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ウォルツ米副大統領候補 教師として中国赴任後10年連続訪中

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
民主党副大統領候補に選ばれたティム・ウォルツ氏(右)(写真:ロイター/アフロ)

 8月6日、アメリカ民主党の副大統領候補にティム・ウォルツ氏が決まった。ウォルツ氏は1989年から1年間、中国広東省佛山市に外国人教師として赴任後、中国がものすごく気に入って10年間に及び30回以上訪中し、中国旅行会社まで設立している。中国のネットにはウォルツ氏が中国を絶賛する記事がいくらでも貼られているし証拠写真もある。

 ウォルツ氏が中国を初めて訪問したのは1989年8月。6月4日の天安門事件をアメリカで見た上で赴任先に中国を選び長いこと中国を褒めまくっていたが、中国の経済成長に伴いアメリカの対中世論が厳しくなると、それに合わせて突然論調を変えている。

 中国のネットでは「本当は親中なのにアメリカでのバッシングを避けるため中国批判を偽装している」と指摘する声が大きい。

 本稿ではウォルツ氏の、中国との関係における「正体」を解剖する。

◆ウォルツ氏「中国に赴任したことは、私にとって人生最高の出来ごと!」

 中国大陸のネットはウォルツ氏の話題で持ちきりだ。彼が「大の中国ファン」だからである。一つだけリンク先を書くと8月7日の<极客老唐>などがある。以下は多くの記事を参考にしながら、中国におけるウォルツ論をまとめたものだ。

 1964年4月6日に生まれたウォルツ氏は、1989年8月に中国広東省の佛山市にある佛山中学(正式名は佛山第一中学)(高等中学=高校)に英語教師として赴任した。ハーバード大学の国際教育交換プログラムである「World Teach Program(世界教育プログラム)」に応募し、中国を選んだ。

 のちに(2007年に)アメリカのメディア「THE HILL(ザ・ヒル)」の取材を受け「外国人教師としての赴任先になぜ中国を選んだのか?」という質問に対して「中国が成長しつつあるからだ(=これからは中国の時代だからだ)」と回答している。小さいころから共産主義が好きだったとも回顧している。

 1989年9月以降の、佛山中学での同僚たちとの写真が中国のネットに出回っているので、それを図表1に示す。

図表1:ウォルツ氏と佛山中学の同僚たち

出典:中国のWeibo(左から3人目がウォルツ氏)
出典:中国のWeibo(左から3人目がウォルツ氏)

 また赴任中に、「持ち帰れないほどのもの」を多くの友人からもらったとも回顧しているが、図表2にあるのはその友人からもらったプレゼントの一つで、大きな扇がよほど嬉しかったのだろう。中国のネットで出回っている写真の一つだ。

図表2:友人にもらったプレゼントを喜ぶウォルツ氏

出典:中国のWeibo
出典:中国のWeibo

 帰国後にウォルツ氏は「中国に行ったことは、私の人生で最高の出来ごとだった!」と感激したと言っているらしい。中国のネットの至るところにそう書いてあるが、香港に住んでいるらしいコラムニストKangHexinさんがX(元Twitter)で数多くの昔の新聞記事を投稿しているので、その中の一つを図表3に示す。1990年9月18日に受けた取材の記事で、佛山中学での思い出に関して"No matter how long I live, I'll never be treated that well again,"(どれだけ長生きしても、あんなにまで良くしてもらえることは二度とないだろう)とまで言っている。

図表3:ウォルツ氏「どんなに長生きしても、あんなにまで良くしてもらえることは二度とないだろう」

出典:KangHexinさんのX(1990年9月18日のStar-Herald紙)
出典:KangHexinさんのX(1990年9月18日のStar-Herald紙)

 1994年に結婚したウォルツ氏は、数十名の学生たちを伴って中国に新婚旅行に行った。それからというもの、中国に旅行するアメリカの学生を組織したEducational Travel Adventures Inc.(教育的トラベル冒険)という旅行代理店を設立し、アメリカの若者が中国に行くことを奨励した。2003年までにウォルツ夫妻は毎年夏に中国に旅行し、30回以上、10年連続で訪中している。旅行代理店は2008年になって閉鎖された。

 香港の鳳凰網にも、1989年から2016年までウォルツ氏は30回ほど中国を訪問したとあるので、1年に3回というくらいのペースで訪中していたことは確かなのだろう。また鳳凰網には「ウォルツ氏は対中政策に関しては、中国との通商交渉の正常化を主張し、中国市場はかけがえのないものであると考え、米中は敵対関係になるべきではないと考えている」と書いてある。

