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中露共同声明 ウクライナ戦争の「和平交渉を求める中露陣営」と「戦争継続に寄与する日米欧陣営」浮き彫り

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中露首脳が共同声明に署名(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 和平交渉の早期実現を謳った中露共同声明が発表されていた頃、岸田首相はウクライナを訪れていた。中国の「和平案」に応じないアメリカと歩調を合わせ、G7首脳会談でウクライナ問題を取り上げるためだ。

◆中露首脳会談と中露共同声明

 3月21日、日本時間の真夜中、中露首脳会談のあとに両首脳による共同声明の署名と発表があり、続いて二人による共同記者会見が設けられた。

 正式の中露首脳会談では、3月21日のコラム<「習近平・プーチン」非公式会談に見る習近平の本気度>に書いたような習近平の注目すべき表情はなく、普段の姿に戻っていたし、滅多に記者会見などしたことのない習近平の記者会見場での表情は見られたものではなかった。

 そうでなくても普段なら眠っている深夜。

 ライブで<プーチンと習近平の記者会見中継>を見ていたのだが、息する時間も取らないような勢いで喋りまくるプーチンの手元には数枚の原稿があった。あと「2枚」となったときに、ユーチューブ脇のコメント欄には「あ、あと2枚になった!寝るなよ、習近平!もう少しの我慢だ!」といった種類のコメントが溢れ、思わず笑ってしまった。

 そのような中、共同声明にだけは「おっ!」と思わせるものがあった。

 3月21日、新華社モスクワ電は<中露元首共同声明に署名 会話によってウクライナ危機を解決すべきと強調>という見出しで、共同声明の要旨を伝えている。それを以下にご紹介する。

 ●ウクライナ問題について双方は、国連憲章の目的と原則は遵守されなければならず、国際法も尊重されなければならないとした。

 ●ロシア側は、ウクライナ問題に対する中国の客観的かつ公正な立場を積極的に評価する。

 ●双方は、いかなる国家または国家グループが、軍事、政治およびその他の利益を追求するために、他国の正当な安全保障上の利益を損なうことに反対する。

 ●ロシア側は、和平交渉をできるだけ早く再開することを重ねて言明し、中国はこれを高く評価した。ロシア側は、中国が政治・外交的手段を通してウクライナ危機の解決に積極的な役割を果たそうとしていることを歓迎し、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」という文書に示された建設的な提案を歓迎する。

 ●双方は、ウクライナ危機を解決するために、すべての国の正当な安全保障上の懸念を尊重しなければならず、陣営間の対立形成や火に油を注ぐようなことを防止しなければならないと指摘した。双方は、責任ある対話こそが、問題を着実に解決する最善の方法であると強調した。

 ●この目的のために、国際社会は建設的な努力を支援すべきだ。双方は、局面の緊張を助長したり、戦争を長引かせる一切の行動を停止するよう求め、危機がさらに悪化したり、最悪の場合は制御不能になる事態になることを防ぐよう求める。

 ●双方は、国連安全保障理事会によって承認されていない、いかなる一方的な制裁にも反対する。(以上)

 共同声明の基軸は「ウクライナ問題は話し合いによって解決すべき」というもので、「それをロシアが言うんですか?」と言いたくなるが、ロシアとしては自国を、「和平交渉をできるだけ早く再開することを重ねて言明する」という立場にあると位置付けていることに驚いた。

 また、「国連安全保障理事会によって承認されていない、いかなる一方的な制裁にも反対する」という中露両国の共通認識が共同声明文の最後にあることは注目に値する。

 「平和案」の冒頭にある「国家の領土主権は尊重されなければならない」という中国側の主張は、ウクライナの領土主権を重視していないプーチンと相矛盾するが、そこは互いに目をつぶりながら、両国は以下のような共通認識を優先しているものと解釈できる。

◆NATOの東方拡大が全ての原因

 アメリカのシカゴ大学の教授で、かつて米空軍の軍人でもあった政治学者&国際関係学者のジョン・ミアシャイマー氏や、フランスの人口論学者で哲学者のエマニュエル・トッド氏も、今般のロシアのウクライナ侵略の背景には「NATOの東方拡大」があると主張している。アメリカとNATOがウクライナ戦争を生んだのだと断言している。

 同様に、2022年2月4日、北京冬季オリンピックにちなんで訪中したプーチンと習近平は、共同声明の中で「NATOの東方拡大に反対する」という共通認識を表明していた。

