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中国が台湾を武力攻撃した時にアメリカは中国に勝てるか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国建国70周年軍事パレードで披露された中距離弾道ミサイル(写真:ロイター/アフロ)

 8月6日、アメリカ元軍人が「アメリカは中国の台湾侵攻をうまく撃退できるか?」を発表し、「アメリカが敗北する可能性が高い」と分析した。26日、中国はグァム・キラーと空母キラーミサイルを発射した。このような中、日本は何を考えているのか?

◆台湾攻防に関してアメリカは中国に敗ける可能性が高い

 8月6日、THE NATIONAL INTEREST(ナショナル・インタレスト)という雑誌&ウェブサイトに“Can America Successfully Repel a Chinese Invasion of Taiwan?”(アメリカは中国の台湾侵攻をうまく撃退できるか?)という論考が発表された。

 作者はアメリカの元陸軍中佐でコラムニストでもあるDaniel L. Davis(ダニエル・デイビス)氏だ。論考の中ではペンタゴン(国防総省)とRAND Corporation(ランド研究所)が最近実施したという中米戦争のシミュレーション(戦争ゲーム)を参照しながら論理展開している。

 そのシミュレーションによれば、もし中国が台湾を武力攻撃した時にアメリカが台湾を応援して米中間で戦争が起きた場合、「おそらくアメリカが敗ける可能性が高い」という結果が出たという。

 ランド研究所のアナリストDavid Ochmanek(デイビッド・オクマネク)氏の分析も考慮して、論考は概ね以下のように結論付けている。

 1.中国が本気を出せば、数日から数週間で台湾を占領することができる。なぜなら中国は空軍基地を攻撃したり海上で空母を攻撃したりするだけでなく、宇宙で米軍のセンサーを攻撃するからだ。中国は宇宙にあるアメリカの通信ネットワークを破壊するだろう(筆者注:この危険性は拙著『中国製造2025の衝撃』で詳述した)。

 2.仮にアメリカが中国を撃退できたとしても、アメリカは恐ろしいほど巨額な費用の代償を支払わなければならなくなる。なぜなら失われた命や沈没した艦船、撃ち落された軍用機といった一般的なコスト以外に、中国がいつ再び台湾に攻めて来ないとも限らないので、常に台湾周辺の軍事的プレゼンスを強化させ常に新しい再攻撃を回避する状態を維持し続けなければならないため、数千億ドルを費やさなければならない。

 3.地政学的に言っても、台湾と中国大陸との距離は目と鼻の先であるのに比べ、アメリカとの距離は6000海里もあり、防衛予算がコロナウイルスにより逼迫している今、米中戦争が勃発したら、防衛予算が爆発的に膨張し、アメリカ経済を破滅に追い込むだろう。勝てば再攻撃を防ぐための莫大な維持費がかかり、敗けたら敗けたでアメリカは破産するのである。

 4.しかし代替案がある。アメリカが台湾を支援し、中国が武力を行使しないようにする最善の方法は、台湾だけでなく、アジア太平洋地域のすべての友好国が自衛能力を強化することだ。アメリカはそれを奨励すればいい。

 5.またアメリカが敗けるかもしれない大きな理由は、中国が「接近阻止(anti-access =A2)/領域拒否(area-denial=AD)」戦略によって強化してきた防衛能力だ。したがって台湾も同じように独自の「A2 / AD戦略」を通して防衛能力を強化すればいい。そうすれば北京の共産党指導者は、潜在的なリスクを冒さなくなる可能性がある。

 最後は、「それでも中国が台湾を攻撃しないという保証はないことは認めざるを得ない。しかし、アメリカの政策にとっては、自国の利益が直接脅かされていないのに、わざわざ軍事的敗北や経済的破滅というリスクを冒すために行動するのは意味がない」と結んでいる。

◆それに対する中国の反応

 たかだか、と言っては悪いが、たとえ20年以上の軍事経験があるベテランとはいえ、ナショナル・インタレストのコラムニストが書いた内容だ。中国がいちいち反応するということも考えにくいが、しかし何と言ってもペンタゴンがランド研究所と行ったシミュレーションなので、いくつかの反応があった。

 まず大陸のネットでは知的レベルの割合に高い「観察者(GuanChaZhe)」というサイトがこの論考の全訳を載せた。そこには中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」の軍事分野を扱う「環境軍事」が2018年に作成した軍事情勢図が載っている。これを中国の多くのサイトが転載した。

 また環球時報自身が社説を発表した。

 この戦略情勢図はリンク先をご覧いただければ分かるが、念のためにここに貼り付けよう。

  

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 これは中国のミサイルをはじめ、軍用機などの射程や作戦距離が伸びたために、中国は第一列島線を完全にカバーでき、さらには第二列島線までをも一定程度はカバーできるということを示した情勢図だ。

 “China’s anti-access/area denial capabilities”というタイトルが図の上部にあり、その下に中国語で(日本語に訳すと)「米シンクタンクの目から見た中国の“接近阻止/領域拒否」”戦略情勢図」と書いてある。

