星野リゾートの「キャンセル料100パーセント」は正しいか?
ゴールデンウィーク直前の4月20日を過ぎた辺りから、SNSで「(このような非常時にも)星野リゾートは100パーセントのキャンセル料を請求する!」という投稿が拡散し一部炎上している。“星野リゾート”“100パーセント”というキャッチーなワードが独り歩きしている感もあるが、果たして実態はどうなのだろうか。
筆者は既刊の執筆本なども含め星野リゾートへの取材経験も多いが、いま営業していることそのものの是非も含めて考えていくことにする。※現場取材が叶わない下でデータや資料中心の考察につき推測的な表現が多くなってしまうこと、少々長い記事になってしまうことについてもお許しいただきたい。
星野リゾートのキャンセルポリシーを確認してみる
改めて星野リゾートのキャンセルポリシーについて調べてみると、様々なブランドがある中でキャンセル料発生は21日前から10パーセント、3日前から100パーセントというのが共通している(公式サイトより)。一部、割引率の高い優待プランは予約時から100パーセントというのもあるが、安い分リスクを負うということで、これは他のホテルでもよくみられる規定だ。
一般的なビジネスホテルなどでは3日前から30パーセント、前日50パーセント、当日100パーセントというようなケースを見かける。中には当日無連絡のみ100パーセントといったホテルもあり、そうした規定と比べると厳しいようにも見える。ただし、予約が取りにくいような観光地の人気ホテルや旅館など、特に高額な料金帯であれば、仮押さえ的な動きを防ぐ意味でも数週間前から発生させる規定は時々見かけるし、ディズニーホテルなどは予約金が必要ともされている。
“100パーセント”というワードが拡散したもうひとつの考えられる解釈は、21日前を過ぎてからキャンセルしたら有無を言わさず10パーセントきちんと取られた、すなわち星野リゾートはコロナ禍でも予約者の事情も考慮してくれず、とにかく100パーセント(の確率で)請求してくるという意味合いでの100パーセントという受け取り方も(少ないだろうが)可能性としてはある。
話を戻して以上からキャンセルポリー上でいえば、3日前以後のように100パーセント請求されるというタイミングもあるし、そうではないタイミングもあるという点を鑑みる、星野リゾートのキャンセル料100パーセントは正しいか?というタイトルの答えとしては、ある意味正しく、ある意味正しくないということになる。
特段の事由は考慮されないのか
もちろん休業など施設側の理由や(予約者から請求したいくらいか)、場合によっては交通機関の不通などがあればキャンセル料請求されないのは一般的である。その他、実際にはケースバイケースで、もしかしたらというような様々な場面の想定はできるが、星野リゾートでもそうしたケースで応じてくれたというような話もいくつか確認できた。方針変更の有無などについても取材を進めなくてはならないが、施設によって異なる可能性もある。
話を戻して、10パーセントにしても100パーセントにしても星野リゾートへの非難の根底には、実際とは別にして“緊急事態下状況が日々刻々と変化する中で杓子定規に請求するのはいかがなものか”という空気の支配がある。他の宿泊施設ではキャンセルポリシーにかかわらず、コロナ禍を考慮に入れてキャンセル料を請求しないホテルや旅館は多くあるという情報が広まっていたこともあるだろう。
また、旅という括りでいえば、公共交通機関等では無条件で払い戻す方向になっており、実際に筆者も経験したがJRからはコロナ感染防止という観点から無条件で払い戻しを受けた。
航空会社などでも同様の措置が取られているようで、コロナ禍=キャンセル料不請求という図式が、ある種の常識として巷間で認識されている向きがある。(キャンセル料についてはコロナ禍以前から収受の不徹底など宿泊業界で様々な問題が指摘されているがここでは割愛する)。
キャンセルするタイミング
予約のタイミングという点ではどうだろう。仮にこの時期に直近の予約を入れるという行為は、コロナ感染拡大、緊急事態宣言下という旅への消極的要素が蔓延する中において相応の覚悟のもとだろうから、予約者の都合でのキャンセル料はきちんと収受すべきというのは理解できる。
一方で、1~2週間という直近ではなく以前からの予約、具体的には数ヶ月前からの優待プランや21日前、特に緊急事態宣言前に予約をし、先行き不透明な中でキャンセル料の発生という点もあり決断をためらったようなケースはどう考えるべきか。
早期からキャンセル料が発生するということで「いまキャンセルしてキャンセル料を支払うのなら、可能性が少しでもあればキャンセルせずに何としても行きたい」という心情はわからなくはない面もある。早期からのキャンセル料発生規定が、移動自粛要請下で旅を諦めるタイミングを逸する原因になっているとしたらある種の皮肉である。
他方、緊急事態宣言は4月7日に7都府県、4月16日に全国へ拡大されたが、最初の緊急事態宣言下でにおいて、7都府県以外であれば旅ができると考え予約を保持していた人もいたかもしれない。それでも当時は既に移動自粛ムードに包まれており、旅行の可否について充分検討すべき環境下にあったことは言うまでもない。
