人工知能(AI)が生成した作品は著作権で保護されるか?米国で判決(Thaler事件)
「人間が関与することなく人工知能(AI)が生成した作品は、米国著作権法による保護の対象となるか?」――― 米国のコロンビア特別区連邦地方裁判所は、2023年8月18日、これを否定する判断を示しました(Thaler v. Perlmutter, 1:22-cv-01564)。
原告は、自らが開発・保有する「Creative Machine」というAIシステムが生成した「A Recent Entrance to Paradise」という作品(後掲)につき、米国著作権局に著作権登録の申請をしました。原告は、その申請書にそのAIシステムの名称を著作者として記載し、そのAIシステムの保有者である自らに著作権が移転していると主張していました。これに対し、米国著作権局は、「人間がその著作者であるという事実(human authorship) がない」という理由で、その作品に関する著作権登録申請を認めませんでした。これを不服とし、原告は本件訴訟を提起しました。
裁判所は、米国著作権法には「人間のクリエイティビティが新しいツールや新しいメディアを通じて発揮されるとしても、人間のクリエイティビティは著作権による保護可能性の根幹をなす要件であるという一貫した理解」があり、「米国著作権法は人間が創作した著作物のみを保護する」という考えを示しました。
判決によれば、原告は、著作権登録申請の中で、AIを使用して作品を生成する際に原告自身は何の役割も果たさなかったと説明していたとのことです。裁判所は、原告が提示した事実関係に基づき、人間が関与することなくAIが生成した作品の著作権登録を認めないこととした米国著作権局の判断は正当であると結論づけました。
このように、本判決は、AIが生成した作品は著作権法による保護を受けることができないとの判断をしました。しかし、本判決を前提にしても、AIを使用して生成した作品すべてがその保護を否定されるわけではないと考えられます。本判決も言及しているように、写真は、カメラというツールを使用して作成されるものですが、たとえば被写体のポーズ、衣装、アクセサリー、光と影などの選択及び配置から作り上げられる全体的なイメージにおいて、人間である写真家のクリエイティビティが発揮されているがゆえに、著作物として保護の対象となります。
AIを使用して生成される作品も、何らかの形で人間のクリエイティビティが発揮されていれば、本判決の結論にかかわらず著作物として保護の対象となる余地は残されていると考えられます。今後さらに問題になりうるポイントとして、①AI生成作品が保護されるためには人間が何にどの程度関与する必要があるのか、②AI生成作品について得られる保護の範囲はどこまでか、③AIシステムが公開されていない既存作品によって訓練されている可能性がある場合に、そのAIシステムを使用して生成された作品に対する人間のクリエイティビティをどのように評価するのか、などが挙げられています。
なお、原告は、当該作品について著作権が発生することを前提に、職務著作(米国における "work made for hire")などの理論により、AIシステムの保有者である原告に著作権が帰属していると主張しました。しかし、本件ではそもそも著作権の成立が認められなかったため、④AI生成作品の著作権が認められるとしてそれは誰に帰属するかという問題について、裁判所は判断しませんでした。
日本の著作権法は、著作物等の「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」を目的としています(著作権法1条)。上記①~④の問題も、急速に発達・普及する技術の恩恵と課題を踏まえ、どのようなルール設計にすれば最も文化の発展に寄与することができるかという観点から、今後議論が重ねられると考えられます。