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ベゾスの宇宙旅行の下でワクチンも食料も入手できず何百万人が死亡 コロナで世界の大富豪10人の資産倍増

木村正人在英国際ジャーナリスト
コロナ危機で格差が広がる中、宇宙旅行に出掛けて顰蹙を買ったベゾス氏(右)(写真:ロイター/アフロ)

人類99%の生活は悪化

[ロンドン発]死者555万人超を出した新型コロナウイルス・パンデミックが世界の大富豪10人の資産を倍増させる一方で、人類99%の生活は悪化していたことが17日、貧困と不正根絶に取り組む国際団体オックスファムの報告書で分かった。26時間ごとに億万長者が誕生する一方で4秒に1人が死亡する深刻な格差が発生しているという。

米誌フォーブスによると、世界の大富豪10人は次の通りだ。

(1)イーロン・マスク氏(テスラ共同創業者、スペースX創業者)資産2681億ドル

(2)ジェフ・ベゾス氏(アマゾン共同創業者)資産1880億ドル

(3)ベルナール・アルノー氏(LVMH、クリスチャン・ディオールCEO)とその家族、資産1862億ドル

(4)ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト共同創業者)資産1345億ドル

(5)ラリー・エリソン氏(オラクル共同創業者)資産1201億ドル

(6)ラリー・ペイジ氏(グーグル共同創業者)資産1194億ドル

(7)マーク・ザッカーバーグ氏(旧フェイスブック共同創業者)資産1175億ドル

(8)ウォーレン・バフェット氏(米投資家)資産1169億ドル

(9)セルゲイ・ブリン氏(グーグル共同創業者)資産1151億ドル

(10)ムケシュ・アンバニ氏(インド実業家)資産986億ドル

「格差が殺す」と題された報告書によると、コロナ危機が始まって以来、各国政府は世界経済に16兆ドル(約1831兆円)を投入したため株価が上昇し、昨年3月以降だけで億万長者の資産は8.6兆ドルから13.8兆ドルに5.2兆ドルも増えた。これで世界の大富豪10人の資産も膨れ上がった。

ベゾス氏は昨年、自らの米宇宙企業ブルーオリジンの宇宙船「ニューシェパード」で友人たちと宇宙旅行を楽しんだが、地上では何百万人もの人々がワクチンを打ってもらえず、食料を買うこともできず無意味に死んでいった。貧農に「パンがなければケーキを食べればいい」と言ったとされるマリー・アントワネットの瞬間は永遠に続くと報告書は嘆く。

マスク氏「税金を払う金があるなら人類を火星に連れて行く」

世界一の資産家になったマスク氏は政府から数十億ドルの補助金を受け取りながら、労働法に反して工場労働者の組織化を阻んでいる。2018年には連邦所得税を納めておらず、14~18年の“真の税率”は3.27%に過ぎなかった。マスク氏は富裕税に反対し「そのお金で人類を火星に連れて行く」と唱えている。

インドの億万長者は国家のコネを利用して国内最大の港湾運営者、火力発電事業者になり、公共財を手に入れ、コロナ危機の間に資産を8倍に膨れ上がらせた。利益の源泉は化石燃料だ。株式市場の高騰、規制緩和、独占支配、民営化、租税回避、労働者の権利と賃金の低下が格差拡大の背景にある。

世界トップ1%の富裕層がボトム50%の20倍近くの資産を持ち、富豪の男性252人の資産はアフリカや南米、カリブ諸国の女性や少女10億人の資産を上回る。20人の大富豪が発生させる二酸化炭素は世界で最も貧しい10億人より8千倍も多い。アフリカ系の平均寿命は低下。白人と同じぐらい寿命があるなら今も340万人が生きていた。

コロナ危機が始まって以来、推定1700万人の人々がパンデミックの影響を受け死亡した。独占的な製薬会社がワクチンの供給と流通を人為的に制限したことがもたらした残酷な医療格差で、ワクチンを入手できなかった国では何百万人もの人々が命を落とした。「ワクチンアパルトヘイトが人命を奪い、世界的な格差を助長する」と報告書は指摘する。

「エリートから権力と富を奪い返し、実体経済に戻そう」

コロナ危機の2年間で1億6千万人以上の人々が貧困に追い込まれる中、世界の大富豪は1秒間に1万5千ドル(約172万円)、1日に13億ドル(約1488億円)のペースで資産を増やし続けた。そんな中、コロナ危機で膨らんだ財政を立て直すため73カ国が緊縮財政をとり、低所得国と低中所得国の3分の2が教育予算を削減している。

オックスファム・インターナショナルのエグゼクティブディレクター、ガブリエラ・ブッハー氏はこう語る。

「10人の大富豪は全員男性で明日99.999%の資産を失ったとしても人類の99%よりもまだ豊かだ。彼らは現在、最貧層31億人の6倍の資産を有している」。コロナ危機で一段と広がった格差で少なくとも1日当たり2万1千人が命を落としている。「課税を含めエリートから権力と富を奪い返し、実体経済に戻して命を救うことがかつてないほど重要になっている」

億万長者の資産は過去14年間で最も増えた。大富豪10人がコロナ危機で得た利益に99%の税金を課せば(1)世界に必要なワクチンを作る(2)80カ国以上でユニバーサルヘルスケアと社会的保護、気候変動対策の適応資金を提供し、ジェンダーに基づく暴力を削減できる(3)コロナ前に比べ80億ドル(約9160億円)もの利益を得ることができるという。

「中央銀行の金融緩和は億万長者のポケットを満たしただけ」

「世界の中央銀行は経済を救うため何兆ドルもの資金を金融市場に投入したが、資金の多くは株式ブームに乗った億万長者のポケットを満たしただけだ。ワクチンはパンデミックを終わらせるはずだったが、政府は製薬会社が何十億もの人々への供給を遮断することを許した。その結果、ありとあらゆる種類の格差が拡大する危険性がある」とブッハー氏は語る。

2020年、女性は合わせて8千億ドル(約91兆6千億円)の収入を失い、現在働いている女性は19年に比べ1300万人減少している。極端な格差は経済的暴力の一形態であり、少数の特権階級の富と権力を永続させる政策や政治的決定が、世界中の普通の人や地球そのものに直接的な害を及ぼすことになると報告書は警鐘を鳴らす。

英イングランドにおけるパンデミック第2波では、バングラデシュ出身者がコロナで死亡する確率は白人に比べて5倍だった。ブラジルでは黒人がコロナで死亡する確率は白人の1.5倍にのぼっていた。これらは歴史的な人種差別や植民地主義と無関係ではない。現在も直接結びついているのだ。

ブッハー氏は「お金がないわけではない。コロナ危機に対応するため各国政府が16兆ドルもの資金を投入したことからもその言い訳がウソであることが証明された。われわれに不足しているのは新自由主義の縛りから抜け出すために必要な勇気と想像力だけだ」と呼びかけている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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