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「ソフトボールより夢中になれるものはたぶんない」――インターハイ中止、進路に悩んだ高校生の1年

佐藤雅俊ディレクター

「全国で通用するか分からないまま、自信がないまま、大学4年間、ソフトボールをして過ごすのか」。緊急事態宣言下の2020年4月26日、全国高校総体(インターハイ)の中止が決定。中止されるのは、昭和38年の開始以来、初めてのこと。ソフトボールに青春を捧げてきたある女子高校生は、卒業後の進路に悩んだ。部活の引退から進路を決めるまで、高校3年生のアスリートは、何を考え、どう過ごしたのか。1年を追った。

●悔しい思いをどこにぶつけたらいいのか

「なんで自分の代になって大会がなくなってしまうのか、日本一を目指して練習してきたのに、何のために練習をがんばってきたのかという気持ちになりました。インターハイは特別です。悔しいというか、その思いをどこにぶつけたらいいのかという気持ちがありました」

ソフトボールに青春を捧げてきた進藤希咲さんは、インターハイ中止の知らせを受けて、そう言った。緊急事態宣言下の2020年4月26日、新型コロナウイルスの影響で開催が危ぶまれていたインターハイの中止が正式決定した。中止されるのは、昭和38年のスタート以来、初めてのことだ。

ソフトボール部の高校生にとって、全国大会は年に2回だけ。春の選抜大会と夏のインターハイだ。希咲さんが通うのは、都内で屈指の強豪校、目黒日本大学高校で、2020年春の選抜大会の出場が決まっていた。目黒日本大学高校はこれが3年ぶりの全国大会出場で、3年生にとって初めての全国大会だった。ところが選抜大会が直前に中止に。

「選抜がダメでもまだインターハイが残っている」。そう信じて、春休みの自粛期間中も各自が自宅で自主トレーニングに励んだ。そんななか、インターハイの中止が決まった。

●ソフトボールより夢中になれるものはないけれど

希咲さんがソフトボールを始めたのは小学2年生の時だった。高校でインターハイ出場を目指すために、自宅のある横須賀から目黒の学校へ通うことを選んだ。部活がある時は朝5時半に家を出た。実業団に憧れ、大人になってもソフトボールを続けていると思っていた。しかし昨年、コロナ禍で考え抜いた結果、ソフトボールをやめることを決める。

「全国の舞台を経験したことがなくて、全国で通用するか分からないまま、自信がないまま、大学4年間、ソフトボールをして過ごすのか。それとも、新しいことを見つけるのか。違うことにも挑戦したいという思いがあったので、やめる決断をしました」

「ソフトボールより夢中になれるものはたぶんない」と彼女は断言した。それでも引退は迫っている。8月、東京私学女子ソフトボール選手権大会(インターハイ代替大会)に出場した。

「自分自身最後の大会になるので、最後は優勝してみんなで笑って終わりたいです」

準々決勝で淑徳高校に惜敗。希咲さんは引退した。

●ソフトボール選手からアスリートを支える栄養士へ

すぐに新しい進路は決まらない。目黒日本大学高校女子ソフトボール部の3年生は9名。卒業後の進路はそれぞれだ。大学進学後もソフトボールを続ける人、実業団のトライアルに挑戦する人、そしてソフトボールをやめる人。監督の佐藤祐輔さんは言う。

「例年であれば、もともとやめると言っていても、最後のインターハイやその予選が終わると考えを変えて、『先生やっぱり大学でも続けます』という生徒が何人かいるんです。今年はその最後の大会がなくなってしまった。やめる決断を覆す生徒はいませんでした」

希咲さんは3年間を振り返り、祐輔さんにこう話す。

「3年間を通して、祐輔先生に、配球とかピッチャーとのコミュニケーションとか、キャッチャーの楽しみ方を教えてもらった。本当にキャッチャーをやっててよかったなと今は思います」

12月、希咲さんの進路が決まった。日本大学短期大学部食物栄養学科。「アスリートのための栄養士になろう」と考えた。

「10年間ソフトボールをやってきて、このままスポーツに関わらないのはもったいない。違う面でスポーツに携われたらいいな。このコロナで考えさせられたことが多かった。でも、よかったなって。ソフトはやめちゃうけど。楽しみのほうが大きいと思います」

ソフトボール選手から、アスリートを支える栄養士へ。新しい目標へ向かっている。

クレジット

プロデューサー:牧 哲雄
EED/MA:織山 臨太郎
撮影応援:徳山 敦己
演出・撮影・編集:佐藤 雅俊

ディレクター

1985年生まれ。大学卒業後、2007年にドキュメンタリージャパン参加。2011年ディレクターデビュー。NHKや民放各社でドキュメンタリー番組を制作。