 データはワシントンにある国防問題を中心に調査・研究を行うシンクタンク「戦略予算評価センター(Center for Strategic and Budgetary Assessments=CSBA)」に基づいているので、中国の作戦を披露した戦略図ではなく(そんなものは公開しないが)、「アメリカが警戒している中国の実力」というニュアンスで描かれたものだ。だからタイトルが「米シンクタンクの目から見た」となっている。

 これは正に8月6日に発表された論考の中の「A2/AD」戦略を指し示す図なので、視覚的に分かりやすいように翻訳者が掲載したものと思う。

◆8月26日、中国がキラーミサイルを発射

 このコラムを書いていた8月26日、香港の「南華早報(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)」が、中国が26日朝、青海省と浙江省からそれぞれ中距離弾道ミサイルを1発ずつ、南シナ海に向けて発射したと報じた。多くのメディアが転載する形で報じている

 中国人民解放軍が実弾演習のために設定した飛行禁止区域に米軍の偵察機が侵入しており、それに対する警告を発したものと分析している。米軍のU-2偵察機は過去において5機飛来して中国軍に撃墜されているので、6機目も撃墜してやろうかと中国のネットは息巻いている。

 一方、今年上半期だけでアメリカの軍用機が南シナ海上空を2000回以上飛来したとのこと。7月29日、外交部報道官が「南シナ海はアメリカのハワイではない」と非難したと新華社が伝えている。「気軽に遊びに来るな」という意味だ。

 南華早報の報道ではさらに、東風26号(DF-26)は青海省北西部から、東風21D(DF‐21D)は浙江省沿岸部から打ち上げられたとしているが、下に示す一覧表にある通り、DF-26は最大射程距離5000キロとされており、米軍基地のあるグァム(Guam、中国語標記で関島)に届くことから「グァム・キラー」と呼ばれている。これは第二列島線上にあり、中国としては「何なら第二列島線を手に入れましょうか」という威嚇をしたものと解釈することができる。

 以下に示すのは拙著『米中貿易戦争の裏側』のp.249からの転載である。

 

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 27日のロイター電によればミサイルは4発撃たれたとのことだが、ここでは南華早報に基づいて分析すると、この二つのミサイルは「空母キラー」とも呼ばれており、こういったミサイル発射こそが、アメリカが警戒している中国の「A2 / AD戦略」であると、「南華早報」は説明している。

 特に射程距離約2000キロのDF‐21Dは、中国人民解放軍初の「空母キラー」で、世界初の対艦弾道ミサイルでもある(前掲のミサイル一覧表に載せたのは建国70周年記念の軍事パレードに登場した主たるミサイルのみなので、この一覧表にはない)。

 青海省から発射されたDF-26は、2番目に開発された超音速対艦弾道ミサイルであり、射程距離も一段と長くなっている。

 これはかつて米ソ間(冷戦終結後は米露間)で締結された中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty=INF)という軍縮条約が禁止していた武器の一つだ。昨年トランプはINFから脱退すると宣言したため、2019年8月2日を以て消滅したが、トランプがINFから抜けると言ったのは、中国が加盟していないために、中国が無条件に核戦力開発を進めることができたからである。

 結果、グァム・キラーとして第二列島線にも手が届くようなミサイル力を中国に付けさせてしまった。

 これがペンタゴンとランド研究所のシミュレーションが出した「アメリカが敗ける可能性が高い」という結果に結びついていく。

◆日本は何を考えているのか?

 このような中、日本は何を考えているのだろうか?

 何としても台湾を中国のものとするために、中国は巨大な戦略を進め、第一列島線だけでなく、第二列島線までをも掌握しようとしている。尖閣諸島周辺に対する中国公船の侵犯は、まさに第一列島線占拠を常態化して台湾を巡る米中戦争が勃発した時には、尖閣を中国の領土として戦略拠点の一つにするつもりなのである。

 1992年に中国が領海法を制定して日本の領土である尖閣諸島を中国の領土として明示した時、日本は何も反対せず、むしろ天皇陛下の訪中を実現させて、事実上、「尖閣諸島を中国のものと規定した中国の領海法を認めます」というシグナルを中国に送った。中国を経済的に繁栄させミサイル力までつけさせたのは日本だと言っても過言ではない。1989年の天安門事件で一党支配体制が崩壊しそうになった唯一のチャンスを日本が潰し、中国に「温かな手」を差し出して中国を救ってきた。

 そして今、中国発のコロナが全世界に蔓延し、日本国民全員が、こんなにまで大変な日夜を強いられているというのに、中国公船の尖閣侵犯に対して激しく抗議しないばかりか、その国の国家主席である習近平を国賓として日本に招くことを否定もしていない。

 ナショナル・インタレストの論考はアメリカの友好国に対して中国との闘いの準備を備えることを奨励しているが、いま日本は正反対のことをしている。それを直視する知性と勇気を、政治家も国民も持たなければならないだろう。

 (本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトから転載した。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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