「自分の生まれた国を好きで何が悪い!」RADWIMPSの「HINOMARU」騒動を考えてみた
[ロンドン発]サッカーW杯ロシア大会が6月14日、開幕しました。
フジテレビのテーマソングとして人気ロックバンド「RADWIMPS(ラッドウィンプス)」が発表したシングル「カタルシスト」のカップリング曲「HINOMARU」がネットで炎上し、作詞・作曲を担当したボーカルの野田洋次郎さん(32)が謝罪する騒ぎになりました。
サッカー日本代表の応援歌でもあるので、野田さんは5日、インスタグラムで「HINOMARU」制作の趣旨をこう記していました。
「僕はだからこそ純粋に何の思想的な意味も、右も左もなく、この国のことを歌いたいと思いました。
自分が生まれた国をちゃんと好きでいたいと思っています。好きと言える自分でいたいし、言える国であってほしいと思っています。
まっすぐに皆さんに届きますように。」
しかし、まっすぐには届かなかったようです。
「この身体に流れゆくは 気高きこの御国(おくに)の御霊(みたま)」「たとえこの身が滅ぶとて 幾々千代に さぁ咲き誇れ」という「HINOMARU」の歌詞が戦中・戦前の軍歌を思わせると批判を浴び、たちまち炎上、野田さんは11日、インスタグラムやツイッターで謝罪する事態に追い込まれてしまいました。
靖国神社では「みたままつり」をするので、「御霊」「この身が滅ぶ」「千代に」という言葉が「靖国神社」や戦争を連想させるということでしょうか。
1985年生まれの野田さんのご両親もきっと戦争を知らない世代で、野田さん本人は米国からの帰国子女だそうです。
帰国子女の特派員仲間に聞いた話ですが、米国では国歌「星条旗」のメロディーが流れだすと自然に歌詞を口ずさむようになるまで学校で繰り返し聞かされるそうです。フランス大統領選では右から左まで候補者全員が国歌「ラ・マルセイエーズ」を愛国的に歌って選挙集会を締めくくります。
野田さんは「世界の中で、日本は自分達の国のことを声を大にして歌ったりすることが少ない国に感じます」と「HINOMARU」を作詞した気持ちを率直に綴っていました。おそらく世界中を探しても愛国的でなく、戦争とも全く関係のない国歌を見つけるのは難しいでしょう。国民国家を形作ってきたのは、まさに戦争だったからです。
W杯に合わせたカップリング曲だから、日本や日本で生まれたことを誇りに思い、国民精神を鼓舞する歌詞になるのは仕方ない面もあるように思います。
4年前には椎名林檎さん(39)のNHKサッカー放送のテーマ曲「NIPPON」の「混じり気の無い気高い青」「不意に接近している淡い死の匂い」といった歌詞が非難されました。
人気デュオゆずの「ガイコクジンノトモダチ」の「TVじゃ深刻そうに 右だの左だのって だけど 君と見た靖国の桜はキレイでした」という歌詞が議論を呼んだばかりです。アーティストには「表現の自由」が認められています。
米国との二重国籍を解消した自民党の小野田紀美議員(35)が参院文教科学委員会で「いとしい誇らしい、その思いを言っただけ」と擁護論をぶったのは極めて政治的だったとしても、この世代の人たちはナショナリズムを戦争というネガティブなイメージではとらえていないようです。
自分の国の国歌や国旗を大切にできない人が他の国の国歌や国旗に敬意を表することはできないとは思いますが、ナショナリズムの行き過ぎは禁物です。ドナルド・トランプ米大統領の「米国第一主義」を取り上げるまでもなく、今、世界中でナショナリズムが台頭しています。
国際主義を掲げると右派から「デラシネ(根無し草)」と攻撃され、愛国主義を強調すると左派から「極右」と批判されるほど、世界は二分しています。当たり前のことですが、祖国を強調し過ぎるとそれ以外を排除しかねない危険性を伴います。
筆者はロンドンで日本人というマイノリティーとして暮らしていますが、欧州連合(EU)離脱の原動力となった「英国例外主義(英国は歴史的に特別な存在という考え方)」を与党・保守党議員から聞かされるたび、うんざりします。英国は自分が思っているほど偉大な国ではなくなったことを自覚していないようです。
サッカーやラグビーのW杯や2020年東京五輪・パラリンピックでナショナリズムがある程度、高揚するのは仕方ありません。しかし、ナショナリズムは自由や民主主義、国際主義とセットであるべきで、1970年の日本万国博覧会(大阪万博)のテーマソング「世界の国からこんにちは」のような曲も必要でしょう。
北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐる米朝首脳会談で「在韓米軍が撤収すると日本が軍拡するので問題」と発言する英国の外交専門家がいる現状を考えると、「HINOMARU」の曲はともかく、歌詞だけ見ると戦争の記憶が残るアジアや欧米ではまだ難しいんじゃないかな、と正直なところ感じました。
幸いなことに欧米メディアは今のところ、この問題には反応していないようです。
(おわり)