働き方改革で表彰や取材多数、冷凍庫なしで食品ロスゼロ 全ての食企業に知って欲しい京都の飲食店 佰食屋
2018年10月30日に京都大学で開催された食品ロス削減全国大会in京都。このプログラムの後半のセッションでパネリストとして登壇したお一人が、京都市内で3店舗の飲食店「佰食屋(ひゃくしょくや)」を経営する、株式会社minitts(ミニッツ)代表取締役の中村朱美(あけみ)さんだ。
どのパネリストの発表も、お一人で基調講演できるくらい、密度の濃いものだった。この全国大会の速報を記事として上げたのだが、実は、その記事より、2017年7月にアップしていた、佰食屋の中村朱美さんの取材記事の方が、より多くの方に関心を持って読んで頂いていた。
筆者は、2017年5月に京都の中村さんを取材した。それ以来、全国や海外の講演で、飲食店の好事例として佰食屋をご紹介してきた。記事を読んで、日本経済新聞やNHKの方が取材に来たと、中村さんから伺った。今回、さらに多くの方に、佰食屋と中村さんを知って頂くことができて、とても嬉しく思っている。
中村朱美さんのお話が多くの人の心を打ったのは、10分弱のお話の内容が中村さんの人生そのもので、彼女が考え自ら実践してきたことだったからだろう。しかも、それらは、飲食店のこれまでの常識を覆している。
そこで、全国の飲食店はじめ、食関連企業の方に知って頂きたく、2018年10月30日の食品ロス削減全国大会で、中村朱美さんがお話しされた内容を、下記にまとめてみたい。
ホテルのシェフの父と接客業の母の元に生まれ「飲食店だけはあかんで」と言われていた
中村さんの父親は、もともと、京都駅の近くのホテルのレストランのシェフだった。母は、そのレストランで接客を担当しており、社内結婚して、中村さんが生まれた。
その両親から、幼い頃ずっと言われていたのが
という言葉だった。幼い頃(3~4歳ぐらい)の中村さんは、眠い目をこすりながら、夜遅くに帰ってくる父親の帰りを起きて待っていたという。
一般的な飲食店のイメージとは?
確かに、「飲食店」と聞いた瞬間に抱くイメージは、
「低賃金、長時間労働」
「土日祝や年末年始も休めない」
「朝から深夜まで通しで勤務」
「子どもの行事(運動会など)には参加できなくて当たり前」
「慢性的な人手不足」
といった、ネガティブなものが多いのではないだろうか。いわゆる「ブラック企業」だ。
「食べるの大好き!大好きなところで働く人が幸せじゃないってイヤ」
中村さんは、食べるのが大好き。その、大好きなところで、働いている人が幸せじゃない、という状況が、すごくイヤだった。小さい頃から「飲食店だけはあかんで」と言われていたが、
2012年、28歳の時に佰食屋を立ち上げた
そこで、中村さんは、2012年、28歳の時に、1日100食限定の店「佰食屋(ひゃくしょくや)」を立ち上げた。
現在は、100食限定の店が3つ、京都市内にある(ステーキ丼の店、すき焼きの店、肉寿司の店)。
3店舗の共通点は、国産牛を使っていること、ランチ営業のみ、ということ。「飲食店は夜に稼ぐ」という常識をくつがえしていく。
ランチ営業だけで経営を成り立たせる工夫とは
では、ランチ営業だけで経営を成り立たせる工夫とは何だろう。
1つめは、圧倒的なコストパフォーマンス。ミシュラン掲載店と同程度の技術や味の商品を低価格で提供する。国産牛や国産米しか使っていない食事を、リーズナブルな値段で提供している。これと同じレベルの食事であれば、他店では、1.5倍で提供していると思う。
このコストパフォーマンスの良さのおかげで、クチコミや取材が増え、人気店へと成長することができた。テレビ番組に取り上げられることも多くなった。
2つめは、整理券の配布。回転率を上げ、行列を解消することができた。
飲食店でよくトラブルになるのが、宴会の予約を電話でしておいて、当日になったら来なくて、その食材が全部余ってしまうということ。佰食屋は、顔を合わせてでしか、予約をしておらず、電話での予約を受け付けていない。京都という土地柄もあり、外国人のお客様が多く、電話予約だと外国人に不利になるので、平等にするためでもある。行列に並んで待つということ(お客さん側の苦労)も解消された。
