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このままHuaweiを排除すると日米にとって嫌な事態が:一刻も早く解明を

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国の民間企業Hua-wei(華為、ホァーウェイ)(写真:ロイター/アフロ)

 このままHuawei(ホァーウェイ)を一部排除すると、その頭脳ハイシリコンが最高レベルの半導体を中国国内のハイテク産業に売る可能性が出てくる。そうなると「中国製造2025」は2025年を待たずに達成され、アメリカを凌駕し日本は不要となる。一刻も早く「余計なもの」の解明を。

◆「中国政府と関係が深い」という接頭語の危険さ

 日本のメディアは、ホァーウェイ(華為技術、Hua-wei)を持ち出すときに、まるで接頭語のように「中国政府と癒着している」とか「中国政府と関係が深い」と書き立てているが、それがどれほど危険なことか、気が付いているだろうか。

 ホァーウェイの頭脳であるハイシリコンは、その研究開発した半導体を、ホァーウェイにしか売らず、他社には売らない。ましていわんや、中国政府になど提供したり、いまこの段階ではまだしていないのである。

 もし中国政府と癒着していたり、中国政府と関係が深かったりするのであれば、習近平国家主席は中国共産党一党支配体制の命運を賭けて国家戦略「中国製造2025」を推進しているのだから、中国政府にハイシリコンが研究開発した最先鋭の半導体の成果を提供するはずだろう。

 しかし、ハイシリコンもホァーウェイも、今のところ、まだそうしていない。

 それはハイシリコン立ち上げ時点で、ハイシリコンの成果はホァーウェイにしか提供しないという約束しているからだろう。

 もし、ハイシリコンが半導体を中国国内の他社や中国政府に販売するようなことになったら、どんなことが起きるだろうか?

◆日米にとって嫌な事態が待っている

 まず、今や潰れそうになっている国有企業ZTE(中興通訊)にハイシリコンの半導体を販売すれば、ZTEはたちまち息を吹き返し、習近平としては日本に接近する必要もなくなってくる。

 なぜならZTEは世界トップのアメリカの半導体大手クァルコムからハイレベルの半導体を購入してハイテク製品を製造していたため、アメリカとの取引を禁止された瞬間に壊滅状況になっているからだ。だから習近平は国有企業を立ち直らせるために日本に接近してきた。今や世界中で、ハイシリコン以上に、クァルコムに匹敵したハイレベルの半導体を製造する半導体メーカーはない。<Hua-wei(ホァーウェイ)孟CFO逮捕の背景に「中国製造2025」>にも書いたように、クァルコムがSnapdragon(スナップドラゴン)という半導体の新製品を出すと、ハイシリコンはそれと同じレベルのKirin(キリン)という半導体を出すという具合に、両社は互角で競っている。残念ながら、日本にはクァルコム級の半導体を作る技術はない。

 いまZTEが潰れそうなのは、ハイシリコンが他社には半導体を売っていない証拠でもある。

 ZTEだけに対してではなく、中国にある数多くのハイテク製品を製造するハイテク企業にハイシリコンの半導体を販売すれば、中国のハイテク産業は、ひょっとしたらアメリカを凌駕するレベルと量のハイテク製品を生産することに成功する「危険性」を孕んでいる。

 何も「2025年」を待つことなく、国家戦略「中国製造2025」は目標を達成してしまうかもしれない。

 「窮鼠、猫を噛む」ではないが、販売ルートを極端に制限されると、さすがのハイシリコンも掟を破って、中国国内の他のハイテク企業にハイレベルの半導体を販売する可能性が出てくる。ハイシリコンは、もともとはホァーウェイの研究開発部門の一つであったのだから、ホァーウェイとは一心同体。研究に専念したいというエンジニア精神から独立したに過ぎない。したがってホァーウェイの経営が困窮すれば、その時こそは、ハイシリコンは中国政府にも新開発した半導体を販売することになるかもしれないのである。

 中国政府は強制的にハイシリコンの半導体を政府に提供するように要求することも可能なはずではないか、独裁国家なのだからと、外部からは見えるだろうが、ハイシリコンは今のところ、そうはしていない。その理由はハイシリコンに聞いてみなければ分からないが、ハイシリコンがホァーウェイから独立した時に、その約束で創立しているので、その掟を守っているのかもしれない。

