高齢者はなぜエアコンを使わずに熱中症への道を進むのか、リアルな心情と実情を吐露したい
7月に入ったばかりなのに猛暑が続いている。そこで心配されるのが熱中症の増加。厚生労働省他が出しているリーフレット「高齢者のための熱中症対策」によると、令和3年夏、東京23区内における熱中症死亡者の約8割が65歳以上の高齢者で、屋内死亡者の約9割がエアコンを使用していなかった。
だから、「高齢者はがまんせずに、エアコンを使用して」と盛んに呼びかけられているのだが、果たして多くの高齢者がエアコンを存分に使っているのかどうか。
今も意識的にエアコンを使わないケースがあるし、使いたくても使えない事情もある。
猛暑の中、なぜエアコンを使わない高齢者が生じるのか。満70歳の筆者が、エアコンを使わない高齢者の心情と実情を吐露したい。
ショッピングセンターで涼む高齢者
イオンモールやららぽーとなど、大型商業施設には座り心地のよいソファが配置されている。なかには、大型テレビの前に置かれたソファもあるのだが、夏の暑い時期、そこに座っている人はやはりというか、残念なことにというべきか、高齢者が多い。
気持ちよさそうに寝ていらっしゃる方をみると、幸せそうだなと思う。が、その席に座るため、朝は何時に出かけたのか、トイレにゆくときに席を確保できるのか……人知れぬ苦労もあるのでは、と考えてしまう。
まことにもって余計なお世話である。が、そんな心配をしてしまうのは、「家でエアコンを使うと電気代がもったいないので、ここで節約していらっしゃるのだろう」と考えてしまうからだ。しかし、それは間違った思い込みかもしれない。
確かに、高齢者は節約を心がける。節約のため、家のエアコンを使いたくないという気持ちはあるだろう。しかし、それ以外の事情もありそうだ。
広い家で旧式のエアコンだと、電気代が跳ね上がる
高齢者が家のエアコンを使いたがらない理由はなにか。
もちろん、電気代を節約したいためなのだが、そこには複雑な事情も絡んでいる。
複雑な事情とは、家とエアコンが現代式ではない、ということだ。
たとえば、高齢者は広い一戸建てに夫婦2人もしくは1人で住んでいるケースが多い。その家は、家族4人とか6人がゆったり暮らすためにつくられ、ムダに広かったりする。
12畳のリビングに6畳のダイニングキッチンがつながり、さらにリビングから2階に上がる階段が設けられていたりする。広い空間がひとつながりになっているため、冷暖房効率がひどくわるいのだ。
それに加え、設置しているエアコンが10年前、20年前の機種だと、電気代が跳ね上がる。
電気料金が上がっている今、1人暮らし、2人暮らしなのに広い空間で効率のわるいエアコンをフル稼働させる気にはなれないのだ。
エアコンを省エネ性能の高い新型に変えればよい、と思うかもしれない。しかし、木造の一戸建てで広いスペースに対応するエアコンを新規購入しようとすると、恐ろしく高額の機種になってしまう。それはとても買えない、とあきらめる高齢者は多い。
「エアコンを買い替えず、今の機種でがまんしよう」と考えてしまうのは、体調の問題もある。
高齢者にとって、「暖かい部屋」は幸せ
じつは、高齢になると、エアコンの涼しい風は必ずしも快適ではない。
冷たい風が当たることで、腕や足の関節が痛くなることがあるし、体全体がだるくなりやすい。
エアコンを作動させている部屋を出て、エアコンなしの部屋に入ると、どうなるか。若い世代なら、「ムッとする暑さ」と感じるだろう。しかし、高齢者の場合、「暖かくて、幸せ」と感じることがある。それくらい、体の状態が変わるのだ。
正確にいうと、高齢者はエアコンが苦手ではなく、エアコンの冷たい風が直接当たることが苦手。だから、イオンモールやららぽーとのように、冷たい風を感じずに涼しい空間を好むわけだ。
エアコンの冷たい風で体の不調を感じると、なるべくエアコンをつけず、窓を開けて扇風機で過ごしたいと考える。それを実践しているうちに、水分補給が不足して、熱中症を発症する……そんなケースも多いのではないかと推測される。
ムダに広い一戸建てで1人暮らし、2人暮らしをしている高齢者の体をどうやって冷やすか。それは大きな問題だろう。
他にもある高齢者ならではの夏対応
高齢者は、辛抱強いので、エアコンを使用しない。そう思っている人もいそうだ。
確かに、戦争体験がある世代なら辛抱強い。しかし、戦争体験がある世代となると、終戦の昭和20年(1945年)当時で10歳以上になっていたはず。現年齢は90歳を超え、多くは介護施設や有料老人ホームに入っており、適度な空調を施設が行ってくれる。
問題は、自宅で1人暮らし、2人暮らしを続けている高齢者。戦争体験ありの世代の下で、現年齢で70代が中心となる。
70代だが、若い頃はビートルズやローリングストーンズ、加山雄三、沢田研二にリアルタイムで熱狂した世代である。そんなによぼよぼではないし、バブルの頃にムダ遣いをした経験もあったりする。
節約一辺倒ではなく、エアコンを使う生活にも馴染んでいる。
ただし、エアコンに関して、ある「刷り込み」が残っている。
それは、昭和後期のオイルショックで生まれた標語「冷房の設定は27度以上」だ。エアコンの設定温度を下げるのはわるいこと。なるべくエアコンは使わず、使うときも27度とか28度の設定にしましょう、と刷り込まれたのである。
高齢者も、若い時分はエアコンの設定温度を下げていた。25度とか26度にして満足したが、一方で罪悪感もあった。
「本当は27度以上にしなければいけないのに、26度にしてしまう自分はダメな奴」との思いがあったのだ。その刷り込みは今も残っている。
だから、エアコンの設定温度はつい27度以上にしてしまう。
前述したとおり、冷たい風が苦手なので、27度設定で高齢者は快適だ。
近年の猛暑では、設定温度を27度より下げたほうがよいこともあるのだが、高齢者は27度設定を守ってしまう。それも、高齢者に熱中症が多く生じてしまう理由かもしれない。
今、高齢者であってもエアコンを積極的に利用することが推奨されている。しかし、高齢者には、高齢者にしかわからないエアコン事情がある。それを理解しないと、「積極的なエアコン利用で、熱中症防止」は実現しないのではないか。高齢者の1人である私にはそう思えてならない。