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値上げしない「トップバリュ」、スーパーのPB(プライベートブランド)はなぜ低価格を実現できるのか

西川立一ラディック代表/流通ジャーナリスト/マーケティングプランナー

■2022年は値上げラッシュが続いているがPBは据え置き

調味料、即席麵、菓子、パン、酒類など食品メーカーのNB(ナショナルブランド)も値上げが相次ぎ、さらに再値上げ、再々値上げも発表される昨今。そんななか、大手スーパーはPB(プライベートブランド)の価格を据え置くことで、安さを際立たせ集客につなげ売上増をもくろむ動きもある。

その動きの筆頭が、イオンのPB「トップバリュ」だ。

■ほぼ全商品値上げしないイオンの「トップバリュ」

2021年9月13日から食料品約3000品目、さらに2022年1月1日から日用品など約2000品目を追加し、5000品目のPB「トップバリュ」の価格を据え置いてきた。

そして4月以降も継続し6月末まで延長、さらに7月以降も価格を維持している。「トップバリュベストプライス」のマヨネーズなど3品目のみ、原料・エネルギー高騰及び急激な円安が重なり、7月4日より値上げ幅を最小限に抑えて価格を改定した。

今後、さらなる価格改定があれば店頭で2週間前に告知するというが、約5000品目の大半は価格を維持していくとしている。

もともと低価格のイメージが浸透している「トップバリュ」だが、値上げラッシュの今、さらにその強みで存在感を示している。

■低価格を実現、スーパーのPBはいつ誕生したのか

 原材料費や物流費などの高騰や円安で、メーカーの多くはコスト増を企業努力で吸収できず、値上げせざるを得ない状況のなかで、なぜ、スーパーのPBは価格にこだわり、価格を据え置くことが可能なのか。

 その理由を明らかにするためには、PB誕生のときまで遡る必要がある。先陣を切ったのは当時小売業日本一だったダイエー。1978年8月、宣伝・広告を行わず、過剰な包装や品質追求を排したノーブランド商品を発売、1980年3月には、PB「セービング」を世に送り出した。

その後、西友「無印良品」、イトーヨーカ堂「お徳用品シリーズ」、ジャスコ(現イオン)「ホワイトブランド」も後を追い、NBと並んでPBが売場に並べられた。

その背景には、メーカーに握られている価格決定権を小売が主導する形に変え、より安く商品を提供しようという狙いがあった。

そのため、NBと品質は同等で、価格は 2,3割安くを目安に商品を開発したが、知名度のあるNBの壁は高く、製造はメーカーに丸投げで、そのメーカーも二流、三流が多く必ずしも品質は同等とは言えず大半のPBはNBと対抗できる勢力には育たなかった。

■低価格と品質を両立、「トップバリュ」の4ブランド戦略

その後、試行錯誤を経て、90年代に入ると、ダイエーや西友が凋落していくなかで、1994年、ジャスコは創業25周年を記念して、現在の「トップバリュ」の前身「TOPVALU(トップバリュー)」を登場させた。

「トップバリュー」は、TOP=最高とVALUE=価値を組み合わせた造語で、どこにも負けない値打ち価格の商品を意味し、圧倒的な低価格と品質を両立させたブランドを目指した。

そして2000年、「トップバリュー」は「トップバリュ」とブランド名を変え、多様化するニーズに対応するため、既存のカテゴリーやブランドを見直した。

スタンダードな「トップバリュ」、低価格な「トップバリュ ベストプライス」、こだわりの「トップバリュ セレクト」、オーガニック&ナチュラルブランド「トップバリュ グリーンアイ」と、4つのブランドに刷新し、現在に至っている。

価格だけではなく、その名のとおり商品価値の追求をした結果、さまざまなニーズの取り込みを図ることになった。

こうして、イオンのPBは年間およそ1兆円(食品以外を含む)を売り上げるまでに成長し、さらに25年度までに2兆円と倍増させようとしている。

販売量の増大により、PBの製造受託に二の足を踏んでいたNBメーカーも参入するようになった。

2011年から販売を開始した「トップバリュ バーリアル ラガービール」は、韓国のメーカーが製造したものだったが、今年3月発売した「トップバリュ プレミアム生ビール」の製造元はサッポロビールだ。

こうして従来はともすれば価格は安いが品質には疑問符がついたPBも、商品開発の体制を強化するなどしてレベルアップし、目指していたNBと同等もしくはそれ以上の品質を実現させている。