 何れにせよ、ハイシリコンがその技術を中国政府に渡せば、やがてアメリカを凌駕するだけでなく、日本など必要ではなくなるだろう。

 それは日米にとっての悪夢であり、それだけは防がなければならない。

◆「背後に中国人民解放軍が」という接頭語

 日本のメディアがホァーウェイに付ける、もう一つの接頭語に「背後に中国人民解放軍が」というのがある。

 「軍が背景にある」というようなことを言うと、さも、もの凄いことを言ったようなニュアンスを持たせるという、奇妙なムードが日本のメディア全体に漂っている。

 これが、いかに「危険」であるかも、日本人は認識した方がいいだろう。

 ホァーウェイの創業者、任正非氏は、たしかに何百万人もいた中国人民解放軍の兵士の一人だったが、1985年の中国人民解放軍100万人削減によって「解雇された兵士の一人」に過ぎない。無職になってしまった100万人の元兵士たちは、主として自動車産業などに就いた人が多かったが、任正非は通信機器に興味を持った。なぜなら当時の中国で、固定電話があるという家は、ほんの少数でしかなかったからだ。

 会社を興すに当たって、数人の解雇された仲間と日本円で5万円ずつほど出し合って、30万円弱の資金で会社を立ち上げた。

 日本では、これを以て、「背後に軍が」などと針小棒大に形容し、「接頭語」として必ず付けるようになっているほどだ。

 それらを論拠にホァーウェイの販売ルートを締め付ければ、ホァーウェイは、これまで拒絶していた中国政府の要望を受け入れて、ハイシリコンの半導体を、中国の市場だけに開放するという「窮鼠、猫を噛む」手段に出るところに追い込まれるだろう。

  

◆賢明な対中強硬策を

 トランプ政権が対中強硬策に出ていることは大いに歓迎する。なぜなら言論弾圧をしているような一党支配の独裁国家が世界を制覇するようなことだけは阻止したいからだ。

 しかし、アメリカはイラク攻撃のときもそうだったが、自国の都合で「存在しない事実」をでっち上げ、自国の戦略の正当性を主張するという悪い側面も持っている。

 中国の「一帯一路」戦略への「協力を強化する」と習近平に誓った安倍首相よりはまだましだが、この逆襲を考慮に入れない今のアメリカのホァーウェイ攻撃が賢明なのか否か、慎重に考える必要があるのではないだろうか。

 半導体の技術を持っていないZTEの締め付けに関しては賛同するが、ホァーウェイに関しては半導体の技術を持っていながら「他社には提供しない」状況をこの段階ではまだ保持しているだけに、最終的には日米に不利にならないような賢明な計算が求められる。

 もっとも、日本政府の与党関係者がホァウエイのスマホを分解したところ、「ハードウェアに“余計なもの”が見つかった」と言っているので、その「余計なもの」が何であるかを突き止め、「安全保障を脅かすものであることが明確になれば」、行政省庁や自衛隊だけでなく、日本全国で全面的に使用禁止にするしかないだろう。それは全世界に広がっていくだろうから、ハイシリコンが半導体技術を中国政府に渡したところで、中国のハイテク産業は壊滅的打撃を受けることになる。

 世界制覇どころか、「中国製造2025」の達成も不可能になり、中国の一党支配体制を崩壊へと導く可能性さえ孕んでいることになる。

 それは、悪いことではない。むしろ、筆者は、その日の到来を待っていた。そのために闘ってきたような人生だ。

 したがって、一刻も早く「余計なもの」の正体を日本が全力を投じて突き止めることだ。日本でなければならない。なぜなら、アメリカは今回に関しては客観性を持っているとは限らないからだ。それも、一気に、徹底的にやった方がいい。日中関係改善とか、私が最も嫌う偽善的な「日中友好」とか、ましてや「一帯一路」への「協力の強化」などと言っている場合ではない。

 生半可な状態で締め出しだけをすると、ハイシリコンの半導体技術が中国政府に吸収される危険性がある。それを防がなければならない。

 追伸:最初に書いたコラムでは時間の制約上、言葉足らずだったために、筆者の意図が十分には伝わらず、一部に誤解を与えたようだ。大変申し訳ない。筆者の意図が伝わるように加筆修正を行なった。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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