気楽だった。「人様の子をお預かりしているような感覚」で接することができたからだ。実の子だったら、父のように殴ってしまっていたかもしれなかった。しかし妻は子どもをもう一人ほしがった。夫婦関係がぎくしゃくし、離婚した。またも、両親が望んだ通りになってしまった。

人生を親に捧げる牢獄

両親はいま80代。待ち受けるのは介護と跡取りの問題だ。再婚を迫られているが、もう二度と「家族」なんてつくりたくない。人生とは、自分の意志で決められるものだと信じていた。それがどうだ。結局は年老いた両親の面倒をみて、彼らの希望に沿うことが求められる牢獄のような生活だ。そうでない自由な人生を選ぼうとすると、親不孝者とみなされる。

「子どもが親に人生を捧げるのは当然だという世間の目に今さら気づき、苦しんでいます。いっそ初めから父の名の字を継承させ、跡取りとしての人生を疑うことのないように育ててほしかった」

東京都内で長女(0)を育てる主婦(30)は、出産をきっかけに母親(53)との関係について考えるようになった。

父が公務員だったため、母は地元では珍しい専業主婦だった。家事と育児に専念し、子どものあらゆることに干渉してきた。宿題を間違えると怒鳴られ、勉強に差し障るからと部活や習い事でスポーツをすることは認められなかった。友達との関係がうまくいかなくなると、「クラスで孤立するのは許さない!」と責められた。就職は公務員か一部上場企業でなければ認めてもらえず、親戚に相談しても「親を恨むなんて」と一蹴された。

まだ娘は生後5カ月だが、自分も母のように、娘に過剰に干渉するようになったらどうしよう、という不安が頭をよぎる。かといって無関心のままでいるのも、お受験の情報戦から取り残されてしまうかもしれない焦りがある。自分にとって母親は一人だけ。子どもとの関わり方の「正解」がわからない。

イメージ:アフロ

里親の条件は「育児に専念」

「子どもを、返してほしいんです」

6歳の男の子を育てる夫婦のもとにある日、産みの親を名乗る女性から電話がかかってくる。小説『朝が来る』(辻村深月著)には、2人の母親が登場する。血のつながった子どもを生後すぐに手放した女性と、不妊治療の末に特別養子縁組で母親になった女性だ。

事情があって血のつながった親と暮らせない子どもには、血縁ではない親子関係として、里親制度がある。養子縁組を前提とした里親もあり、児童相談所や民間団体が斡旋する。厚生労働省などによると、2014年3月末時点で里親委託されている子どもは5629人おり、委託率は15.6 %、実の親子関係を消滅させる特別養子縁組が成立したのは、年間500件ほどだ。

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里親の認定基準は主に年齢や年収、住居面積などで、詳細は自治体や団体によって異なる。2015年にNHKが実施したアンケート調査では、全国67の都道府県や政令市のうち42%が、夫婦どちらかが育児に専念することを求めており、共働きの場合は里親になれないといった制限を設けていると回答した。

共働き家庭が6割に迫る今、この条件が、安心して過ごせる居場所を必要とする子どもと、子どもを育てたい大人をつなぐことを阻んでいる。里親の問題に詳しい、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗さん(40)はこう話す。

「専業主婦がたくさんいる時代ならそれでもいいですが、今はむしろ少数。そのような制限を設けていたら、里親委託が進みません。せっかく里親登録している人が大勢いるのに、実際に里子を迎えているのは4割程度です」

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両立を阻む「現場」の考え方

全国里親会副会長の木ノ内博道さん(65)は、共働き家庭が里親になれない大きな要因として「地方自治体や児童相談所など、現場の考え方が古いこと」を挙げる。

「厚生労働省は現状に沿って、里親が育児と仕事を両立できるように支援を考え始めているのですが、現場はいまだに“専業主婦がいる家庭=標準家庭”という意識のまま。母親は育児に専念すべきという価値観から抜け出せていません」

里親には経済的な安定も求められるが、仕事と育児が両立できる環境が整っているとは言い難い。育児・介護休業法は、法律上の親子関係がある場合のみ、育児休業の取得を認めている。厚生労働省の審議会は2016年1月、特別養子縁組が成立して法律上の親子になる前に試験的に子どもを受け入れる期間中も、育休の取得を認める改正案をまとめた。一方で、事実上の親である里親の育休については除外された。

シングルで親になる

共働き夫婦でさえ難しい状況で、シングルで里親になったのが、村井朝子さん(48、仮名)だ。12年前、生後8カ月だった女の子を里子に迎えてから普通養子縁組をし、共に暮らしている。朝子さんが住む千葉県は、養育里親の認定基準に「必ずしも配偶者がいなくても、里親になることができます」という一文がある稀有な自治体だが、それでもやはり単身者への委託は珍しい。

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朝子さんがシングルで親になれたのには、3つの理由があると考えられる。同居する朝子さんの母親も子どもの面倒をみられる状況にあったこと。職場の理解があり、育児をするために半年間の休みを取れたこと。休み明けから近隣の保育所に預けられる見込みがあったこと。それらの条件に恵まれていなかったら、共働きで子育てをしている家庭と同様、立ち行かなくなっただろう。

朝子さんは「里親になれて幸せ」といったことを自分から言うことはしない。血縁のある親が「親になれて幸せ」とわざわざ言わないのと同じくらい、それは普通のことだから。けれど、娘のことを話す時の穏やかで幸せそうな表情から、家族で過ごす毎日がどれほど大切なものか、伝わってくる。

2016年1月に電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)が20~60代の男女計500人に実施した調査では、「『家族』とは血縁/婚姻関係によって成立するものだと思う」と答えた人が約7割で、日本では血縁を重視する家族観は根強い。一方で、この連載の初回に掲載した「家族と世間が私たちを悩ませる」のアンケートには、最も心配ごとが大きい家族として、配偶者や配偶者の親よりも、実の親や子ども、兄弟姉妹など血縁関係のある相手を挙げた回答が目立った。多くの人が家族との関係性に、家族だからこそ、苦しんでいることがわかる。

Yahoo!ニュースとAERAの特集「結婚は愛かコスパか」では「嫌婚」や同性婚、複数愛なども取り上げてきた。それらは、家族とは何か、を問うきっかけにすぎない。必要以上に「何か」に縛られるあまり、家族の関係に悩んだり苦しんだりしているのだとしたら、ちょっとワガママを言って居心地のよさを追求してみてもいいのではないだろうか。

だって、家族なのだから。


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