今や、世界中から佰食屋を目指してお客様が来るようになった。オープン当初、外国人のお客様の割合は0%程度だったが、今や、40%にまで増えた。
100食限定だからこそできることとは
100食に限定した店舗だからこそできることは、何だろう。
1つめは、全従業員、夕方18時には、完全に全員が店を出る。ランチ営業しかしていないので、勤務時間の短縮につながった。
2つめは、毎日100食限定と決まっているので、時期によって変動しないので、地元の食材業者さんへの発注数が一定になった。(つまり、無駄が出ない)
これによって、地元の企業がとても喜んでくれた。
3つめは、夕方以降の光熱費の削減になった。環境に貢献することが可能となった。
4つめは、食材を廃棄しないことになった。飲食店では初めてかもしれないが、
冷凍庫が全店舗、ない。
毎日、100食分の食材を仕入れて、営業が終われば、冷蔵庫は空っぽになる。そういう飲食店になることができた。これにより、フードロス(食品ロス)は、限りなくゼロに近くなった。
フードロス(食品ロス)ゼロを達成する仕組みとは
1、メニューが美味しく作れるもの3つのみ
3店舗とも、メニューは、美味しく作ることができる3つしかない。AとBとC。たとえば、AとBは、同じお肉で、同じ焼き方。載せるやり方が違うだけ。もう一つのメニューであるハンバーグも、同じお肉を使っている。
2、国産牛を塊(かたまり)で仕入れて、お店で処理する
毎回、10kgから20kgくらいの大きな塊で仕入れて、脂やスジなど要らないところも処理する。歩留まり(ぶどまり。使える部分のパーセンテージ)がいい。
通常のお店だと、75%が歩留まりで、25%は捨てている。でも佰食屋は、90%の歩留まり。9割を、食べられる部分として処理している。こうやって、原価率を下げることに成功した。
3、食べづらい、肉の硬い部分はミンチにしてハンバーグにする
店舗で業務用のミンサーを仕入れ、それを使ってミンチ(ひき肉)にすることで、国産牛100%のハンバーグを作ることができる。国産牛100%のハンバーグは珍しいので、人気商品になった。
4、オーダーが入ってから焼き立てをお客様に提供している
お客様に美味しいものを提供できるのはもちろん、焼いて置きっぱなしにしてロスが出る・・ということを防いでいる。
5、100食限定なので、ご飯すら炊き余らない
ご飯も、「あと20人」という時、7合か、12合か、など、細かいお米の合数まで決めて、炊くことができる。完売した時には空っぽになる。
こういう仕組みにしたところ、新しい働き方に繋がった。
佰食屋の新しい働き方とは
勤務時間は、出勤も退勤も、自分で選ぶことができる。
出勤時刻は、朝の9時、もしくは9時半。
退勤時刻は、16時、17時、17時半、17時45分から、自分で選んでもらう。
残業は、もちろん、ない。
休みは、年末年始やゴールデンウィークなどの長期休暇はもちろん、有給休暇の完全消化や分割取得、フレックスタイム制など、取り入れることができた。このような働き方を、いろんなところで表彰されるようになった。
今回の中村さんの発表で特に印象的だったのは、「食べ物が大好き!その大好きなところで働いている人が幸せじゃないって、イヤ」という言葉だった。
日本全国の食に関わる企業の経営者で、「自分の会社(店)で働いている人が幸せじゃないのはイヤだ」と、心の底から本気で思っている人は、はたして何人いるだろう。
中村さんが素晴らしいのは、「イヤ」という感情だけに終わらせないで、人の意思に頼らない「仕組み」に繋げたことだろう。仕組みが働き方を変え、食品ロス(フードロス)をなくしていく。
中村さんの考え方や佰食屋の「仕組み」を、食品関連企業始め、多くの方に知って頂きたいと、強く願っている。
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