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トランプ訪中、主人公はアラベラちゃん

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
トランプ訪中の晩餐会でスクリーンに大写しされた、中国語の歌を歌うアラベラちゃん(写真:ロイター/アフロ)

 皇帝級の扱いを受け、28兆円もの投資協定を結んだトランプ大統領は満足げだった。その陰には孫娘アラベラちゃんの活躍がある。米中両巨頭を演出した習近平国家主席の狙いを読み解く。

◆「国事訪問+」――皇帝級のおもてなし

 第19回党大会が終わると、中国の中央テレビ局CCTVでは、「国事訪問+(プラス)」が画面を埋め尽くした。この「+(プラス)」は「超(スーパー)」という意味で、習近平政権に入ると「インターネット+」など、今までとは違うという意味の「+」が流行っている。

 その「国事訪問+」では、中国の歴代皇帝が住んでいた故宮を貸し切って、習近平自身がトランプ大統領を歓待した。

 清王朝の滅亡とともに、故宮には皇帝がいなくなってしまったわけだが、それ以来、中華民国においても、そして中華人民共和国(現在の中国)においても、建国後、故宮に外賓を招いて夕食会を催したことなどない。つまり、建国後、初めての出来事なのだ。

 それほどスケールの大きな歓待をやってのけたのは、まるで習近平が「紅い皇帝」なら、トランプは「世界の皇帝だ」という位置づけを演出したかったからだろう。

 米国内でバッシングを受けているトランプとしては、悪い気はしなかっただろう。

 こうしてトランプを皇帝の高みにまで持ち上げてから首脳会談に入る。

 そうすればトランプは中国に無理難題を言ってはこない。計算し尽くされた「おもてなし」だった。

◆親中派・イヴァンカさんの娘アラベラちゃんは大活躍

 それに対してトランプは、孫娘のアラベラちゃん(6歳)が中国語の曲を歌っている動画をタブレット端末で披露した。そして「中国語のレベルはどうか?」と聞くトランプに対して「すばらしい!レベルはA+(プラス)だ!」と絶賛したのである。ここで言う「A+」は上述した「国事訪問+」との掛詞だ。

 「こんなすばらしいお孫さんを持って、誇らしいでしょうねぇ」とさらに讃辞を続ける習近平に、トランプは「彼女は実に賢いんですよ……」と照れながらも、孫娘をこよなく愛する満面の笑みを浮かべた。

 この瞬間、故宮の中でお茶を楽しんでいたトランプ夫妻と習近平夫妻は、「家族ぐるみの付き合い」として距離を縮めたのだった。

 そもそもトランプが最も可愛がり信頼している娘のイヴァンカさん(大統領補佐官)は、根っからの親中派だ。3人の子供たちには、物心ついたときから中国語を学ばせている。家政婦さんも在米華人。

 4月の習近平訪米の際には、アラベラちゃんは習近平夫人・彭麗媛がかつて歌っていた国民歌である「茉莉花(モア・リー・ホア)」を中国語で歌って習近平夫妻を喜ばせた。

 この演出をしたのは、キッシンジャーのアドバイスを受けた駐米中国大使・崔天凱(さい・てんがい)だ。キッシンジャーはトランプが大統領に就任する前から崔天凱をイヴァンカとその夫クシュナーに接触させ、トランプを親中に持っていくように仕掛けていた(詳細は拙著『習近平vs.トランプ 世界を制覇するのは誰か』)。

 9日のトランプ歓迎夕食会では、スクリーン一杯に中国語で中国の歌を歌うアラベラちゃんの姿が大きく映し出された。CCTVでは、トランプのとろけるような笑みがクローズアップされた。

 たしかに日本でもアラベラちゃんが真似をしていたピコ太郎さんも夕食会に姿を現して場を和ませたようだが、トランプ側から積極的にアピールしている「中国の歌を歌う、中国語ペラペラの孫娘アラベラちゃん」とは、首脳同士の親密度を増させる意味で、かなりの違いがあるのではないだろうか。

◆陰で活躍していた清華大学顧問委員会の米大財閥メンバー

 それ以外にも活躍していたのは習近平の母校、清華大学にある経営管理学院顧問委員会の米財界人たちだ。そこにはゴールドマンサックスやJPモルガン・チェースCEOなど、目がくらむほどの米財界の大物たち数十名が名を連ねている(この全員のメンバー・リストは『習近平vs.トランプ 世界を制覇するのは誰か』のp.31~34に掲載)。

