大間まぐろの商標が再出願された理由
正月ぽいニュースと言えばまぐろの初競りが思い浮かびます。今年は、青森県大間産のクロマグロが3604万円で競り落とされたそうです(参考記事)(余談ですが最近はすしざんまいによる高額競り落としはなくなってしまいましたね)。
上のタイトル画像を見ると「大間まぐろ」を示すステッカーが貼られています(2023年の素材写真が見つからなかったので2022年の写真を使っています、今後2023年のものが使用できるようになったら差し替えます)。「大間マグロ」の文字商標は、大間漁業協同組合を権利者として、地域団体商標として商標登録されています。
まず、地域団体商標について説明しましょう。大間まぐろ、草加せんべい、神戸牛といった例を考えればわかるように、「地名+商品の種類」というパターンの商標が大きなブランド価値を持つことがあります。ここで、何らかの形で商標の使用をコントロールしないと、たとえば、神戸とはほとんど関係ないのに「神戸牛」を名乗ったりする便乗商法(練馬区にあるマンションに吉祥寺と名付けてしまうようなものでしょう)が登場し、ブランド価値が毀損するリスクがあります。
しかし、従来型の商標では「地名+商品の種類」というパターンの商標は識別性がないという理由により登録できないという不都合がありました(たとえば、饅頭を指定商品にして「東京饅頭」を商標登録出願しても拒絶されます)。この問題を解決するための制度が地域団体商標です。
地域団体商標を簡単に説明すると、事業協同組合等がその構成員に使用をさせるための商標であること、使用により需要者に広く認識されていること、地名が商品やサービスと関係していることといった条件を満足すれば、「地名+商品・サービスの普通名称」というパターンの商標でも登録を認めるというものです。特許情報プラットフォームの商標検索メニューで、オプションで「地域団体商標」にチェックをして全件検索すると、現時点で786件の登録(と審査中の出願)があることがわかります。
さて、文字商標に加えて、この大間まぐろステッカー(こちらは通常の商標)は、商標登録5283516号として2009年に登録されていますが、2022年10月に商願2022-122837として再出願され、現在審査待ち状態です。
両者の違いは指定商品にあります。既に登録済のものでは、「青森県下北半島大間沖で漁獲されるまぐろ,青森県下北郡大間町産の冷凍まぐろ,原料に青森県下北半島大間沖で漁獲されるまぐろを用いたまぐろの切り身,原料に青森県下北半島大間沖で漁獲されるまぐろを用いた加工水産物」等が指定商品になっています。すなわち、青森県下北半島大間沖で漁獲されたことが条件になっています。
一方、新出願では、「青森県下北郡大間町大字大間の港に水揚げされ大間漁業協同組合で荷受けされたまぐろ,青森県下北郡大間町大字大間の港に水揚げされ大間漁業協同組合で荷受けされた冷凍まぐろ,青森県下北郡大間町大字大間の港に水揚げされ大間漁業協同組合で荷受けされたまぐろを用いたまぐろの切り身」等が指定商品となっており、漁獲された場所は問わず大間港に水揚げされれば「大間まぐろ」と呼べるということで、大幅に条件が緩和されています。
なぜ、このような変更が行われたかですが、大間漁協の方針変更に商標登録を合わせるためと思われます(参考記事)。まぐろの漁場が変化して、大間沖で獲れるまぐろが減少したための苦肉の策ということのようです。なお、この件に関係してちょっとしたごたごたがあったことが文春オンラインの記事になっていますが、私はまぐろ業界の実情については詳しくないので記事を紹介するにとどめさせていただきます。
ここで、ルールを緩くして遠洋で捕獲して大間港に水揚げしただけのまぐろを「大間まぐろ」と呼んでしまうことで、ブランド価値が毀損するのではないかと危惧される方もいるかもしれません。これは、商標権の話というよりも、権利者(大間漁港)の経営判断の話です。質の良くないまぐろにまで「大間まぐろ」の認定を乱発すれば、需要者にとっての「大間まぐろ」のブランド価値が下がり、自分で自分の首を絞めるだけなので、そういったことはせず、適切な品質管理を行うであろうということが(地域団体商標に限らず)商標制度の前提になっています。