未来投資会議で議論された「成長戦略」の今後の進め方は、ビジネスにも大きな影響があるので要チェック!
2月7日、「未来投資会議」(第35回)が開催され、「新たな成長戦略実行計画策定に向けた今後の進め方のたたき台」について議論された。こうした成長戦略の今後の進め方については、政治行政分野の方々だけでなく、ビジネスに関わる皆さんにとっても関係するところが多い。とくに日本の多くのスタートアップ企業にとっても重要な記述が多くあるので、簡単に内容を紹介しようと思う。
この記事は、2月13日に編集長を務める株式会社メルカリの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」で書いた記事『「新たな成長戦略実行計画策定に向けた今後の進め方のたたき台」を読んでみた』をリライトしたものだが、こちらのブログでもこうした政策についてや政策企画分野の活動についても紹介しているので、是非、合わせて見てもらいたい。
さて、「未来投資会議」とは、議長を内閣総理大臣、議長代理を副総理、副議長を経済再生担当大臣兼内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、内閣官房長官、経済産業大臣が務め、多くの閣僚や産学の有識者も参加する会議である。まさに、日本の成長戦略と構造改革の検討の中心とも言える会議だ。日本経済再生本部の下に、第4次産業革命をはじめとする将来の成長につながる分野での大胆な投資を官民が連携して進め、「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略と構造改革の加速化を図るためのもので、産業競争力会議や未来投資に向けた官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔として開催されている。
出典: 未来投資会議(第35回)配布資料「新たな成長戦略実行計画策定に向けた今後の進め方のたたき台」
今回の「たたき台」では、「1丁目1番地」にスタートアップやオープン・イノベーションにかかる記述があるが、まずは「キャッシュレス」と「フィンテック」に関する記述についてから見てみたい。
統一QRコードである「JPQR」の海外展開やタッチ式決済のユーザーインターフェイス統一、公共料金のキャッシュレス化推進などが明記されているほか、自治体の公共料金のキャッシュレス化の推進、加盟店手数料・振込手数料の見直しや入金サイクルの見直しといった個別の論点への言及もある。
9.キャッシュレス
〇 日本発の統一QRコードの海外展開やタッチ式決済のユーザーインターフェイス統一によるインバウンド決済の促進
・ アジアで普及する日本発のQRコード決済につき、決済サービスが乱立する中、消費者と店舗の利便性向上の観点から、アジア各国との間で規格の相互乗り入れを可能とすることで、統一QRコード(「JPQR」)の海外展開を図る。
・ 欧米からのインバウンド需要に対応する観点から、(Suicaに代表される)タッチ式決済について、国ごとに異なる複数の規格に対応した端末の開発・普及を推進。
〇 自治体の公共料金のキャッシュレス化推進
・ 自治体のキャッシュレス導入の手順をまとめた「キャッシュレス決済導入手順書」を策定し、自治体のキャッシュレス化を後押し。
〇 電力供給停止等の災害時のキャッシュレス対応の検討
・ 災害時には、電源や通信環境が途絶することで、キャッシュレス決済を利用できなくなるリスクがあることから、災害時にも消費者や店舗が安全・安心にキャッシュレス決済を利用できる環境整備に向けて検討。
〇 加盟店手数料・振込手数料の見直し、入金サイクルの見直し
・ 地方の中小店舗へのキャッシュレス普及にとって課題となっている、加盟店手数料率の高さや入金サイクルの長さといった課題を整理し、より低廉で利便性の高いサービス、システムに向けた対応を検討。
フィンテックについても、100万円以上の資金移動上限の改正や、一度登録さえすれば、銀行・証券・保険の全ての分野の商品・サービスを扱えるようにする金融仲介法制整備といった足元で検討が進む案件への言及があるほか、新たに、銀行への接続手数料や銀行振込手数料のあり方や、多様な事業者同士の安価な少額送金を可能とする決済システムのあり方など、第4次産業革命の進展に伴う決済インフラのあり方について記載されている。
10.フィンテック/金融
〇 フィンテック/金融分野の法制の見直し
1 決済法制の改正を前提に、銀行以外も100万円超の送金を可能にする等
2 金融仲介法制の整備を通じて、一度登録さえすれば、銀行・証券・保険の全ての分野の商品・サービスを扱えるようにする
〇 第4次産業革命の進展に伴う決済インフラのあり方
・ 銀行への接続手数料や銀行振込手数料のあり方や、多様な事業者同士の安価な少額送金を可能とする決済システムのあり方。
デジタル市場への対応についても、デジタル技術の社会実装を踏まえた規制の精緻化、G20大阪サミットでも提示されたDFFTの実現に向けた国際的な議論とWTOにおけるデータ流通ルールの整備、デジタル・プラットフォーム事業者と利用事業者の取引関係の透明化などのデジタル市場のルール整備、5Gの加速及びポスト5Gの情報通信システム・半導体開発及び製造技術開発などが書かれている。
7.デジタル市場への対応
〇 デジタル市場のルール整備
