<ガンバ大阪・定期便101>今シーズン最多得点での完封勝利。横浜F・マリノス戦で光らせたプライド。
前節・FC町田ゼルビア戦を終えた試合後のロッカールーム。キャプテン・宇佐美貴史はその場でチームに投げ掛けた。
「サッカーにはこういうゲームもある。不運な敗戦だっただけで下を向く必要はない。力負けしたと思う必要もない。俺らは、次のマリノス戦に向けてやっていくだけ」
スコア的には今シーズン最多の3失点を数えた上での黒星になったが、10人での戦いを強いられるまでは、今シーズンのベストゲームと言っていいほど、圧巻の攻守を示せていたからだろう。その自信を途切れさせないことがマリノス戦での結果を分けると考えていた。
「自分たちがすべきことは毎試合、1つずつ力を積み上げていくこと。いい試合ができても勝てないこともあるし、内容が悪くても結果がこっちに転ぶこともあるのがサッカー。プロなので当然、結果も気にしないといけないけど、結果にメンタリティが揺り動かされるべきじゃない。自分たちはちゃんと前に進んでいるということにみんなが自信を持って進んでいくだけ(宇佐美)」
■理想的な先制点。苦しい時間を耐え凌いで奪った追加点。
町田戦から約1週間。再びホーム・パナソニックスタジアム吹田で迎えたJ1リーグ第22節・横浜F・マリノス戦は、その『自信』とプライドが余すことなく表現された試合になった。アウェイでの対戦時は、圧倒的に相手ゴールを攻め立てながら、0-2と黒星を喫したことを踏まえても『ダブル』を食らうわけにはいかないという思いも強かった。
口火を切ったのは4月3日の京都サンガF.C.戦で負傷して以来、約3ヶ月ぶりの先発出場となったファン・アラーノだ。ペナルティエリア内で黒川圭介のパスを受けたアラーノのシュートは一旦は相手DFに阻まれたが、こぼれ球を拾うと再び右足を振り抜く。「最初はクロスを狙おうと思っていた」と振り返ったボールは柔らかい弧を描き、ゴール右上に突き刺さった。
「夏場のすごく暑い中でのゲームで、しかも相手がマリノスというところですごく難しい試合になることは予想していました。試合の序盤に、先制点が取れたことでチームに安心感を与えられたのかなと思っています。ケガでグループを離れてから長い時間が経ちましたが、その間もチームはすごくいいプレーを続けてくれていた。その中での復帰後、初めて先発を任された試合で責任は感じていたし、背中には『いいプレーをしなくちゃいけない』という重さも背負っていた。1つ結果を出せて少し肩の荷が取れた気もしています(アラーノ)」
もっとも、その先制点以降は、しばらくマリノスにペースを握られた。相手の縦に早い攻撃に反応が遅れ、マリノスの宮市亮やアンデルソン・ロペスにペナルティエリア内まで侵入されるシーンも。12分には宮市のシュートが左ポストを叩き、そのこぼれ球が松田陸の足に当たってヒヤリとさせられたが、チームに根づきつつある『粘り』の守備で、ゴールは許さなかった。
「久しぶりの先発だしチームとしても町田戦での敗戦後の試合で、気合いは入っていました。今日の試合は先制した方が勝つと思っていたし、それを取れていたことで気持ち的には落ち着いて進められた。あのシーンは…危なかったー! ヤバいと思った瞬間に体が動いてとりあえず触らないと、と思いました。咄嗟に足が出て、結果的にはうまいことボールが浮いてよかったです(松田)」
42分にも右サイドからボールを受けたアンデルソン・ロペスに胸トラップから前を向かれてペナルティエリア内への突破を許し、最後は再び宮市にシュートを打たれたが、これはクロスバーを直撃した。
「あそこは1つ、ポンとスペースが空いたところにアンデルソン・ロペス選手に入られて、後手を踏んでしまった状態で出て行ったのでいい対応ができなかった。その後のところで将太(福岡)や他の選手がいいカバーをしてくれて助かりました。そもそも、あそこでスペースを与えちゃいけなかった(中谷進之介)」
