「アフタヌーンの印刷部数が3か月で半分以下に」と伝えられていた件について
公式発表前に抽出された誤情報
先日11月7日付で日本雑誌協会から四半期毎の定例更新となる、主要雑誌の「印刷証明付き部数」について、最新値となる2013年7月~9月分のデータが公開された。この「印刷証明付き部数」とは「この部数だけ確実に刷りました」とのお墨付き、印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や販売部数と比べるとはるかに確証度の高い値として知られている。
このデータを基にいくつかの精査分析を行い記事を掲載したところ、「講談社の月刊アフタヌーンに関する部数の誤報」について触れていないとの指摘が。慌てて値を再確認したが、直近四半期は8.5万部で前四半期から変わらず。入力ミスの類は無い。
そこで指摘した人の話を基に色々調べていくと、次のような「誤報」騒ぎがアフタヌーン関連であったことが確認できた。
・10月31日深夜
2ちゃんねるに「2013年7月~9月のアフタヌーンの部数は3万2000部。前四半期の8万5000部から半分以下にまで下落」との投稿と、その時点ではサイト上からは一切リンクされていないURL(すでに公開済みの期間データへのURLの引数書き換えで直接アクセス)が張られる。同スレッドで騒ぎとなる
・10月31日
そのスレッドの内容を基に多数の「まとめサイト」で同内容が語られる。バッシングや煽り、非難中傷の嵐。
・11月1日以降
「まとめサイト」の報がソーシャルメディア経由で拡散され、「アフタヌーンヤバイ、マジヤバイ」のようなセンセーショナル的な話が浸透。
・11月7日
公式に該当期の印刷証明部数が公開。アフタヌーンの部数は8万5000部とされており、3万2000部との値は入力途中における誤数値であったことが判明する。
日本雑誌協会が正式に2013年7月~9月分のデータを「公開」したのは11月7日。今件の騒ぎの元となった書込みは10月31日付。たとえ「インターネット経由でアクセスできるサーバー上に置いてあるのだから、公式サイト上からリンクは張られてない、案内されていないものであっても『公開』と同じだ。入力側から引数などのURLの書き換えをしても問題ない。引数の書き換えでアクセスできるようなURLで内部的なデータを作るのが悪い。法的には何ら問題ない」という解釈がなされていたとしても、正式公開前のデータを取得した以上、それは(違法か否かの解釈はともかく)不誠実で不当なデータによるものに違いは無い。
例えるならば学芸祭の本番数日前に、舞台セットをしている最中の、作業半ばの骨組みだらけの写真を撮り、「こんな舞台で劇をするんだってさ」と周囲に吹聴するようなものだ。
そしてその(結果的に)間違ったデータを基に、書込みという形で第三者への流布がなされ、それをソースとして多数の「まとめサイト」が拡散した。そこからさらにソーシャルメディア経由で広域に浸透。一連の「誤報」騒ぎとはこのような流れのようだ。
まとめサイトの功罪、楽しければ何でも良いのか
試しに「アフタヌーン」「半分」で検索すると、「悲報」「月刊アフタヌーン わずか3か月で部数が半分以下に」などのタイトルで(元々の2ちゃんねるのスレッドのタイトルをそのまま流用しているのだから、似たようなタイトルの記事が並ぶのは当然の話)、まとめサイト群がずらりと並ぶ。
スレッド、そしてそれをまとめた「まとめサイト」のコメントを見ると、大部分はあおり、中傷、あざけりの言葉が並んでいる。たまに見かける冷静な判断による分析、コメントがレアアイテムのようにすら感じられる。
例えばこれが「ハンバーガーの肉の量が半分になった」という誤報なら「ならば買うの止めよう」との行動を多分に誘発しかねないため、(間違いを公知したことに加え実害を与えたという点でも)大きな問題となる。今件の場合は「販売冊数が半分になったのなら買うのを止めよう」とのストレートなマイナス行動には結び付きにくいが、スレッドやまとめサイトでのバッシング内容がそのマイナス行動に結びつく可能性は十分にある。そして今なお、アフタヌーンの部数に関する今件誤報について、誤報であることを知らない人、間違った情報「半分以下に減った」ことを信じている人は少なくない。
雑誌のスペックの一つである印刷証明部数について、不誠実な方法で取得した値を公知して、不名誉な印象が広まったこと、そして不確かな情報を「公的には未公開としていた段階で」流してイメージ化させ、面白そうな動きを示しているからと騒いでバッシングの材料にするのは、いかがなものだろうか。
「速報」と名付けておけば、転載ならば、楽しく騒げるネタならば、そしてウケとアクセスが狙えるならば、何をやっても良い。さらには「2ちゃんねるのログをまとめただけ。事実だろうウソだろうと知ったことではない。だから俺たちサイト管理側には何の責任も無い」という一部「まとめサイト」側の無責任な情報公知への姿勢が、今回の誤報を大いに広める主原因となった事は疑う余地が無い。
今件はアフタヌーンという雑誌に対する名誉を毀損しかねない話であるのはもちろんだが、同時に印刷証明部数に関して、問題のある手法で取得したデータが用いられてしまい、その誠実性を傷つけられかねない事態となったことも否定できない。
「うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」。10年以上前に、ある人が語った有名な言い回しである。これは事実に他ならない。しかしこの事実が、「うそや不確かなことを事実であるかのように他人に伝え、あおり、バッシングに用い、自らの益に利用し、第三者を傷つけ冒涜する」ことへの免罪符にはならない。
各方面において、猛省と状況の改善を心から願いたいところだ。いくぶんの自戒も含めて。
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