アベノミクスこれくしょん
「艦隊これくしょん」というゲームをご存じであろうか。一部のゲーム好きの間で評判になり、すでにユーザー数が150万人を突破した。このゲームは2400万のダウンロードを記録したバズドラのようなスマホのゲームではない。Windowsなどのパソコン上で遊ぶゲームである。ただし、現在ではユーザー希望者が殺到しているため、ゲームの登録に制限が掛けられている状況にある。また、関連書籍やグッズなどの売れ行きも好調であり、密かなブームになりつつある。
私もあまりの評判の良さに、登録をしてゲームをしてみたのだが、非常に良くできている。「艦これ」は、第二次世界大戦期の旧日本海軍の艦艇を題材にしたゲームで、プレーヤーは提督となり、艦艇を美少女に擬人化した艦娘を集め(コレクション)、それを強化しながら謎の敵と戦う。船は母船という言葉もあるように女性に例えられる。それを旧日本海軍の各艦艇毎に擬人化したのである。イラストやボイスは現在のアニメの要素が強く含まれ、我々の年代とはほど遠いものと思われるかもしれないが、実はこのゲーム、年配者のほうがハマる要素が存在する。
我々の年代、40代から60代あたりの男性の多くは子供の頃に戦艦大和などのプラモデルを作ったと思う。私もそのひとりであった。戦艦武蔵や戦艦長門、空母赤城などは当然のように知っているはずである。それらが戦史に基づいて、ある程度忠実に表現されているのがゲーム「艦これ」なのである。戦艦や空母だけでなく、むしろ駆逐艦や巡洋艦などもそれぞれ一隻ごとに歴史を持っている。「艦これ」で有名なのは大和や武蔵などよりも雪風や島風、五十鈴や大井、北上といった艦船なのだが、ある程度、太平洋戦争の戦史に詳しい人であればピンとくると思う。昔の昭和の男の子だった人も興味をそそられるゲームと言える。
このようなゲームが流行っていることは、日本の右翼化の現れといった見方も出てくるかもしれない。安倍政権も日中との領土問題から首相の靖国参拝が国際問題化しつつあり、どうも危ない方向に向かっているのではないか。艦これブームもその影響なのではないかと思われてしまうかもしれない。このようなゲームが流行る世相となっているといえば、実はそうなのかもしれない。
それを象徴するような出来事が発生した。米紙ウォールストリート・ジャーナルは2月19日付の電子版で、安倍晋三首相の経済ブレーン・本田悦朗内閣官房参与のインタビューを掲載した。そのなかで本田氏は「日本の首相が靖国参拝を避けている限り、国際社会での日本の立場は非常に弱い」として、「われわれは重荷を背負った日本を見たくはない。自立した国としての日本を見たい」と語ったという。
また同紙は「本田氏はアベノミクスの背後にナショナリスト的な目標があることを隠そうとしない。日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙できるようにするためだと語った」とも伝えた(以上、朝日新聞の報道より)。
これに対して本田悦朗内閣官房参与は菅義偉官房長官に「記事を読んで驚いている。発言の趣旨を違えて報じている」と連絡したそうである。ただし、「私の見解ではなく、靖国神社とはそういうものだということをオフレコでざっくばらんに説明しようと思った」とも述べたそうで、個人的な意見として報じられた内容に近い発言をしていた可能性がある。
本田参与はリフレ政策を掲げてアベノミクスを主導した張本人の一人であるが、そこからこのような発言がもし出ていたとなれば、非常に危険なことのように思われる。アベノミクスのリフレ政策のモデルとなっていたのは高橋是清による高橋財政である。そこで用いた日銀による国債引受は、財政出動を可能とするための政策であったが、軍事拡張のための財政拡大のための打ち出の小槌として使われることになってしまう。現在、日銀がデフレ脱却のためとして国債を大量に購入しているのは、軍備拡張のためであったということになってしまうのか。
もちろんそういう意図はなかったのかもしれない。しかし、本田参与を筆頭にいわゆるリフレ派と呼ばれる人達は日銀による国債買入(引受も含む)を財政拡大をセットとして主張している。何故、巨額の国債を日銀が買い入れる必要があったり、財政を拡大する必要があるのか。本田参与からの発言とされるものからは非常に危険な臭いがする。アベノミクスはいずれコレクション(訂正)され、それが軍備拡張に使われることになってしまうのか。そんなことはあり得ないと思うが、そのリスクはゼロではない。