そうした劣勢の時間帯を、粘りの守備で凌ぎ切る中で、待望の追加点が生まれたのは、前半アディショナルタイムだ。45+3分。左サイドでボールを受けた宇佐美が相手DFを引きつけながらジワジワとドリブルでペナルティエリア内に侵入。抜群のタイミングと軌道で、ゴール前に走り込んだダワンにドンピシャのクロスボールを送り込む。宇佐美の言葉を借りれば「試合の勝負を分けた」2点目に繋がった。
「先制点をとってから危ないシーンがあったり、ちょっとマリノスの勢いに飲まれかけていたところで、チームを勢い付けてくれるゴールだった。2点目が決まったことで自分たちにも余裕が出たし、中2日の試合で間違いなく疲労もある相手のメンタルを少し折れるような状況を作れたのかなと思います。(クロスボールについては)ダワンはいつもサボらずに入ってきてくれるので、ほぼほぼ見ずに上げました(宇佐美)」
宇佐美が言えば、ダワンも「感じていた」と振り返った。
「貴史があのエリアで細かくタッチを刻みながらボールを持っている時は、あそこにボールが入ってくる確率がすごく高い。自分も入っていかなきゃいけないということは感じてプレーしました(ダワン)」
■『無失点』にこだわった後半。途中出場の選手がチームに勢いを与え、得点を重ねる。
2点のリードを奪って迎えた後半、目を引いたのは「アラートな守備」だ。
試合前、一森純はここ最近の守備について課題を口にし、古巣の攻撃力を警戒すればこそ、無失点で終わることの重要性を説いていた。
「マリノスは、ボールを持った瞬間にギアを上げ、アグレッシブに、どんどん前に、縦に仕掛けてくるし、ボールを持っていない時も、恐れることなく突き進んでくる。その相手をどれだけ疲弊させて、僕らが効率的にうまくゲームを運べるかは勝敗を分けるポイントになる。ただ、だからと言って、ずっと省エネな感じで動いていてはゴールは奪えない。(攻撃に)いく時はリスクをかけてみんなで出ていく、守る時は全員でしっかり守るというメリハリをつけながら、意思統一して試合を動かしたい。また今シーズンは、2点以上取った試合は必ず1失点してしまっているので。マリノス相手にそういった隙を見せると必ずつけ入られて、一気に流れを持っていかれる可能性もある。だからこそ、改めて『失点しない』ことに対してもう一度、みんなで気持ちを揃えて臨みたい(一森)」
中谷によれば、それはこの日のハーフタイムでもリマインドされていたことだという。後半に入るにあたって守備陣は改めて『無失点』を合言葉にしていた。
「最近は2点を取って1失点して終わる試合がすごく多かったので、そこはハーフタイムにみんなでリマインドし、0で終わらせようと確認していました。途中から入ってきた選手たちがすごく活性化してくれたことにも助けられた(中谷)」
DFラインの一人、福岡将太もその意識を強めて後半に向かったという。前節・町田戦を体調不良で急遽、欠場したことを受け、試合前にはしきりに「情けない。自分が最悪すぎる。これ以上ないってくらい情けない」と繰り返していた福岡は、その借りをプレーで返そうと思っていたのだろう。後半に入り少し足を攣る仕草を見せながらも、集中して体を張り続けた。試合後のミックスゾーンで「集中しすぎていて、今もまだ周りの声が聞こえない」と言っていたのも印象的だ。
「ここまでスタメンで出してもらっていたのに、前節、上位対決3連戦の最後の試合で体調不良になってしまい…。チームに迷惑もかけてしまったし、その町田戦は湧清(江川)がすごくいいパフォーマンスを見せていたので。僕なりにすごく焦りも感じたし、湧清に負けていられないという気持ちで試合に入りました(福岡)」
印象に残ったのは65分、66分に立て続けに示した、ヤン・マテウスに対する気迫の守備だ。特に後者のシーンでは、対峙した黒川を振り切りながらペナルティエリア内に侵入したヤンのシュートを、後方からコースに飛び込んでブロック。チームに勇気を与える守備を光らせた。
