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中国、パレスチナ各勢力和解仲介「北京宣言」の狙いは?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国が仲介し、パレスチナ各勢力が和解して「北京宣言」(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 7月23日、中国外交トップを兼任する王毅外交部長(外相)は北京で、パレスチナ自治区で対立しているイスラム組織ハマスや自治政府主流派ファハタを中心とした14勢力が和解し、停戦後に暫定的な「国民和解政府」を樹立することに同意した「北京宣言」を発表した。最終目標はパレスチナを独立国家として国連に加盟させ、イスラエルとの「二国家並存」を実現させることにある。

 昨年のイラン・サウジアラビア和解仲介に続き今般の「北京宣言」は、グローバルサウスを含めた非米陣営(人類の85%)の結束を固め、米一強支配から脱却し多極化へと移行することが最終的な狙いだ。

◆「北京宣言」発表における中国外交のトップ王毅氏のスピーチ

 7月23日、中国外交部のウェブサイトは<パレスチナの各派閥が北京での「分裂の終結とパレスチナの民族統一強化に関する北京宣言」に署名>という見出しで、中国共産党中央委員会政治局委員兼外交部長である王毅氏が、北京で開催されたパレスチナ派閥和解対話の閉幕式で演説を行ったと報道している。演説の骨子を以下に記す。

1.習近平国家主席は新時代が始まって以来、パレスチナ問題の解決に向けた提案を繰り返し、パレスチナ問題の解決に中国の知恵と解決策を提供してきた。(筆者注:たとえば2023年6月4日に訪中したパレスチナのアッバス大統領との会談における習近平発言など。)

2.「民族解放」の大義は必ず成功する。(筆者注:毛沢東は1950年代から60年代にかけて、アラブ諸国、特にパレスチナの民族独立解放に武力を含めて支援すると宣言している。)

3.「北京宣言」の核心は、ガザの戦後統治をめぐる暫定的な「国民和解政府」を形成するという合意であり、最も強い要求は、関連する国連決議に従ってパレスチナの真の独立国家を実現することである。

4.そのプロセスとして以下の「三段階アプローチ」を提案する。

【第一段階】ガザ地区における持続可能な停戦をできるだけ早く促進し、人道支援とそのアクセスを確保する。

【第二段階】「パレスチナ人がパレスチナを統治する」という大原則を堅持する。一刻も早く戦後復興に着手し、そのために暫定的な「国民的合意政府」を樹立する。

【第三段階】パレスチナを国連の正式加盟国とし、「二国家解決」の実施を開始する。そのためのタイムテーブルとロードマップを作成する。(王毅氏の演説の骨子は以上)

 閉幕式にはパレスチナの主要14派閥の代表以外に、エジプト、アルジェリア、サウジアラビア、カタール、ヨルダン、シリア、レバノン、ロシア、トルコの特使や代表が出席した。

◆狙うは「米一極化支配からの脱却」と「世界多極化への基礎固め」

 習近平が狙う「米一極支配から多極化へ」の移行は着々と進められており、今般の「北京宣言」を出す前の今年4月30日にもファタハとハマスの代表が訪中し、中国の仲介により北京で協議している。それは「北京宣言」に対する準備だったと位置付けることができる。

 また6月1日のコラム<中東を抱き込み非米側陣営による多極化を狙う習近平 中国・アラブ諸国閣僚級会議>にも書いたように、今年5月30日に北京で「中国アラブ諸国協力フォーラム」が開催され、習近平国家主席が開幕式で基調講演をした。習近平は2022年12月にサウジアラビアで初めて開催した「中ア首脳会議」のときに提唱した「中国アラブ諸国運命共同体」を強調している。

 これはアメリカが提唱するロシア制裁をしてない国々、すなわちグローバルサウスなど人類の85%を含む「非米側陣営」を味方につけて、「米一極化支配」から脱却し「多極化」へ移行するための基礎固めであると位置付けることができる。

 念のため、6月1日に掲載した図表をもう一度以下に貼り付ける。

 現在、パレスチナと国交を樹立していない国は図表の紫色の線で囲んだ48ヵ国だ。パレスチナと国交を樹立している国で、対露制裁をしていない国は130ヵ国にのぼる。人口比で言うと、人類の85%がアメリカの指示通りには動いていない。

 今般の「北京宣言」も、この非米側陣営の強化にあることがわかる。

筆者作成
筆者作成

◆ウクライナまでが北京になびき始めた

 「北京宣言」が発布された翌日、ウクライナのクレバ外相が訪中して王毅氏に会っている。クレバ氏は「中国は偉大な国で、ウクライナと中国は戦略的パートナーシップを結んでいる国で、非常に重要な貿易パートナーでもある」と中国を持ち上げた。 

 その上で、「ウクライナは、中国とブラジルが提供するウクライナ危機に関する解決策(和平案)に基づいて、ロシアと話し合う用意がある」と表明している。

 どうやらウクライナ国民の32%が「平和のためなら、領土を譲歩してもいい」と言っているという世論調査の結果をロイター社が発表しているので、こういった民意にも配慮しないとならない事態に陥っているという背景もあるようだ。

 一寸たりとも領土を譲ることはないと主張していたウクライナのゼレンスキー大統領だが、もしアメリカにトランプ政権が誕生したら、ほぼ「強制終了」的に停戦に持って行かれるだろうから、その危険性を避けようとしているのかもしれない。 

 なぜならそういう形で停戦になった場合、ゼレンスキーは国民を犠牲にした大統領として断罪される可能性があるわけだ。ゼレンスキー自身が「戦争を迅速に終わらせるべきだ」と意志表明したと、7月24日の中国共産党系の「環球時報」電子版「環球網」が報じている

 アメリカではバイデン大統領の次期大統領選からの撤退を受けてハリス副大統領が立候補しているが、もしトランプ前大統領が11月の大統領選で当選した場合に備えて世界中が動いている。

 その隙間を縫いながら、中国はウクライナ紛争とガザ紛争の両方に力を発揮しようと考えているのかもしれない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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