音楽離れは「有料の音楽」離れに限らず「音楽そのものから距離を置く」と共に
音楽離れは確実に
昨今の音楽業界、特にCD市場の不調要因として、インターネットや携帯電話、昔は従来型携帯電話の着メロや着うた、現在では各種音源を使えるスマートフォンの普及に代表されるメディア環境の変化・競合の登場以外に、視聴者の音楽離れが進んでいるのではないかとする意見がある。そこで今回は日本レコード協会が2016年3月に発表した「音楽メディアユーザー実態調査」の最新版となる2015年度版(2015年9月に12歳から69歳の男女に対してインターネット経由で実施。有効回答数は2014。性別・年齢階層・地域別(都市部とそれ以外でさらに等分)でほぼ均等割り当ての上、2010年度の国勢調査結果をもとにウェイトバックを実施)から、「主に音楽と対価との関係から見た、世代・経年における音楽との関わり合いに対する姿勢、考え方の相違」について見ていくことにする。
今件では音楽との付き合い方に関し、新曲への関心の度合いや対価の支払いの面から、大きく次の4つに区分を設定。回答者には自分の音楽への姿勢として、もっとも当てはまる選択肢を選んでもらった。
・有料聴取層:
「音楽を聞くためにCDや有料音楽音源など音楽商品を購入したり、お金を支払ったりしたことがある」
・無料聴取層:
「音楽にお金を支払っていないが、無料動画サイトやテレビなどで新たに知った楽曲を聴いた経験がある」
・無関心層(既知楽曲のみ):
「音楽にお金を支払っておらず、以前から知っていた楽曲しか聴かず、新曲は(テレビなどでも)聴かない」
・無関心層:
「音楽にお金を支払わない。特に自分で音楽を聴かない(音楽には特段積極的な好意、関心を持たない。音楽への本当の意味での無関心派)」
全体的には少しずつだが確実に「音楽へ対価を支払う層」が減り、「既知の曲のみを聴きまわす」「音楽そのものに無関心」の人が増えている。2014年は未調査のために1年分が空いているが、それを考慮しても2015年には大きな「有料音楽離れ」だけでなく「音楽離れ」が進んでいる。なお調査各年では人口分布に従いウェイトバックが行われているので、特定調査年で構成世代が変わったから比率が変化したわけではない。
現状で対価を支払わない層でも新曲に興味を持つのなら、今後「魅力ある、お金を出す価値があると認めた新曲」を購入し、「有料聴取層」に転じる可能性はある。しかし「新曲にすら興味を持たない」場合、何か特別なきっかけが無ければ、購入層に転じる可能性は低い。その観点から今回答値を見直すと、市場の活性化を期待できない層(右側二つ)が増加している状況は、音楽業界にとってはあまり好ましいとは言えない。特に2015年における無関心層の、とりわけ一番右の「無関心(曲聴かず)」の急増は由々しき状態。
せめて「無料聴取」層が増加してくれればよいのだが、2013年まではほぼ変わらない値で推移していたものの、2015年ではそれも大きく減ってしまった。ちなみにこの層は、無料動画配信サイトなどでの視聴が該当しうるため、増えても良さそうなものだが、現実としてはむしろ減った結果が出てしまっている。
「若者の音楽離れ」が全体的に広まる
これを世代別に区分した上でグラフ化したのが次の図。直近となる2015年分のみを別途抽出したものも併記しておく。
音楽業界にとって一番のお得意様は学生。その学生でも少しずつだが「有料聴取」が減り、「無料聴取」ですらも減少し、無関心層が増加している。
20代も似たような動きだが、30代以降は「無関心(曲聴かず)」はほぼ変わらず、「有料聴取」が漸減し、「無料聴取」はあまり変化が無くむしろ増える属性すらあり、「無関心(無料・既知曲)」が増える動きも示していた。要は手持ちの楽曲のみで満足する「お腹いっぱい現象」が生じていた。しかし2015年では状況が一変、「有料聴取」「無料聴取」が大きく減り、「無関心(曲聴かず)」が急激に増える動きを示している。中堅層以降の音楽離れが一気に加速した感はある。
「無関心(曲聴かず)」は音楽そのものへの興味関心が薄れてしまっている層であり、音楽業界にとってこの層の増加は非常に由々しき事態に違いない。2015年では40代以降は4割台がこの層に該当しており、ほぼ同率の値を示している。さらに何らかの形で能動的に曲を聴いている層でも、歳が上になるに連れて「有料聴取」は減り、「無関心(無料・既知曲)」が増えている。人口構成比を考慮すると音楽業界においては今後、この層への方策が強く求められるのかもしれない。
※2016.04.07. 21:12 誤字を修正しました。ご指摘ありがとうございました。
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