 第19回党大会と一中全会が終わると、習近平は早速、この顧問委員会のメンバーと歓談した。ここで既に今般の米中首脳会談の基本路線は決まっていたと見ていいだろう。

◆マクマスター大統領補佐官が米中は「ウィン-ウィン」関係

 第19回党大会後、トランプ訪中を「国事訪問+」として華々しく宣伝し始めたCCTVは、マクマスター大統領補佐官(安全保障担当)を単独取材した場面を、何回も繰り返し報道している。

 マクマスターはCCTV記者の質問に、にこやかに回答し、「米中関係はウィン-ウィンの関係を続けていくだろう」と述べている。特に北朝鮮問題に触れることもなく(触れたかもしれず、CCTVがカット編集しているのかもしれないが)、ひたすら「相互信頼と互恵関係に基づき、経済貿易方面で大きく協力していくだろう」という趣旨のことを、安全保障担当の大統領補佐官に言わせていることが印象的だった。

◆28兆円の投資協定

 案の定、ハイライトは米中企業家代表大会だった。習近平とトランプが舞台に座る中、トランプに同行した29社の米企業家たちが、中国側企業家代表たちと投資協定に署名した。

 その額、28兆円。

 この額は、習近平が清華大学経営管理学院顧問委員会の米側メンバーと歓談した時点で、既に決まっていたものと思う。マクマスター大統領補佐官が「米中はウィン-ウィン関係だ」と断言したのは、こうした米財界の動きを踏まえたものと解釈していいだろう。

◆北朝鮮問題に関しては?

 世界が注目する北朝鮮問題に関しては、表面上は米中間には温度差がある。トランプは控え目ながら中国にさらなる圧力を求める旨の発言をしたが、習近平は、「対話と交渉が必要だ」とさらりと言ってのけた。公開されているのは、そういう一面ではあるが、水面下では綿密な戦略を米中は共有しているものと思う。それは習近平とトランプの距離の近さに現れている。

◆世界の二大巨頭として

 習近平は首脳会談で「太平洋は広い。米中両国を収めるには十分な広さだ」と言い、米中が「世界の2大経済体」であることを強調した。CCTVではこの「太平洋」が「世界」という言葉に代わり、「新時代・新外交」という言葉を用いて、中国がアメリカと確実に肩を並べたことを、くり返し報道している。故宮を貸し切ったことは、「二大巨頭」そして「世界の二大皇帝」という思いを象徴していると言っても過言ではないだろう。

◆日本が気を付けるべきは「人材育成」

 清華大学経営管理学院顧問委員会の最も大きな目的は、米中間の経済貿易に貢献する「人財育成」である。投資などが目的ではない。

 これは実は時間が経てばたつほど大きな効果を発揮することになる。

 清華大学は清王朝の西太后時代にアメリカの資本によって「清華学堂」として設立されたものだ。この「清華」の「清」は「清王朝」の「清」である。「華」は言うまでもなく「中華」の「華」。中国の青年をアメリカに留学させ、アメリカのために有用な人材を育てることを初期の目的としていた。

 顧問委員会メンバーの一人で、習近平の親友であるブラック・ストーンCEOのシュテファン・シュワルツマンは蘇世民という中国名を持っていて、蘇世民書院という人材育成センターを、習近平政権になってから清華大学の中に設立した。ここでは設立当時の目的と同じく、アメリカのための活躍できる中国の人材を、アメリカ大企業の関係者が育成して、米中関係を強化し高めていくことが目的だ。

 キッシンジャー・アソシエイツは、シュワルツマンが経営するブラック・ストーンのビルの中にある。そしてシュワルツマンはトランプ大統領戦略政策フォーラムの議長だった。

 キッシンジャーは極端な親中であるとともに、反日であることでも有名だ。

 28兆円の投資協定の裏には、清王朝から続いている、(アメリカのための)清華大学の米大財閥たちとの、恐るべきベースがあることを見逃してはならない。

 トランプのアジア歴訪は、ビジネスマン・トランプの一面を発揮したが、表面には出ていない米中の結びつきを、見たくはないだろうが、正視するしかないだろう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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