残りわずか2本! 全通・電化以来38年間活躍を続ける「三セクの国鉄型」阿武隈急行8100系
福島県の県都・福島市を起点として、戦国大名伊達氏発祥の地として知られる伊達市、阿武隈川の舟運で栄えた宮城県伊具郡丸森町、JAXAの宇宙センターがある角田市を経て、船岡城の城下町として栄えた柴田郡柴田町にある槻木駅に至る阿武隈急行線。東北本線の輸送力状況を目的としたバイパス線として建設された国鉄丸森線を引き継いで昭和61(1986)年7月1日に開業、2年後の昭和63(1988)年7月1日に全通を果たした。その全通時から38年間に渡って活躍を続ける車両が8100系だ。AB900系への置き換えが進み、令和6(2024)年12月時点で2両編成2本のみが在籍している。
8100系は昭和63(1988)年7月の全通に合わせ、日本車輛製造で2両編成9本、計18両が製造された。福島方が制御電動車(JRでいうクモハ)のAM8100形、槻木方が制御付随車(JRでいうクハ)のAT8100形で、AM8100形が奇数、AT8100形が偶数で附番されている。編成番号はA-1、A-3……と奇数で附番されている。
車体は国鉄の交流近郊型電車である713系をベースとしており、窓配置や車内の座席などに国鉄型車両の雰囲気を残しているものの、ワンマン運転に合わせたドア位置の変更及び片開き扉の採用、スタイリッシュなブラックフェイスによってまったく印象の異なる電車に仕上がった。713系からわずか4年後の電車とは信じられない斬新なデザインは、38年経った今なお古びない。
また、AT8100形に設置された便所の位置も連結面寄りではなく、運転台寄りの扉の後ろという珍しい配置である。
三セクの車両ながら国鉄・JRの車両に準じた性能・設備を持つ8100系はJR東北本線にも乗り入れており、近年まで4両編成で仙台駅に顔を出していた。また、以前は郡山駅にも乗り入れており、団体臨時列車で磐越西線への入線実績もある。
全通以来、30年以上に渡って阿武隈急行の主力として活躍してきたが、AB900系への置き換えにより、A-13、A-1、A-3、A-5、A-9、A-7、A-11の順に引退し、現在はA-15、A-17の2本のみが現役である。
9本あった8100系のうちA-9編成(第5編成)は伊達市のご当地アニメ『政宗クロニクル』とコラボしたラッピング車両で、「政宗ブルーライナー」の愛称で親しまれていた。平成26(2014)年3月19日より当初は4年間の運行予定だったが、結局令和5(2023)年11月19日のラストランまで9年半もの間、ラッピングを纏ったままだった。
前述のように国鉄713系をベースとしているためか、車内には国鉄型車両の雰囲気が漂う。赤モケットのボックスシートも旅情を搔き立てる。JRの車両の世代交代により、東北から国鉄型車両がほとんど消えた今、8100系は懐かしい旅を追体験できる貴重な存在と言えよう。
そんな「国鉄のにおいがムンムンする」車内で異彩を放つのがキノコ型の連結部だ。キノコ型の連結面は営団6000系や仙台市営地下鉄1000系などでも見られるが、8100系のものは控えめで、「エリンギ型」とでも言うべきだろうか。通常の巻通路と比べると車内の見通しがよく、ワンマン運転時の視界確保を目的としていると思われるが、昭和末期のレトロフューチャーな雰囲気を感じさせる。
残りわずか2本まで減少し、1運用のみと出会える機会もぐっと少なくなった阿武隈急行8100系。今後もAB900系の導入が計画されていることを考えれば、その余命もあと1,2年と言ったところだろう。赤モケットの懐かしい雰囲気の車内で旅をするなら今のうちだ。マナーを守った上で車両を記録し、旅を楽しみたい。
阿武隈急行の歴史を伝える存在として、できれば1両くらいは保存されてほしいところだが、果たしてどうなるだろうか。沿線ではかつて走っていた福島交通軌道線の車両が3両も大切に保存されており、もし8100系がそれに続くのであれば是非応援したいところである。
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