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取材中「ジブリ美術館へ行く方法教えて!」オスカー俳優ケイシー・アフレック 何度トライも予約取れず涙…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
最新作のプレミアに出席したケイシー・アフレック。共演した親友マット・デイモンと(写真:ロイター/アフロ)

海外のスターにはスタジオジブリ作品の熱狂的なファンも多い。その一人が、ケイシー・アフレック。一般的には長らく「ベン・アフレックの弟」という認知のされ方だったが、2016年の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で見事、アカデミー賞主演男優賞に輝き、実力派スターの地位を固めたケイシー。兄のベンは演技部門でオスカーを獲っていないので(脚本賞のみ)、映画ファンは“弟”の躍進を大いに喜んだ。

そんなケイシー・アフレックは筋金入りのジブリファンのようである。

共同脚本とメインキャストを務めた最新作『インスティゲイターズ 強盗ふたりとセラピスト』での取材時に、こちらが聞いてもいないのにジブリの話題を無理やり入れ込んできたのだ。

この時はマット・デイモンとの2ショットインタビュー。通常、このレベルのスターの取材は時間も短めで、質問数も限られてしまう。こちらは1つでも多く質問したいのに、残り時間2分になったところでケイシーが、「ごめん、時間がないのはわかるけど、どうしても聞きたいことが……」と突然、神妙な面持ちに。横に座るマットも一瞬、呆気にとられていたが、こちらとしては「どうぞ、言いたいことがあれば」と促すしかない。

するとケイシー、「僕は東京に何度も行ってるんだけど、どうしても解決できない問題があって。それは(三鷹の森)ジブリ美術館のチケットのことなんだ。まだ一度も入れない。どうやら、僕にはもう無理なのかもしれない。じつは6ヶ月前に電話で問い合わせてみたんだけど、まだチケットが取れてない。実際に行ける方法はあるの? 今も全然チケットが取れないの?」と切々と訴え始めた。

もうインタビュー時間も終了直前。こちらも調べる時間がなかったので、とりあえずオスカー俳優なのだから、映画会社にコンタクトを取って聞いてみては……とアドバイスをするしかなく、「そうだよね。やってみる。それが僕に残された唯一の希望かもしれない」と、またもケイシーは悲しそうな表情になった。

『インスティゲイターズ 強盗ふたりとセラピスト』より
『インスティゲイターズ 強盗ふたりとセラピスト』より

調べてみると、ジブリ美術館のチケットは1ヶ月前から翌月分が発売されるようで、ちゃんと英語のガイダンスもある。ただ、たしかに今もチケットが取りづらい日程はあるようだし、日本のローソンチケットでの販売なので海外からはハードルが高いのかも。どうか映画会社がケイシーに救いの手を差し伸べて、願いが叶うといいのだが。

愛するジブリ作品に僕のこの声を!

ケイシー・アフレックのジブリ愛エピソードは、過去にも。オスカー受賞直前の出演作『ザ・ブリザード』では、『千と千尋の神隠し』を引き合いに出していた。沈没の危機にあるタンカーでの人間ドラマを描いた同作を、その色彩の使い方、乗組員たちの団結が『千と千尋』に似ていると、やや強引に結びつけて紹介。その際に「僕の夢は、ジブリ作品で声優を務めること。僕の声はちょっと変わってるから」とアピールしていた。残念ながら、そちらの夢も叶っていないので。関係者の皆さま、ぜひケイシーの切なる想いを頭の隅に!

また、これはケイシーの意図ではないが、2017年の主演作『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』では、デヴィッド・ロウリー監督が、ケイシーの役を『千と千尋の神隠し』の“カオナシ”からインスパイアされて作ったと語っている。交通事故で急死した男が幽霊となって甦る物語。ケイシーはほぼ全編、黒い目が2つ付いたシーツを被った状態、まさにカオナシ的ルックスで演技をしている。ジブリ作品と縁も感じたことだろう。

最新作『インスティゲイターズ 強盗ふたりとセラピスト』は、ボストン市長の不正資金を強奪しようとする計画が、どんどん予想外の方向へなだれ込む物語。犯罪は初心者の実行犯役で、ケイシーとマット・デイモンが見せるやりとりは、親友としての素顔も感じられて微笑ましい。

マット・デイモンは10歳の時に、2つ年下のベン・アフレックと友人になった。この時、ケイシーは5歳。彼ら3人は同じ道に進み、現在もこのように友人として、また仕事のパートナーとしての良好な関係が続いている。2002年のマットとケイシーが主演した『GERRY ジェリー』では、彼らが共同で脚本に関わった。

43年もの友情関係が映画にも反映

マットは「ケイシーとは43年の付き合いになるが、一度もエゴを感じたことがない。僕らの根底には愛と尊敬、信頼がある。そして脚本家としてのケイシーの才能は最高!」と、今回の相棒を絶賛。ケイシーも「僕はつねにマットやベンをプロジェクトに巻き込むアイデアに頭を巡らせている。今回のマットが演じた役は当初、無口で出番も少なかったが、彼が引き受けたことでここまで大きくなった」と打ち明ける。

『インスティゲイターズ』は、マット・デイモンとベン・アフレックが新たに設立した製作会社、アーティスト・イクエティが、昨年の『AIR/エア』に続き、2本目にプロデュースした作品。マットによると「ベンは出演できなかったが、プロデューサーとして脚本やポストプロダクションでの役割は果たした」とのこと。

マット、ケイシー、ベンの「友情の証」として本作を観て、じんわり胸を熱くするのも、映画ファンの楽しみかもしれない。そして、ケイシーの独特な声がアニメでどんな効果をもたらすのか、ジブリ美術館に行けたら、どんな満足な顔を見せるのか……などと妄想しながら観るのもオススメだ。

Apple Original Films『インスティゲイターズ 強盗ふたりとセラピスト』

Apple TV+にて8月9日(金)より配信開始

画像提供 Apple

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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