「胸らへんに当たりました。あの瞬間、ちょっと自分でも周りの景色が止まったような感覚があって。『ああ、ここにきそうだな』って匂いというか、あそこに飛んできそうだなって予測して飛び込みました。もしかしたら体への当たり方によっては、シュートコースが変わって失点する可能性もあるなと想像していたので、守り切れてよかったです。ただ、あれは僕のブロックどうこうというより、チームとして今、みんなで取り組んでいることが出せたシーン。チームとしてゴールに鍵をかけようと言い続けてきて、あのシーンもその表現の1つだったと思っています(福岡)」
と同時に、そうしたチームとしてのアラートな守備は、攻撃を加速させることにも繋がり、68分には山下諒也のスピードを活かした突破が相手のファウルを誘ってPKを奪取。それを宇佐美が、ゴール左上隅にズドンと突き刺して3-0と突き放すと、イッサム・ジェバリ、ネタ・ラヴィ、中野伸哉、食野亮太郎がピッチに立った試合終盤も、チームとしての強度を保ちながら、マリノスを圧倒。88分にはジェバリに今シーズンのリーグ戦初ゴールも生まれ、4-0と完勝した。
■この日も光った、宇佐美貴史の守備。「単純に守備が上達したんちゃうかな」。
『守備』についての話に補足すると、3点目のPKにも繋がった宇佐美の守備力も特筆すべきだろう。この日は猛烈な暑さもあって、またアラーノに関しては久しぶりの先発出場ということもあり、前半は特に両ウイングでの守備の圧力がかかりづらい時間帯も。相手のサイドバックからボールを配球されてしまうシーンも多く、それに応じて、宇佐美や坂本一彩が、再三にわたってサポートに入ったり、守備面での役割を担うシーンが目を惹いた。3点目のシーンでも、ハーフウェイライン付近でボールを受けて前を向いたヤン・マテウスに宇佐美が前線から猛烈にプレスをかけ、DFライン、ボランチと連動してボールを奪ったところから山下の突破が生まれている。その攻守に躍動する姿に試合後「暑さは苦にならなかったのか?」と投げかけると「苦でしかない! 暑すぎる!」と笑ったが。
「暑くても、やらなくちゃいけないプレーはある。相手は中2日での試合で、移動もあるという状況の中、僕らの方が走れないとか、僕らの方が戦えないわけがない。技術的な部分で上回られるのなら仕方がないけどファイトするとか、相手より球際でしっかり戦うというところでは絶対に負けられない。試合前には、みんなにもそのことを伝えて入ったし、そこはしっかり僕も表現できたのかなと思っています(宇佐美)」
ちなみに、その宇佐美の守備力はこの日に限らず、シーズンを通して目を惹くところ。6月末に聞いた彼の『守備』に対する話がとても興味深かったので、併せて記しておく。
「今シーズンは『守備』を苦に感じていないのはポジティブなところ。最近で言えばFC東京戦で、20歳の俵積田晃太選手に32歳の僕が走って追いついて奪い切ったり、柏レイソル戦のように細谷真大選手のボールを刈り取ったり、ってシーンがあったけど、危ないところを察して潰し切る、刈り取り切ることを僕がやることでチームに与える勇気みたいなものはあるかもな、って感覚を僕自身が楽しめている感じ? 実際に取り切れることも多くなっていますしね。それは多分、ここでギアを出したい、ってシーンで理想的にギアを上げられているのもあるかも。『やっと追いついた』『ああ、また守備か』って感じでもなく『よし、ここや!』『いける』という感覚で守備ができている。あとは、単純に守備が上達したんちゃうかな(笑)(宇佐美)」
思えば、フォルトナ・デュッセルドルフに所属していた時代、宇佐美はよく残留争いに巻き込まれたチーム状況もあって「弱者のサッカーをする、イコール、守備がマスト」だと話していたもの。実際、ウイングとして守備のタスクを担うことも多かったが、その時と今とでは全く違う感覚で『守備』に向き合えているという。
