「戦争など怖くない」ある北朝鮮男性が吐き捨てた言葉の、本当の意味
北朝鮮は、首都・平壌に飛来した無人機は韓国軍が飛ばしたものだと主張している。金正恩総書記の妹、朝鮮労働党中央委員会の金与正副部長は、次のような短い談話を発表した。
「われわれは、韓国の軍部ごろが朝鮮民主主義人民共和国の首都上空を侵犯する敵対的主権侵害挑発行為の主犯であるという明白な証拠を確保した。挑発者は、ひどい代償を払うことになるであろう」
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当局は、反韓感情を煽り、今すぐにでも戦争が起こりそうな勢いで騒ぎ立てているが、国民はそんなやり方に同調しているわけではないようだ。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
韓国から遠く離れた両江道の恵山(ヘサン)市内のある企業では14日の午前8時の朝礼の時間に、幹部と従業員を集めて30分間に渉って次のような講話が行われた。
「無人機侵犯は明確な韓国の戦争挑発だ」
「傀儡韓国の人間のクズどもは許されざる行為を犯した」
国営メディアは、韓国への復讐を誓う人々の声を伝えている。国営の朝鮮中央通信は、140万人の青年が軍への入隊・復帰を志願したと報じた。もちろんこれは、北朝鮮がよくやるパフォーマンスの一種だ。
一方、情報筋の伝える恵山市民の反応は、戦争を煽る勇ましい声とはかけ離れたものだ。
「統制が強化されて自分たちのような庶民ばかりが損をするのではないか」(情報筋)
米韓合同軍事演習などに際して、「朝鮮半島情勢が緊張している」と主張し、今にでも戦争が起きると騒ぎ立て、社会の統制を強化するのは北朝鮮の常套手段だ。
市内に住む60代男性、当局のやり方に不満をぶちまけた。
「どうせ何もできないくせして、毎日騒ぎ立てて本当にウンザリする。戦争などできないのに、毎日情勢が緊張したと喚き散らして人々を苦しめる。情勢が緊張したという名目で、生活総和(毎週土曜日に行われる総括)や講演会に呼びつけて長々と階級意識とかを強調する。頭の中はどうやって家族を食べさせようかという心配でいっぱいなのに、そんな話が耳に入ってくるものか」
当局は、コロナ直前から市場の活力を抑え込み、計画経済に回帰しようとしている。市場での商売での収入で生計を立てている庶民は、そのせいで深刻な生活苦に直面し、食うや食わずの暮らしを強いられている。少しでも働いて収入を得て、家族の食い扶持を確保しなければならないのに、戦争扇動など相手にしている暇などないのだろう。
旧態依然とした当局の手法は、もはや北朝鮮国民には通用しなくなったようだ。男性は続ける。
「戦争挑発という言葉をまるで歌のように頻繁に聞かされたせいか、もはや戦争など怖くない。どうせ戦争などしないくせに、人民を苦労させるばかりでイライラする」
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
ただ、韓国に対しても不満はあるようだ。
「ビラやら何やら情勢の緊張を招くものは送り込まないで欲しい。自分たちのような庶民が余計に苦労するばかりだ」
一方、やはり市内在住の40代女性は、次のように述べた。
「今週から女盟員(朝鮮社会主義女性同盟のメンバー)が呼び出され、階級教養講演会に出席させられている。人民班(町内会)の警備も強化された。(当局は)一日たりとも人々を自由にしてくれない」
「情勢が緊張すれば、また(当局に)苦しめられるという心配が先に立つ。今回は平壌に韓国の無人機が侵入したせいか、普段よりさらに空気が緊張している」
そして、このような言葉を口にした。
「こんな暮らしはウンザリだ。いっそのこと本当に戦争が起きたらいいのに」
このような戦争待望論は決して新しいものではない。常に不満と厭世観が渦巻く北朝鮮では、このようなことを口にする人が少なからず存在するのだ。