トップは「ビッグコミックオリジナル」…男性向けコミック誌の部数動向をさぐる(2021年1~3月)
「ビッグコミックオリジナル」が40.0万部でトップ
専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由で漫画や文章を読む機会が多数設けられるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇しているとの見方もある。一方で紙媒体を用いた本はその立ち位置を落とし、ビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。今回はその雑誌のうち、特にすき間時間のよき相棒である男性向けコミック誌(少年向けコミック誌よりも対象年齢が上の雑誌。青年向けも含む)について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から、その実情をさぐる。
まずは男性向けコミック誌の直近四半期、2021年1~3月の実情。
男性向けコミック誌は少年向けと比べると印刷証明付き部数の規模が小さく、また飛びぬけた値を示すコミック誌が無いため、上位陣では僅差で順位を競り合う雑誌が複数見られる。ちょっとしたヒット作の登場があれば、順位が入れ替わる可能性がある。
トップを行くのは「ビッグコミックオリジナル」の40.0万部、ついで「週刊ヤングジャンプ」の37.6万部、そして「ヤングマガジン」の24.2万部。「週刊ヤングジャンプ」と「ビッグコミックオリジナル」の部数差はわずかで、今後順位が入れ替わる可能性は十分にある。実際、「週刊ヤングジャンプ」の部数が大きく落ち込んだことで、前期から両誌の順位は入れ替わる形となっている。
プラスは1誌…前四半期比
続いて公開データを基に各誌の前・今期間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。雑誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、雑誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。
プラスを示した雑誌は「ビッグコミックスペリオール」のみ。誤差領域(上下幅5%以内)を超えた下げ幅を示したのは1誌「週刊ヤングジャンプ」「イブニング」「グランドジャンプ」の3誌。
最大の下げ幅を示したのは「週刊ヤングジャンプ」。
元々部数は減少傾向にあったが、今期の減少度合いはやや急にすぎる感はある。この減少により、今期では男性向けコミック誌の部数トップの座を明け渡す形となってしまっていることもあり、気をもむ人も多いことだろう。似たような部数の動きを示した2011年4~6月期は東日本大震災の影響があったとも考えられるが、今期の動きに関しては特段理由が見つからない。単なるイレギュラーな動きであればよいのだが。
大きな下げ幅を示した「グランドジャンプ」だが、じわじわと少しずつ部数を落とす傾向が続いていたものの、前期以降失速したような形で急な減少が続いている。
「グランドジャンプ」は雑誌全般の観点でもレアケースとなる「複数誌の休刊、そして連載作品のシャッフルによる、複数誌の新創刊」のパターンで2011年11月に創刊された隔週刊の男性向けコミック誌。同時に創刊の「グランドジャンプPREMIUM」(2018年10月休刊)との間で作品のトレードが何度か実施されるなどテコ入れもあったが、部数の減少に歯止めが効かない状態が続いている。とはいえ、前期からの減少度合いはイレギュラーな動きと解釈できるほどのもので、気になるところではある。
季節変動を除外できる前年同期比では
続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2021年1~3月分に関する検証なので、その1年前にあたる2020年1~3月分の部数との比較となる。これにより季節変動を除外し、より厳密にすう勢を知ることができる。数十年もの歴史を誇る雑誌もある中で、わずか1年で何割もの下げ幅を示す雑誌も見受けられるが、それだけ雑誌業界は大きく動いていることを再確認させられる。
プラスを示したのは2誌「ヤングアニマル」「コミック乱ツインズ」のみで、それ以外はすべてマイナス。誤差領域にとどまった下げ幅を示したのは2誌のみ。それ以外はすべて誤差領域を超えた下げ幅。「月刊!スピリッツ」「グランドジャンプ」「アフタヌーン」「イブニング」など名だたるコミック誌たちが1割を超える下げ幅を示している。有名どころ、コンビニなどでも多々目にとまるコミック誌が軒並み名を連ねているのを見るに、もの悲しさを覚えるものがある。同時に「そういえば最近になって立ち寄り先のコンビニで見かけなくなったな」と思い返したコミック誌も複数あるだけに、複雑な心境にも追いやられる。
ただし男性向けコミック誌も多くが電子化されており、電子版に読者がシフトした結果である可能性は否定できない。特に「アフタヌーン」はページ数も多く厚い雑誌であることから、電子版にシフトしている読者が少なからずいるものと推定できる。例えば記事執筆時点で最新の2021年6月号(2021年4月24日発売)の場合、969ページもの分厚い雑誌となっており、これを持ち歩く、さらには通勤・通学の際に読むのは少々難があるのは否めない。
現在は電子書籍、ウェブ漫画が浸透する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。
なお今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用者も確実に増えている。特に今記事の該当ジャンルである男子コミック誌は電子雑誌化率が高く、そのため印刷証明付き部数が減少を続けても、各雑誌、コミックそのものの需要がそれと連動する形で減少しているとは限らないことは認識しておく必要がある。
■関連記事:
※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。
(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。
(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。
(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。