SNSで発信された声であるが、予約者と思われる方の中には“キャンセルについて特段の取り扱いがなされるかなども含め実際に電話などで確認した”“支払わなければならなかったが早期にキャンセルを決断した”という声もあった。コロナ禍を考慮し宿のことも考え早期に自ら連絡したのに、それでもキチンとキャンセル料を請求されたことに違和感を持つ人もいた。
中には非常時だけに施設側から“どうされますか?”などの確認連絡が来てもいいのではないか?という投稿もあった。このように様々な声が積み重なり「100パーセント請求された!」というワードが注目され拡散したのかもしれない。
それでも営業を続行する宿
ところで、ゴールデンウィーク中にも営業を続行するのは何も星野リゾートばかりではない。たとえば、保養所を一般の宿泊施設として運営していることで知られる「四季倶楽部」なども営業を続けている。
公式サイトなど確認したところ、四季倶楽部、星野リゾート共にコロナ禍事由のキャンセルについて、特段の対応をする表明は見当たらなかった。ちなみに前述の通り、休業など施設側の理由によるキャンセルではキャンセル料を請求されないことは当然として、星野リゾートでは予約日を先延ばし(180日まで)した場合には、キャンセル料の請求はしない方針のようだ。
キャンセル料の請求という点に加えて、今回の星野リゾート批判には、観光地を中心に要請の有無にかかわらず自主的に休業を決める施設が増える中、営業を続行しているということそのものへの違和感も内含されている。
営業続行についても公式サイトを確認してみると、全ての施設が営業しているわけではなく、例えば最上級ブランドの“星のや”でいえば、沖縄エリアの施設は休業、ただし、軽井沢や京都などは営業続行中とケースバイケース。自治体による営業自粛要請なども関係しているとみられる(営業施設については公式サイトで確認可能)。
果たして星野リゾートのキャンセル料請求は正しいのか?営業続行は正しいのか?。利益を高めようとするビジネスとして法的にも違反していないのだろうからある意味で正しい。ゴールデンウィーク以降も緊急事態宣言の期間延長がニュースになり、さらなる経済の疲弊も危惧される中で、いま行われている自粛要請は本当に効果としてどうなのか?という意見も目立ち始めている。
ちなみに現在も営業を継続している一般の宿泊施設には、このような事態でも必要・緊急といった理由での需要があり宿泊施設は必須という意義のもと、社会インフラ的な側面からも営業を続けているケースは多い。観光目的という不要・不急とは一線を画するが、これらの考察については別稿へ譲ることにする。
星野リゾートへの宿泊は“必要・緊急”な事柄か
もちろん考え方は人それぞれであるが、さて、星野リゾートへの宿泊が必要・緊急な事柄かといえばノーという意見が大勢だろう。ゲストばかりではなくスタッフの健康被害を心配する声もある。万が一感染者が出たらという危機管理を問う声も強い。
さらに、もはや感染の有無、施設の感染防止措置や効果といった次元の話ではなく、“そこへ移動することそのもの”が自粛されている中で皆が我慢して同調、協力している意味を理解しているのかという強い憤りも見え隠れする。
本来ならば、このような状況下で営業しているリアルな現場の取材を経たいところであるが、残念ながら現場取材は叶わない。それでも宿泊するゲストの思い、感染症予防への取り組みはどうなのか、快適に滞在できるのだろうか等々興味は尽きない。
ちなみに、5/3~5日の2泊3日で「星のや軽井沢」の2食付き料金を調べてみた。このような状況なのでかなりお得に泊まれるだろうと想像したが「おこもり滞在(インルーム夕朝食付)2泊1室合計35万3760円」と表示された。
同施設の通常のゴールデンウィーク期に比べたら確かに安い印象ではあるが、まぁ激安という感じではない。このような事態下では料金を下げても上げても来る人は来るという点でいえば、料金はあからさまに下げないというのは確かにセオリーといえる。かなり高額な料金ゆえ移動自粛・コロナ禍問題云々を除いても利用が叶う人々はある程度余裕のあるごく一部の人々だ。
別世界と現実世界
なによりも、実際に出向いた人は果たして現地で歓迎されるのだろうか、心底リラックスした滞在ができるのだろうか、旅の大きな目的は心の解放だというが(大きなお世話であるが)人ごとながら心配になってしまう。
また、常識的な感覚があれば滞在の様子をSNS等へ投稿するのも憚られるだろう。「観光地はイメージが大事です」と星野代表は語っていたが、この時期に星野リゾートへ行ったというリア充投稿は「イメージ悪るっ!」と多くの人に却下されるのが関の山である。
35万3760円・・・コロナ禍が経済を疲弊させる中で倒産、失業という事態も日々ニュースになる中、給付金でどうやって生きながらえるという市中の声とは乖離した世界だ。普通なら別世界の出来事はそもそも別世界で終わる話だが、このタイミングゆえ星野リゾートのキャンセル料という一般には別世界の出来事が情報拡散され批判を惹起させている。別世界も現実世界も一緒くたにするのもまたコロナ禍だ。
ところで、前述した星のやでは基本的に客室へテレビを置かない。非日常を大切にしたいがためという。確かにテレビからのコロナ関連二ユースは入ってこない。