 他国の領土を侵略するのは、習近平にとっては台湾問題やウイグルなどの少数民族のことを考えると、プーチンの行動を肯定することはできない。しかしアメリカに一方的に制裁を受けているという意味では被害者同士の連帯感がある。それが今般の中露共同声明にも盛り込まれているが、NATOの東方拡大への危機感は、両国が共有しているものの中の一つである。

 中国はNATOの東方拡大が、中国の裏庭であるような中央アジア諸国に及ぶのを警戒している。だから上海協力機構を設立している。

◆アメリカは一方的な侵略行為をくり返してきた

 そのほかに中露両国の共通認識にあるのは、アメリカはベトナム、イラン、イラク、アフガニスタン・・・・・・と、引っ切り無しに他国に内政干渉をしたり一方的に侵略しているという事実だ。その大きな事例だけでも列挙してみよう。

図表:アメリカが内政干渉をして他国の政府を転覆したり侵略をした相手国

筆者作成
筆者作成

 ほかにも数多くあるが、少なくとも習近平は、最後のイラク戦争20周年の3月20日にロシアを訪問するということまでして、「不法な侵略戦争をくり返しているのはどの国か?」ということをアメリカに突きつけようとしている。中露共同声明に内包されているのは、アメリカのこのような行為であり、「どんなに残虐な侵略行為をしても、アメリカなら非難されないし裁かれない」という国際社会への抵抗であるとも言えよう。

◆中露首脳会談の日にウクライナを訪問した岸田首相

 わが国の岸田首相がウクライナを訪問したのは、まさに中露がかかる精神の共同声明を出していた時だった。ポーランドから陸路に変えたのは、ウクライナは制空権を持っていないからだ。武器は欧米から提供を受けているが、戦闘機の供与は受けていないので、制空権を持てないでいる。戦争レベルの許容度は、基本、アメリカが決めている。

 そのアメリカは習近平提案の「和平論」によって停戦するのを断固阻止しようとしている。3月20日のコラム<習近平の訪露はなぜ前倒しされたのか? 成功すれば地殻変動>に書いたように、3月17日にアメリカのメディアTHE HILLは、<モスクワでの習近平・プーチン会談に先立ち、ホワイトハウスはウクライナの停戦を拒否>という情報を発信している。

 アメリカの思惑通りに動いている岸田首相は、その意味で「中露の話し合いによる停戦には応じない」というアメリカの戦列に加わっており、そのことを「誇り」に思っているようだ。NATOを東アジアに引き込んでくる役割をバイデン大統領に与えられ、それを忠犬のように「誇らしく」実行しようとしている。

 アメリカは前掲の図表のように、多くの戦争を仕掛けてきては、数えきれないほどの人命を犠牲にしてきた。次にターゲットになるのは日本だ

 中国を、何としても台湾武力攻撃をせざるを得ないところに追い込んでいき、その最前線で日本人に戦わせる。ウクライナ同様、アメリカ兵が戦場で戦うことはないだろう。戦わせられるのは、ウクライナ人同様、次は日本人だ

 そのことが岸田首相には見えていない。

◆米軍のミリー統合参謀本部議長が「ウクライナ戦争は軍事力では終わらない」

 アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、3月22日、「ロシアもウクライナも軍事力によって目的を達成することはできないと確信している」と述べたという。ミリーは、「さまざまな国の外交官が最終的に戦闘に終止符を打つと信じている」とも語っている。すなわち戦争を継続しても、ウクライナが完全勝利を手にすることはないということを意味する。だからどこかで「外交的に強制終了させるしかない」ということになる。

 ミリーは中国が2027年までに台湾を武力攻撃すると最初に言った米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官の言葉も、その可能性は低いと否定している。アメリカにこのような賢い軍人がいることを大変頼もしく思うが、岸田首相は違う。CIA長官やバイデンの言うことを聞いて、「戦争継続」を煽る戦列に並ぼうとしているのだ。

 なんとも皮肉なことに、発展途上国や新興国を味方に付けている中露陣営が「話し合いによってウクライナ危機を解決しよう」と呼びかけ、先進国連盟が「戦争継続」を主張して、「ウクライナの完全勝利まで停戦しない」と叫んでいる。

 もちろん、プーチンが攻撃をやめれば、それで済むことだろうと言いたくはなるが、3月21日のコラム<「習近平・プーチン」非公式会談に見る習近平の本気度>に書いたように、今となっては習近平に「強制終了」してもらうのを待っているのかもしれない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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