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ビル・クリントン元大統領の「応援」演説

高橋和夫国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

いよいよアメリカの大統領選挙だ。この選挙はスイング州とよばれる7つの激戦州の行方で勝敗が決まるとされる。民主党側はハリス候補のために、バラク・オバマとビル・クリントンという二人の元大統領が激戦州で応援演説を行っている。

このクリントンという人物は、多くの不倫問題を抱えながらも1992年と1996年の2回の大統領選挙を勝ち抜き1993年から2001年までの2期8年の間、ホワイトハウスの住人だった。

1992年の選挙でクリントンに敗れたジョージ・ブッシュ父親大統領が署名し、1994年のクリントン大統領期に発効したNAFTA(北アメリカ米自由貿易協定)が、アメリカ中西部のペンシルバニアなどの激戦州の製造業に壊滅的な打撃を与えた。関税なしにカナダやメキシコから製品を自由に輸入できるようになったために、多くの産業が賃金の安いメキシコに工場を移したからだ。これが高卒白人層の大量失業を生んだ。この人々の恨みが、消えていない。この層が、2016年の大統領選挙で、ドナルド・トランプに投票してビル・クリントンの妻のヒラリー・クリントンを落選させた。

NAFTAの交渉を行い協定に署名したのは共和党の父親ブッシュ大統領だった。ブッシュ家に代表される伝統的な共和党の州流派がトランプに駆逐された背景でもある。

共和党大統領の署名したNAFTAの悪影響でクリントンを責められるだろうか。アメリカの大統領には大きな権限がある。トランプは、大統領を務めていた時期にはオバマ大統領期にアメリカが署名したイラン核合意や地球温暖化の協定から離脱している。クリントンにも、そのつもりならば、NAFTAから離脱する権限があった。だが、もちろんクリントンは、そうしなかった。工場労働者の仕事が音を立ててメキシコに吸い込まれていった。やがて中国にも雇用が失われるようになった。

1992年と1996年の大統領選挙でクリントンを助けたのは、ロス・ペローという富豪のビジネスマンだった。ペローは、第三党から立候補し、敗れたものの、それなりの票数を集めた。その議論は、自由貿易への反対だった。ペローは、クリントンよりも共和党の候補者から票を奪って、結果として民主党を助けた。敗れたものの、強いメッセージを発した。いわば1992年と1996年の「早すぎたトランプ」だった。

その20年後の2016年の大統領選挙で本物のトランプが登場した。そして2024年の大統領選挙でクリントンが、トランプを倒すためにハリス候補の応援演説で激戦州を走り回っている。本当に応援になるのだろうか。

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国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

国際情勢をわかる言葉で、まず自分自身に語りたいと思っています。北九州で生まれ育ち、大阪とニューヨークで勉強し、クウェートでの滞在経験もあります。アメリカで中東を研究した日本人という三つの視点を大切にしています。映像メディアに深い不信感を抱きながらも、放送大学ではテレビで講義をするという矛盾した存在です。及ばないながらも努力を続け、その過程を読者の皆様と共有できればと希求しています。

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