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預金封鎖と政府債務の削減

久保田博幸金融アナリスト

2月16日のNHK総合テレビ夜9時からのnews Watch9では、「預金封鎖、もうひとつのねらい」と題して、戦後実施された預金封鎖がピックアップ記事として報じられた。なぜこのタイミングでこれが報じられたのか。あらためて日本の財政悪化に対して警鐘を鳴らそうとしていたとも考えられる。

戦後の預金封鎖とは何か。1946年2月に政府はインフレの進行に歯止めをかけることを目的として、金融緊急措置令及び日本銀行券預入令を公布した。5円以上の日本銀行券を預金、あるいは貯金、金銭信託として強制的に金融機関に預入させ、既存の預金とともに封鎖のうえ、生活費や事業費などに限って新銀行券による払い出しを認める、新円切り替えが実施された。

番組では預金封鎖によるインフレ対策は限定的であり、政府の目的は別の面にあったと指摘している。つまり国民の預金を封鎖し、その際に銀行預金などの国民の資産を把握して、資産に対して税金を掛けて政府収入にあて、政府債務を削減することが大きな目的となっていた。実際に預金封鎖と同時に最高90%も課税される財産税が課せられていた。

公債残高は敗戦時に1408億円、政府保証等の残高は960億円に上がっていたが、猛烈なインフレーションの結果、1944年から45年までに実質政府債務残高はすでに3分の1以下に減ったとされる。しかし、それだけでなくハイパーインフレーションの最中に実施された1946年7月の財産税と戦時債務保証打切りによる企業・家計部門の負担での清算も大きかったとされている。ここに預金封鎖も絡んでくる。戦後の混乱に紛れ、政府債務を一気に解消するという荒技を行っていたのである。

日銀の審議委員の候補とされる方が、政府債務である国債は日銀が買い入れれば、日本人に恩恵を与え、日銀は大きな儲けを生み、日銀が持っている国債260兆円は国のバランスシートから落とせると語っていた。

現在の日本の政府債務のGDP比はこの戦後の状態に匹敵する。戦後のハイパーインフレの主要因が財政赤字にあったことは確かであり、日銀の国債引き受けがそれを容易にさせた。だからこそ1947年に制定された財政法では、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。」(第四条)として国債の発行を制限するとともに、「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」(第五条)として日銀による国債の直接引き受けを禁じたのである。

ハイパーインフレになりそうになっても、日銀はインフレターゲット政策をとっているため、物価を目標値に誘導させれば問題ないとの声も聞かれる。その物価目標を達成することがすでに困難になりつつある。さらには、その前提となっている予想物価に使うBEIには不備があったと、今更弁解している日銀が、物価を簡単に動かせることなどできないことを今回の壮大な実験で明らかにしている。

インフレターゲットはあくまでそれは目標であり、絶対的なものではなく、金融政策でそれを達成することはできない。それを前提に金融政策を考えなければ、もしもの時には日銀が事態をさらに悪化させかねないことになる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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