・ デジタル市場の拡大に対応し、イノベーションを阻害しない形で可能な限り自主性を尊重したルールの制定(法律) を前提に、デジタル・プラットフォーム事業者と利用事業者の取引関係の透明化などを図る。
〇 デジタル広告市場
・ デジタル広告(インターネット広告)市場は、ここ数年、デジタル・プラットフォーム事業者により垂直統合化されて寡占化が進行。市場の透明性・公正性に関する懸念や、競争制限行為などの懸念が出てきている。
・ デジタル広告市場の競争状況を評価し、ターゲッティング広告のあり方を含め、透明性や公正性について検討。
〇 DFFTの実現に向けた国際的な議論とWTOにおけるデータ流通ルールの整備
・ G20大阪サミットにおいて我が国が主導して立ち上げた「大阪トラック」の下、データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト (DFFT)の考えに基づき、データ流通、電子商取引など、各国の規制やガバナンスに至る多様なルール作りを産業界も交え、加速させていく。
・ 特に、WTO電子商取引交渉については、具体的なルール作りの議論が進められており、本年6月の第12回WTO 閣僚会合までに実質的な進捗を得られるよう取り組む。
〇 デジタル技術の社会実装を踏まえた規制の精緻化
・ デジタル技術の社会実装を踏まえた規制の精緻化については、モビリティ、フィンテック/金融及び建築の3分野を中心に、中長期的な観点から、将来の規制のあり方に係る問題点や課題の洗い出し。
・ モビリティ分野
- AI等を活用した完成検査の合理化や、無人自動運転車における運行時に取得するデータを活用した型式認証審査の合理化
・ フィンテック/金融分野
- 取引履歴データ等を活用したプロ投資家・高齢顧客対応や、AIを活用したマネー・ロンダリング対策
・ 建築分野
- 赤外線装置を搭載したドローンによる建築物の外壁の定期調査や、センサーによるエレベーターの定期検査
〇 5Gの加速及びポスト5Gの情報通信システム・半導体開発及び製造技術開発
・ 安心・安全な5G情報通信インフラの早期かつ集中的な整備を実施。
・ 我が国基幹産業の競争力の核となり得るポスト5Gの情報通信システム・半導体技術の開発や製造技術開発を推進。
出典: 未来投資会議(第35回)配布資料「新たな成長戦略実行計画策定に向けた今後の進め方のたたき台」
また、成長戦略には明示のなかったスタートアップ支援についても、「スタートアップ企業、オープン・イノベーション」と今回の資料の冒頭に項目立てされ、大企業とスタートアップ企業の連携促進などが書かれている。「兼業・副業の促進に向けたルールのあり方」や「フリーランスなど雇用によらない働き方の環境整備」なども含め、人材のさらなる活用が意識されている。
1.スタートアップ企業、オープン・イノベーション
・ マークアップ率については、足下で米国企業のマークアップ率は日本企業の1.4倍となるなど、高付加価値・ 高価格の米国・欧州企業に差を付けられている。
・ アベノミクスの結果、企業に蓄積された現預金を循環させ、フロンティアの部分への投資や研究開発に回すことを検討。
〇 大企業とスタートアップ企業の連携促進
・ 日本の大企業の抱える現預金をスタートアップ企業への投資につなげるため、税制や予算による支援を実施。
・ 新興国企業と日本企業との連携による新事業創出(アジアDXプロジェクト)を推進。
〇 大企業とスタートアップ企業の契約の適正化
・ 大企業の問題点として、(a)契約に時間がかかる、(b)意思決定スピードが遅い、(c)企業秘密等の使用許諾の条件が厳しい、などが指摘。スタートアップ企業が、大企業から片務的な契約上の取り決めを求められるケースも多い。
・ 大企業とスタートアップ企業の連携の環境整備を図るため、技術保持契約など契約に関するひな形、事例集、 独占禁止法のガイドラインの策定について検討。
〇 スピンオフを含めた事業再編促進のための環境整備
・ 日本企業の1社当たり事業部門数は、1990年代以降、横ばいで推移しており、事業再編は進んでいない。スピンオフを活用した分離件数は、2010年から2018年の間で、米国では273件あるのに対し、日本では実績はゼロ。
・ 企業価値向上のためのスピンオフを含めた事業再編の促進(指針の策定等)。 (注)子会社の株式を株主に譲渡することにより会社を分離する方式。
「学校現場におけるオーダーメイド型教育(ギガ・スクール) 」や「大学教育と産業界、社会人の創造性育成のあり方」など教育に関する明記も増えており、成長戦略における人材活用や人材育成の重要性を意識したものに感じる。
また、地域のインフラの維持が示され、スーパーシティ構想の早期実現などについても書かれている。
8.地域のインフラ維持
・ 一般乗合旅客自動車運送事業者(乗合バス事業者)等および地域銀行(総称して「地域基盤企業」)のサービスの重要性に鑑み、独禁法特例法の施行を通じ、合併等又は共同経営による経営力の強化、生産性の向上等により、地域基盤企業が提供するサービスを将来にわたって維持することを図る。
・ スーパーシティ構想の早期実現(住民等の合意を踏まえ、域内独自で複数の規制改革を同時かつ一体的に進めることを可能とする)。
今回、公開されたのは、未来投資会議の資料としてのたたき台だが、この国の成長戦略の今後を考える参考になるのではないかと思う。
<参考>