「当時のデュッセルドルフはとにかく守り倒して1点、ってサッカーやったから。ポジティブな思考で守備ができるはずがないよね(笑)。僕の記憶の中ではあの時代が一番守備をした気がするけど、当時は『やらなくちゃいけない守備』だったのに対して、今は『やろうと思う守備』なので、その違いは大きいかも。あとは、やっぱりチームに与える勇気。1つのボール奪取が、1つ以上の意味を持つと感じられていることも大きい。実際、自分が守備をしてボールを刈り取った時のスタジアムが沸く空気も感じ取っていますしね。それは僕だけじゃなくて、みんなに言えることで、そういう雰囲気に自分たちが乗せてもらっているところもある。シュートが巧い選手がシュートを打つとか、ドリブルが持ち味の選手が仕掛けて沸くのに近い感覚というのかなぁ。ウェルトンが仕掛け出した時の盛り上がりとか、諒也(山下)が走り出した時の歓声と同じくらい、宇佐美の守備が今日も出た、みたいに観てくれている人が多いのは、僕にとってもチームにとってもポジティブなことだと思う(宇佐美)」
■「行き切る」攻撃を可能にした坂本一彩の献身性。総力戦で、暑い夏を乗り越える。
話を戻そう。
マリノス戦でもう一つ、目を引いたのは坂本が前線で示し続けたプレーだ。試合後はタイミングを逸して彼の言葉は引き出せなかったが、この日、2試合ぶりの先発出場となった彼は、序盤から再三にわたって前線でボールを収め、チームの攻撃にリズムを作り出した。後半の62分に相手のセンターバック、エドゥアルドの対応を見極めて、グイと体を捩じ込んでゴールに迫ったシーンや、64分にトラップから反転し素早く足を振り抜き、シュートを打ったシーンを含めて、だ。
仮に、そこで収まりきらず、攻守が目まぐるしく変わるような展開になれば猛暑の中ではより消耗が激しくなったはずだが、この日「(攻撃に)いく時はしっかりリスクをかけてみんなで出ていく」ことを可能にしたのは、その「いく」にあたって確実にボールを収め、攻撃の矢印を前に向かせ続けた坂本の献身性があったから。試合後の松田やアラーノの言葉も、それを実感するものだった。
「前半から、うちのチャンスの時に、シュートまで行き切れるような形をたくさん作れたのは大きかった。マリノスは中2日での試合だったこともあったとはいえ、そうやって自分たちの時間帯でしっかり押し込むとか、やり切るというのは夏場の試合を考えてもすごく大事なこと。そういう姿を示せたことが、後半、自分たちがより優位に試合を運ぶことに繋がったと思っています(松田)」
「この暑さの中で戦う以上、試合のリズムをコントロールするのはすごく大事だと思っています。ダニ(ポヤトス監督)にも試合前には、ボールの失い方は気をつけなければいけないし、攻撃に行くタイミング、リズム、スピードをしっかり見極める必要があると伝えられていました。自分たちが足元でボールを保持する時間を作りながら試合を進めようという狙いもあった(アラーノ)」
また、彼らの言葉にもある通り、この先も続く『夏場の戦い』における体力の消耗を考えれば、先に名前を挙げた山下をはじめとする途中出場の選手たちが、攻撃を活性化させ、なおかつピッチに立つ顔ぶれが変わる中でも得点を奪えたことも大きな収穫だろう。
「いろんな選手が関わって結果を出せたのはポジティブなこと。ジェバリに1つ、得点が生まれたのは大きかったし、諒也がPKを取ってくれたり、亮太郎(食野)が久しぶりに試合に出場したり。チームとしては明るい材料がたくさんあった試合だった。個人的には亮太郎が1本決めてくれたら、なおよかったなって思いますけど(宇佐美)」
懸命にもがき続けている食野の今を察すればこそのキャプテンの言葉。ゴールこそなかったものの、この日、88分のジェバリのゴールシーンで見せた姿――前線で山下がボールを収めた瞬間、食野が後方から全力でペナルティエリア内に斜めに走り込んだ献身性は、ここからの逆襲を誓って戦い続ける食野をまた一歩、前に進めたと信じたい。
この6試合ぶりの完封勝利によって、上位チームを追随するガンバの勝ち点は41に。次節はアウェイでのサガン鳥栖戦に挑む。
「1-0、2-0とか2-1とかギリギリで勝つというより4-0でしっかり勝ち切れたことでまたチームに勢いが戻ってくる(宇佐美)」
暑い夏はこれからが本番。もちろん、熱いガンバも。