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日本はAIIBに参加すべきではない――中国の巨大化に手を貸すな!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
一帯一路国際協力サミットフォーラムで演説する習近平国家主席(5月14日、北京)(写真:ロイター/アフロ)

日本がAIIB参加を前向きに検討し始めたようだ。これがどれだけ危険なものであるか、日本は気づいていない。日中戦争が中国共産党を巨大化させたように、日本のAIIB参加は中国の覇権に手を貸すことになる。

◆「二階-習近平」会談をCCTVが大きく報道

5月16日夜7時(日本時間8時)、中国の国営テレビCCTVの全国ニュースは、自民党の二階博幹事長と習近平国家主席が対談する様子を大きく報道した。2016年6月に鳩山由紀夫元首相が、中国主導で設立されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)の顧問となる「国際諮問委員会」の委員に就任したときも同じだった。

中国は鳩山氏こそが日本最高の日中友好人士であると宣伝したし、今回も中国は二階氏を讃えている。

鳩山氏はあのとき、「世界の多くの国々がAIIBに協力している。AIIBは中国が主導するが、多くの国が中国主導のもとでアジアのインフラ整備を進めることは非常に重要だと考えている。AIIBの重要性は世界が認めている。日米も参加すべき」と語っていた。

今般、中国が主宰する一帯一路サミット(正確には「一帯一路国際協力サミット・フォーラム」)に参加した二階氏も、AIIBへの日本の参加に関して「どれだけ早い段階に決断をするかということになってくる」とした上で、「あまり大きく遅れをとらないうちに、この問題に対応するというぐらいの心構え、腹構えが必要だ」と述べている。

たしかに数の上では、日本主導のADB(アジア開発銀行)の参加国が67ヵ国・地域であるのに対して、AIIB参加国は77ヵ国・地域とADBを上回ってはいる。

しかし、AIIBが「一帯一路」構想とペアであることに、日本は気付いているだろうか?

そして「一帯一路」構想は、実は中国が陸と海の新シルクロード構想として「巨大経済圏」を謳いながら、実は 安全保障に関して世界を制覇するもくろみで動いていることに目を向けているだろうか?

◆新植民地政策が現れている例

たとえばスリランカの場合、南部にあるハンバントタ港は中国からの融資(年利7%弱)で建設された。完成しても船舶の利用が少ないため、ゴーストタウンならぬ「ゴースト・ポート」化している。財政難にあえぐスリランカ政府は昨年、11億ドルで港湾管理企業の80%を「99年間」中国企業に貸し出すこととなった。

この「99年間」!

皆さんは、なんの数値を連想なさるだろうか?

それはアヘン戦争後の1898年に、イギリスが香港を清朝政府に割譲させ、「99年間の租借」を決めた数値と一致する。香港は99年後の1997年に中国に返還されたが、それまで「99年間」、イギリスの統治下に置かれたことは、今さら言うまでもないだろう。

一帯一路とAIIBは、中国の「新植民地化政策」以外の何ものでもない。

◆習近平政権の国家スローガン「中華民族の偉大なる復興」とは

習近平政権の国家スローガンは、「中華民族の偉大なる復興」と「中国の夢」。

「偉大なる復興」は「アヘン戦争をきっかけに列強諸国により中国は植民地化されたが、これからは中国の時代。その復讐をして、今度は中国が経済的に植民地化してやる」という心を内に秘めている。

それが如実に表れているのが、この「99年間」という数値なのである。これは新たな形の「租借」で、これらを拠点に中国は港を軍港化し、中国の安全保障を確保していく野心を「美辞麗句」の下に隠しているのである。

そのことを明確に認識しているインドは、このたびの一帯一路サミットに代表を送らなかった。中国が「真珠の首飾り」と称されている安全保障(=軍事)戦略を、一帯一路の「海の新シルクロード」に含ませていることを、インドは見抜いているからだ。

「真珠の首飾り」とは、香港からポートスーダンまで延びる中国の海上交通路戦略で、パキスタン、スリランカ、バングラデシュなどインド洋を経由して、モルディブ、ソマリアなどを通り、マラッカ海峡、ホルムズ海峡などへと触手を伸ばす中国の海路戦略だ。

この海路戦略は、「経済の名のもとの軍事戦略」以外の何ものでもない。

日本がAIIBや一帯一路に参加することは、すなわち中国の世界制覇に手を貸すことなのである。

日本はいったい、何度失敗すれば気が済むのだろう。

◆毛沢東は日本軍を利用して中共軍を巨大化させた

拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』にも書いたように、中国共産党の毛沢東は、日中戦争における日本軍を利用して中国共産党を巨大化させ、中共軍を強力なものにしていった。だから毛沢東は「皇軍に感謝する」と何度も言ってきたのである。これを「毛沢東流のユーモア」と解釈させる中国に共鳴する日本人が多いことは、実に残念だ。

