北朝鮮の通貨、急落続き史上最安値に…対ドルレート
北朝鮮ウォンの価値の下落が止まらない。
デイリーNKの調査では、北朝鮮ウォンの闇レートは、今年5月26日に1ドル(当日のレートは約157円)8920ウォンだったが、その後急速にウォン安が進み、6月9日には1万2100ウォン、同月23日には1万4200ウォン、そして9月2日には1万6500ウォンと、現行通貨の流通が始まった2009年11月30日の貨幣改革以降で、史上最安値を更新した。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も"残酷な夜")
当局は介入に乗り出したが、そのやり方が実に北朝鮮っぽい。思想教育と取り締まりだ。
デイリーNKは、その教育に使われる「皆が高い公民的自覚(国民としての自覚)を持って為替レート安定事業に積極的に乗り出すことについて」というタイトルの資料を入手した。
これは内閣が9月20日、全国の朝鮮労働党委員会や人民委員会(道庁、市役所)に配布したもので、一般国民に手渡されるものではなく、外貨に関する政策を国民に説明する担当者が参考資料として使うものだ。
この資料によると、当局は、急速なウォン安の原因を、流言蜚語(デマ)にあると見ている。
「一部貿易機関、商業奉仕単位(サービス業)、生産単位、公民は国家が承認した価格を守らずに商品を販売しており、国家が認証した価格表を掲示せずに営業をしたり、市場に掲示された市場限度価格を往々にして破っている(中略)このような行為は、われわれすべてが大衆的闘争を繰り広げて克服し、完全に一掃しなければならない」
「ウォン安が続くのは、流言蜚語に騙され、外貨を必要以上に多く買い込み、貯蓄することにあるため、このような現象を徹底して根絶しなければならない」(資料)
この認識は間違っているとまでは言えないが、現実の一部しか見ていない。
急激なウォン安が進んだのは、当局が、闇両替商や外貨での品物の売買に対する取り締まりを始めた今年6月だ。国内で流通する米ドルを国庫に吸収するための措置だが、一定額以上の外貨を所有している場合、無条件で没収するなどやり方が乱暴なものだった。
通常、自国通貨の需要が増えると価値が上がるものだが、一連の措置により、ただでさえ低かった北朝鮮ウォンの信用が下がり、逆に米ドルや中国人民元などの需要が増していることが考えられる。以前から「資産は外貨にしてタンス預金にしておく」という習慣があったが、この傾向がさらに強くなったことが、資料の行間から読み取ることができる。
資料はまた、外貨の両替について、国のコントロール下にない闇両替商は使ってはならない、国の定めた「協同貨幣取引所」を使うように、と説いている。ところが、これがさらなる不満を引き起こした。
(参考記事:2週間で北朝鮮ウォンの価値が3分の2に…経済の混乱が加速)
「すべての単位と公民は、現金を流通させて国の定めた協同貨幣取引所のレートである1ドル8900ウォンを無条件で徹底して守らなければならない」
「群衆監視、法的統制を強化すると同時に、通報体系を徹底確立し、闇両替商が国の定めた協同貨幣取引所のレートより高く貨幣を交換することを考えすらできないようにしなければならない」(資料)
この政策の立案者は、思想教育と取り締まりを並行し、いつでも同じレートで両替できるようにすることで、レートも物価も安定するという、理解に苦しむ考え方の持ち主のようだ。外国に住むわれわれだけではなく、理解できないのは北朝鮮の国民も同じだ。
「既にマーケットで取り引きされているレートは国が定めたものに2倍に達するのに、今更こんな指針を出して何の意味があるのか」
平壌、新義州(シニジュ)、恵山(ヘサン)のレートはそれぞれ異なるが、概ね1ドル8900ウォンの1.8倍程度だ。損をするだけの協同貨幣取引所の利用者はほぼ皆無で、そればかりか、かなりの人がその存在すら知らずにいるとのことだ。
指針は、これ以外にもICカードを使った電子決済を優遇する措置を打ち出しているが、積極的に使おうとする人はあまりいないようだ。
このシステムを使うには、銀行や両替所に外貨を持参してチャージしなければならないが、外貨の所有を当局に知られると、あれこれ理由をつけて、資産が没収されてしまうかもしれないとの不安を多くの人が持っている。それで利用を避けるのだ。
指針はさらに、次のような措置も定めた。
◯すべての銀行が機関や企業間の決済は口座間の振込で行うが、必要に応じて現金を引き出しての取り引きも可能
◯奉仕単位(国営商店)で歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸など15種類の生活必需品を国定価格で販売
◯機関や企業が個人(商人)と取引する場合には、責任者が署名した領収書を発行
◯軽工業工場が生産した製品を国営商業網で販売
◯企業間、または人民経済(民生)部門における外貨両替は許可
指針に違反した場合には法的制裁をちらつかせていることに対して、市民からは「あらゆる物資と現金を没収できるということではないか、こんな恥知らずなことがあるか」という声が上がっている。
ウォン安が止まらない理由のひとつとして、強力な取り締まりが続いていることが考えられるが、政策立案者たちは、市場が自分たちの予想したとおりに動かないことに、首を傾げているのだろうか。あるいは、こうなることを知りつつも、上からの指示でこんな馬鹿げたことをやるしかないのだろうか。