 ところが、2010年に中国のGDPが日本を追い越し世界第二位に上り詰める頃からアメリカでは「中国潰し」が始まり、「反共反中」論が主流となりはじめた。

 ウォルツ氏の言論が変節していくのは、それからしばらくしてからのことである。

◆アメリカメディアVOA:ウォルツ氏は対中人権派でダライ・ラマとも親交

 2024年8月6日のアメリカのメディアVOA(Voice Of America)はウォルツ氏と中国との関係に関して以下のようなことを列挙している。

 ●ウォルツ氏は、2014年、米下院議員在任中にVOAのインタビューを受け、天安門事件に関して「6月4日に目が覚めてニュースを見て、想像を絶する出来事が起こったことを知ったのを覚えています。私たちは決断を下さなければならず、同僚の多くが中国から米国に戻り続けるのではなく、この物語を確実に伝え、中国に私たちが彼らを支持していることを知らせるために、これまで以上に中国に行かなければならないと感じました」と回答している。

 ●ウォルツ氏は、連邦議会議員として、中国の人権記録に焦点を当てた「米国中国議会執行委員会(CECC)」の9人のメンバーの1人であり、中国での広範な現場経験を持つ数少ない議員の1人だった。

 ●ニュースレター「チャイナトーク」のジャーナリストノートは、ウォルツ氏を「人権を深く懸念する親中派の人物」と表現した。

 ●「チャイナトーク」の記者のノートによると、2016年の人権に関する議会公聴会で、ウォルツ氏はチベットについて語った。ウォルツ氏はそのとき「アメリカは普遍的な自由という考えに基づいており、中国政府に対して、チベット人に対する宗教の自由の規制を緩和するよう、引き続き強く求めなければなりません」とした上で、「私はチベットの未来について、中国政府との実りある対話をすべきだと思っています。チベットの生活の質、清潔な水へのアクセス、医療サービスの改善には、チベット人の生活様式を維持するための努力も含まれなければなりません」と語ったという。

 ●2018年3月15日、ウォルツ氏はチベットの精神的指導者であるダライ・ラマと一緒に写った写真をツイートし、2016年にダライ・ラマと「人生を変えるランチをした」と述べた。「私たちは謙虚さ、忍耐、思いやりについて話しました。私は毎日、これらの価値観を自分の仕事に具現化しようとしています」と彼は語った。

 ●2011年11月1日、ウォルツは「中国の法律活動家・陳光誠とその家族の虐待と超法規的拘禁についての調査」に関する議会執行委員会の公聴会で証言し、「私は中国政府の一部が法の支配の強化を提唱していることを認識しています。しかし、陳光誠氏とその家族が強制的に拘束され、虐待されている状況を考えると、中国が法の支配に真剣に取り組んでいるとは思えません。中国が、公然と本国の法律と国際人権認識に違反しておきながら、人権問題に関して真剣に考えているとは思えないのです」と語っている。

 ●議員としての在任中、ウォルツ氏は他の議員とともに、中国の人権記録に関する一連の決議を共同提案した。これらの決議には、2017年の香港人権と民主法案、ノーベル平和賞受賞者である劉暁波氏の釈放を支持する決議、劉暁波氏の死後の生涯と遺産を追悼する別の決議が含まれる。また、「投獄された抗議者の処遇について調査を求める、天安門虐殺20周年記念に関連する決議」や「中国人権活動家・黄琦氏と谭作人に関する決議」および「中国政府の承認を得て囚人から臓器を摘出したという報告について懸念を表明する決議」などを支持するという内容も含まれる。

 ●2016年、ウォルツ氏は「中国が南シナ海に新たな島を建設し、現在、その島に飛行機を着陸させている」という懸念に関して建議した。(ウォルツ氏に関するVOAの中国関連情報はここまで)

 中国のネットでは、あれだけ対中友好的なウォルツ氏が最近、突然のように対中批判を盛んにおこなうようになったのは、「自らの保身のため」で、「批難を避けるためのポーズを取っているだけかもしれない」といった見方が散見される。

 誰がどれだけ、より対中強硬であるかを競う米大統領選の中で、ウォルツ氏の対中姿勢がどのように掘り返され選挙民が判断するのか、興味深いところである。

 11月5日まで、目が離せない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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