中国共産党の洗脳が、どれだけうまいか、気づくべきである。

1972年に日中国交正常化した後に中国に対して経済支援を続けてきたのは、やむを得ないことではあれ、敗戦に伴う戦争賠償金を支払って、戦後処理を終わりにすべきだった。

しかし老獪(ろうかい)な毛沢東は賠償金を断って、未来永劫に日本から経済支援を受ける手段の方を選んだ。結果、日本はODA支援を続けてきたし、天安門事件(1989年6月4日)により西側諸国の経済封鎖を、いの一番に解いて、中国への経済支援を主導していったのである。1992年の天皇陛下訪中は中国(江沢民政権)からの強い要望によるもので、中国は「天皇が訪中してくれさえすれば、過去のことは一切問題にしない」と約束した。 

しかし、どうかだったか?

天皇陛下訪中を見た西側諸国は経済封鎖を解き、アメリカなどは、むしろ非常に積極的に中国への経済支援に邁進した。そうすれば、やがて中国が民主化するだろうなどという、あり得ない期待をしていたからだ。

その結果、2010年には中国のGDP規模は日本を凌駕し、日本への「歴史カード」を、これでもかとばかりに突き付けてくるようになる。

日米ともに、まんまと中国の長期戦略の罠に嵌ったのである。

こうして日本は中国に「洗脳」され続けては、中国を支援し、今では「友好」の名のもとに中国に「頭を下げて」、日本の国益を決定的に損ねる道を歩むことを、今もやめようとしていない。

それがAIIBへの参加であり、一帯一路への協賛なのである。

◆「中華帝国」の夢

このたびの一帯一路サミットで、習近平国家主席は「中国は決して思想や政治体制を輸出しないし、内政干渉をしない」という主旨のスピーチをしている。

本当だろうか?

たとえばモンゴルの場合。

仏教徒の多いモンゴルは昨年、ダライ・ラマ14世を招聘した。中国は抗議し、もしダライ・ラマを選ぶのなら、一帯一路には参加するなと脅しをかけてきた。

モンゴルは、チャイナ・マネーを選んだ。思想、精神文化の自由を犠牲にして、中国の思惑を選んだのである。

フィリピンのドゥテルテ大統領は4月末、トランプ大統領と電話会談した際に、トランプ大統領から「ホワイトハウスに来ないか」と訪米の誘いを受けた。しかしドゥテルテ大統領は「他国の訪問など、忙しくて」ということを理由に訪米を断っている。そして北京詣でをして一帯一路サミットに参加し、習近平国家主席と首脳会談を行ったのだ。

その前に開催されたASEAN首脳会議の共同声明から南シナ海問題をドゥテルテ大統領は削除させ、朝鮮半島情勢に関してのみ「ASEANは深く懸念している」とした。そして中国同様、北朝鮮とアメリカの軍事的緊張を緩和すべきだと記者会見で述べている。

このように、有形無形の圧力を中国は関係国にかけ、やがて「中国の思想」に染まった「中華帝国」を築いていく夢を実現させる野心を潜ませているのである。

◆一帯一路構想は「文化」が重要と、中国

CCTVでは連日、一帯一路特集番組を組んできたが、その中で「鉄道、道路、空港、港、パイプライン」などのハード面も大切だが、最も重要なのは「文化」「精神」といったソフトパワーだと断言している。ソフトパワーは「戦わずして勝つことのできる最強の武器」とも強調。

日本人は今、北朝鮮の横暴さのお蔭で、まるで中国が常識的で平和的であるかのような錯覚を覚えているかもしれないが、ノーベル平和賞受賞者の劉暁波はいま監獄の中にいることを忘れてはならないし、「中国は開放的だ」というその言葉の下で、Great Fire Wall(万里の防火壁)という、外部の民主的情報を「有害情報」として遮断する情報の国家的壁があることを忘れてはならない。

筆者が老体に鞭打ちながら、こうしてコラムを書き発信し続けるのは、筆者が書いた自らの体験である長春封鎖の事実(『チャーズ 中国建国の残火』)を、中国が絶対に認めようとしないからである。

日本がAIIBなどに参加したら、ただひたすら戻ってこないお金(日本国民の血税!)を中国のために注ぎ続け、中国を巨大化させることに貢献するだけで、日本国民にとっては、百害あって一利なしと心得るべきだろう。筆者は反対だ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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