ジャンプ一強だが200万部割れ状態…少年向けコミック誌の部数動向をさぐる
・2018年7~9月期で少年向けコミック誌の印刷証明付き部数トップは「週刊少年ジャンプ」の176.8万部。
・部数では「週刊少年マガジン」が第2位、そして「月刊コロコロコミック」「月刊少年マガジン」が続く。
・部数の前期比では「週刊少年サンデー」「週刊少年ジャンプ」がプラス。前年同期比では「少年サンデーS(スーパー)」のみがプラス。
ジャンプ最強伝説継続中…直近四半期の実情
専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由にて、漫画や文章を読む機会が多数得られるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇の一途との解釈もある。一方で紙媒体による本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。今回はその雑誌のうち、特にすき間時間のよき相棒といえる少年向けコミック誌について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)のうち、2018年11月に発表した、直近(四半)期分となる2018年7~9月分(2018年第3四半期、2018年Q3)を中心に実情を確認する。
まずは少年向けコミック誌の直近期、2018年7~9月の実情。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前期から変わらず。今記事におけるもう一つの対象ジャンル「男性コミック誌」と合わせても、唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨中…だったのだが、開示されている記録の限りでは2017年1~3月期にはじめてその大台を割り込み、今期でも挽回はならず、200万部割れが継続する形となった。次いでやや年上向けの少年向けコミック誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)コミック誌「月刊コロコロコミック」。
かつては複数誌が100万部を超えていたが、「週刊少年マガジン」が2016年7~9月期に100万部を割り込んだことで、少年向けコミック誌で100万部超えの雑誌は「週刊少年ジャンプ」だけとなってしまった。恐らくはこの状態が今後も継続するのだろう。やはりすき間時間の消費対象の代替的存在、スマートフォンをはじめとしたモバイル端末の普及による影響は極めて大きいようだ。
他方、唯一の100万部超えの「週刊少年ジャンプ」だが、直近データで確認すると印刷証明付き部数は現在176万8333部。雑誌では返本や在庫本(売れ残り)なども存在するので(返本率などは部数動向では非公開)、それを勘案すると最終消費者の手にわたっている冊数は、これよりも少なくなる。雑誌の種類やジャンルによって返本率は大きな変動があるが、暫定値として4割と試算すると(上場している取次会社の決算資料の限りでは、雑誌の返本率はおおよそ4割)、実セールスは110万部足らずだろうか。あるいは「週刊少年ジャンプ」だからこそもう少し返本率は低いかもしれないが、雑誌別の返本率は非開示であるため、その実情は分からない。
同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた。その記録を目にするに、その3割足らずにまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。「週刊少年マガジン」の100万部割れとともに、雑誌全体の歴史において一つの時代を刻んだ流れと考えれば、冷静に受け止めることもできるのだが。
コンビニなどでもよく見かけるメジャーな週刊コミック誌で、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った「週刊少年サンデー」の部数は、今期では30万6667部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年4~6月期における86万6667部からは約35%にまで部数を減らしている。
グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの気配も見られたが、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は数字には現れていない。ようやく底打ちを見せたかのような動きに留まっている。2015年8月に宣言を始めたこともあり、3年が経過したことになるのだが。
他方コミック誌は電子化が相当進んでおり、電子雑誌版に流れた読者が原因で、「印刷」部数が上向きになっていないだけの可能性も否定できない。
2誌がプラス…前期比動向
続いて公開データを基に各誌の前・今期の間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。コミック誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、コミック誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。
なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になったコミック誌、今回はじめてデータが公開されたコミック誌は、このグラフには登場しない。
今期で前期比によるプラス計上のコミック誌は2誌、「週刊少年サンデー」「週刊少年ジャンプ」。誤差(上下幅5%以内)を超えた確実なマイナスは6誌、「ウルトラジャンプ」「少年サンデーS(スーパー)」「ゲッサン」「月刊少年シリウス」「別冊コロコロコミックスペシャル」「月刊少年マガジン」。
誤差領域内とはいえ、大きな部数を計上している「週刊少年サンデー」「週刊少年ジャンプ」の両誌が前期比でプラスを示したのは大いに健闘したと評価できるだろう。他方、1割以上の下げ幅を示したのが3誌もあるのは、憂うべき状況には違いない。
季節動向を考慮し前年同期比で検証
続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2018年7~9月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2017年7~9月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が開いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。
プラスのコミック誌は1誌、「少年サンデーS(スーパー)」のみ。誤差領域を超えた下げ幅を示したのは11誌、10%以上の下げ幅は10誌。
「少年サンデーS(スーパー)」のグラフの体裁を壊すような上昇ぶりの理由は、映画「ゼロの執行人」をきっかけに注目が集まるようになった登場人物の一人安室透氏を表紙に起用したり、付録をつけるなどによる需要に合わせた企画が功を奏した結果。
今後この勢いが維持できるか否か、注目したいところだ。もっとも雑誌購入者の感想を見渡すと、編集サイドの方向性に疑問を呈する声が見受けられるため、一抹の不安がよぎるのも否定できない。
水曜発売の週刊誌として相並び紹介されることが多い、そして昨今では100万部割れで注目を集めた「週刊少年マガジン」と、その宿命的ライバルな存在の「週刊少年サンデー」の部数動向は次の通り。
「週刊少年マガジン」の方が2倍強も部数は多いが、部数の下げ方もやや急で、その差は少しずつだが縮まりつつある。このような形での競争では無く、双方とも上昇の中での競り合いを見せてほしいものだが。
もっとも両誌とも電子版を展開中で、その利用者数は少なくないと考えられる(実数は非公開なので実情は不明だが)。紙媒体の部数のみをカウントした今値の動向は両誌の勢いでは無く、単純に紙媒体版のセールス動向を記しているに過ぎないことを注意しておく必要がある。
現在は電子本、ウェブ漫画が普及する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。
なお今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数であり、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用も確実に増えている。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各誌そのものの需要がそれと連動する形で減少しているとは限らないのには注意をしなければならない。
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※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数では無い。売れ残り、返本されたものも含む。
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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。