ケンブリッジ大学がチャイナ・マネーに負けた!――世界の未来像への警鐘
イギリスの、あの名門大学がチャイナ・マネーに負けた。習近平政権の要請に応じて、天安門事件関連情報を遮断。中国が世界を制覇した時の悪夢を見せつけてくれた。中国の経済政策になびく日本の未来像でもある。
◆ケンブリッジ大学が中国の言論弾圧に同調!
イギリスの最高権威であるCambridge University Press(ケンブリッジ大学プレス)は18日、大学のウェブサイトに掲載してきた天安門事件などに関する論文300点ほどについて、中国からのアクセスをブロックすることを明らかにした。イギリスのThe Guardian(ガーディアン)がCambridge University Press censorship 'exposes Xi Jinping's authoritarian shift'という形で報じた。タイトルを直訳すれば、「ケンブリッジ大学プレスの検閲が習近平の独裁的な新たな動きを明らかにした」あるいは(もっと直訳すれば)「ケンブリッジ大学プレスの検閲は、習近平の権威主義的なシフトを公開している」ということになろうか。
要は、ケンブリッジ大学プレスは中国当局からの要求に従って、中国にとって好ましくない敏感な内容の論文が中国国内で広まることを警戒する中国の意向に沿って行動したということである。
ケンブリッジ大学出版局の中国問題、特に中国歴史研究においては世界の最高権威を保ってきており、筆者自身、『毛沢東――日本軍と共謀した男』の英語訳をこの出版局で出版すべく、日夜努力してきた。翻訳は昨年末に終わっており、後は出版を待つだけとなっていたのだが、それが途中から、何だか動きが鈍くなってきた。
そのためイギリスがEUから離脱し、中国依存度を高めるか否かを、神経質に考察している最中でもあった。
変だ、変だと思いながら情勢を見守っていたところ、ガーディアンが遂に現状を暴露してしまったという形だ。報道によれば、ケンブリッジ大学プレスのthe China Quarterly(チャイナ・クォリティ)という学術雑誌に載っている論文300ほどを、中国からは見ることができないように遮断したとのこと。内容としては天安門事件を始めとして、チベットなどの少数民族問題や台湾問題などがある。
中国ではGreat Fire Wall(万里の防火壁=ファイヤーウォール)で海外の(中国政府にとっての)有害情報を遮断する国家レベルのフィルターがあるが、このフィルターに穴をあけたり壁を越えたりするソフトがあり、そのソフトを使えばアクセスできるのである。最近では、このソフトが使えないようにする仕掛けも国家レベルで行なっているが、完璧ではない。そこで、ケンブリッジ大学側に、中国からのアクセスを遮断するように要求したわけだ。
ケンブリッジ大学側は、明確に“with a Chinese request”(中国の要求に従って)遮断したと回答している。中国側からは「要求に従わなければ、中国での業務全般に悪影響が出ると警告された」とのこと。
遂に恐れていた中国の言論弾圧の世界化が始まろうとしている。
◆日本は対中政策を考え直すべき
自民党の親中派議員の中には、中国が提唱する一帯一路(陸と海の新シルクロード構想)やAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加して、バスに乗り遅れないようにすべきと提唱する議員がいる。
それに対して筆者は、「中華帝国形成に協力すべきではない。やがて中国共産党による言論弾圧が世界を制覇することになる」と警鐘を鳴らしてきた。そのことはこのコラム欄でも何度も書いてきたし、特に『習近平vs.トランプ 世界を制覇するのは誰か』は、その警鐘のために出版した本だ。
しかし日本政府は今のところ筆者の警鐘よりは、安倍内閣が進めようとする「中国へのシフト」に傾いており、特にトランプ政権がガタガタと崩れそうになっている今、中国に与(くみ)していないと、「日本が取り残されるのではないか」と気にしているように見受けられる。
しかし、「このケンブリッジ大学プレスの末路を見よ!」と言いたい。
これが日本を待ち受けている未来像なのである。
日本は、こんなことになっていいのか?
そうでなくとも、日本は中国の顔色ばかり見ている。
その結果、何が待ち受けているか、真剣に考えて欲しい。
日中国交正常化45周年などといっている場合ではない。中国が言論弾圧をする国で、ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏が、どのようにしてその尊い命を落としたのかを忘れないようにしてほしい。チャイナ・マネーに尊厳を買われるような日本になって欲しくないと、祈るばかりだ。