■コストコントロールで低価格、PBのシェアは拡大中

そもそも、PBを開発するスーパーは、需給予測を割り出し製造委託先に計画的に発注し、全量買い取りを原則とし、計画的な製造と引き取りで原価を削減、自社の商品を自社の販売網で展開することから、営業費や広告費を削減でき、価格を抑えることができる。

さらに、利益率も仕入れ商品より高いことが多く、コストアップに対して対応力があり、たとえ利益率が下がっても、PBの安さで全体の集客力が向上し、売上が増えることで利幅縮小と相殺できる。

こうしたことからコストが上昇しても、価格を維持することが可能となるわけで、消費者の節約志向も根強く、NBと比較して価格の安いPBはシェアを拡大させている。

その結果、売り場では年々NBが押しやられ、特に下位メーカーの商品は売場から消えていっている。

メーカーのNBとスーパーのPBとの価格バトルはこれからも続いていくが、小売同士でもPB開発の取り組みにより価格差が生じていく可能性がある。

さらに、PBだけではなく、全体の価格戦略において、販売管理費の削減、物流の効率化などのコスト削減などに注力し、低価格を打ち出し、差別化を図る動きができてくることも予想される。

その際は企業の収益力や体力も影響し、強い企業はより強く、弱い企業はより弱体化することになる。

商品価格の上昇局面において、低価格を訴求することは集客効果を高めることにつながり、店舗の競争力が増すことになる。

■価格よりも「品質」のPB商品もヒット

しかし、メーカーの値上げが相次ぐなかでどこまで価格差を保つことができるか、視界がやや不透明になってきたことは否めない。

そこで、終わりのない価格競争とは一線を画して、バリューを訴求して集客に結びつける動きも活発化しそうだ。

スーパーマーケット最大手のライフコーポレーションは、製法にこだわった、おいしさを追求したPB「ライフプレミアム」の商品開発を強化している。

「至福のカステラ」(税別398円・9切入り)は、国産小麦100%、「ライフプレミアム」の「濃厚 コクと旨味のおいしい赤たまご」、「おいしさ極だつはちみつヨーグルト」を使用し、素材にこだわったやさしい甘さが特長の商品だ。

発売から4カ月で累計販売数10万個を突破している。

また、体に優しい素材や製法、健康や自然志向にあわせたPB「BIO-RAL(ビオラル)」を展開。オーガニック・ローカル・ヘルシー・サステナビリティの4つのコンセプトに沿って開発し、環境にも配慮した有機(オーガニック)食品を中心に販売している。

一方で価格訴求型の「スマイルライフ」、ヤオコーとの共同開発「スターセレクト」も展開しており、双方の需要の取り込みを図っている。

前述したイオンと同様に、上質志向と低価格の両面作戦で需要を取り込んでいこうとしている動きに注目だ。

■小売り業界の格差拡大? ディスカウント勢の動きにも注目

こうした動きと並行して、一方で、価格を巡ってスーパーと他業態との戦いもヒートアップする。オーケー、業務用スーパー、コストコ、ドン・キホーテといったディスカウント勢は、攻勢を強めることが予想される。

これらの企業は販売管理費などのコストが低く、収益力が高く、安く売る力があり、価格の上昇局面で安売りを仕掛けて攻勢を強めることが見込まれる。

食品を強化するコスモス薬品やゲンキー、クスリのアオキといったディスカウント型のフード&ドラッグとの集客合戦も一段とエスカレートするだろう。

そうした状況においては、NBメーカーも価格競争に巻き込まれ、価格を維持することが困難な場面に直面することも想定される。

今回の値上げラッシュを契機に、NBとPBの構図が変化する可能性があり、ひいては小売間の業態ないし企業における格差が拡大することも予想される。

ラディック代表/流通ジャーナリスト/マーケティングプランナー

慶應義塾大学卒業後、大手スーパー西友に勤務後、独立し株式会社ラディックを設立、販促、広報、マーケティング業務を手がける。マーケティングコンサルタント業務を手掛ける一方、新聞、ビジネス誌、流通専門誌、ニュースサイトに寄稿・執筆。流通・サービスを中心に、取材、講演活動を続け、テレビ、ラジオのニュースや情報番組に解説者として出演している。著書は、「10年後に食べていくための最強シニアマーケティング」、「九州の流通業界激変図」、「イオンの底力」、「ゆめタウン勝利の方程式」、「ルミネの法則」など。