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安保法案パロディ、中国で話題

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

自民党が制作した安保法案動画のパロディ版が中国で話題になっている。中国国営テレビCCTVや人民網が大々的に報道。安保法案の性格と日本国民が何を怒っているかが中国で鮮明になっているのは、なんとも皮肉だ。

◆安保法案パロディ版の中国語版広がる

安保法案の国民に対する説明が不十分だという声を受けて、自民党は7月2日、安保法案の解説動画「教えて!ヒゲの隊長」を制作し公開した。「ヒゲの隊長」は自民党の佐藤正久参議院議員(国防部会長)のことだが、電車でとなりに「あかりちゃん」という女の子が座っていて、質問に答える形で安保法制について説明する。

一週間後の7月9日に、それを風刺したパロディ版「教えてあげる!ヒゲの隊長」(【あかりちゃん】ヒゲの隊長に教えてあげてみた)が日本のネットに現れ、本家の再生回数を上回った。

ヒゲの隊長がやり込められるのが面白いのと、かぶせ方が絶妙で、実にうまい。

中国でも、それに合わせて本家版とパロディ版がそれぞれ話題になっていたのだが、7月23日、(日本の)TBS系(JNN)のニュース番組が、本家版とパロディ版を比較した報道をすると、中国ではその比較が一気に広がった。

まず翌24日の「人民網-日本チャンネル」という、中国共産党機関紙「人民日報」の電子版「人民網」が午後3時には「日本の新安保法案宣伝アニメのパロディ版が原版のアクセス数を越えた」というタイトルで報道。

その翌日の7月25日になると、中国の国営テレビ局CCTV13という、ニュース専門の最も権威のあるニュース番組で、中国語に訳されたパロディ版が報道された(なお、15秒の広告のあと映像が出てくる)。その番組では続いて日本国民がいかに安保法案に抗議しているかを報道したあと、各国のメディアも安保法案を批判していると報道している。

同じ日の7月25日、土曜日ということがあるかもしれないが、お昼のニュースのトップニュースで10分間ほどを使ってCCTV4 中文国際「中国新聞」で安保法案パロディ版を報道した。トップニュースであったというインパクトは大きい。

それはCNTVという、CCTVのネット版でも報道されたために、多くの若者の知るところとなった。

そのため「愛奇芸iqiyi」という若者が見るウェブサイトや、その他多くの民間ウェブサイトに転載されている。

中国の若者のほとんどは、日本のアニメを見ながら育ってきたので、こういうアニメ版と、特にそのパロディには非常に興味を持ち、中国で「安保法案ってなに?」という疑問を、パロディ版を通して理解することになり、人気を博しているのである。

◆安倍首相をヒトラーにたとえる画像

中国のニュース報道やネット情報を通して、「日本で何が起きているのか」を知ることが少なくないが、その中に安倍首相をヒトラーにたとえる画像がある。たとえば安保法案反対を叫ぶデモ隊が掲げているプラカードの数々で、日本ではあまり報道されていない。

最近では「人民網」の兄弟版である「環球網」が安倍首相をヒトラーにたとえたプラカードを持つ日本人女性の姿を、詳細に報道している。

安倍政権が秘密保護法や集団的自衛権を主張し始めたときから、中国のネット空間では「安倍希特勒(安倍ヒトラー)という言葉が出てきて、数多くの画像が作成されるようになった。

百度(baidu)の掲示板には2013年12月から安倍首相をヒトラーになぞらえる画像が貼り付けられるようになった。

つい最近では安倍首相の「生肉首相」騒動が話題になっている。

「安保法案を説明すればするほど追いつめられていく安倍は“生肉首相”と風刺されるようになった」という意味の中国語のタイトルがついている。

どうやら、日本の民放にナマ出演した安倍首相が、「火事の場面」を使って安保法案の必要性を説明したらしいが、そのときに使った火事の煙が「生肉」に似ていることから、この名がついたという。日本で起きていたことのようだが、本の執筆に専念していた筆者は見落していて気がつかなかった。それを中国の報道で知るというくらい、中国は日本よりもつぶさに安倍首相の動向を報道しているということになる。

なんといっても、日々のCCTVのニュースの中で、安倍首相に触れないことはないのだから、その関心度の高さが推測できるだろう。

中国では7月7日から9月3日まで、毎日「抗日戦争の国辱を忘れるな」をテーマとする特集番組を組んでシリーズで報道しているが、その合間に出てくる安倍首相に関するニュースは、もうそれだけで「抗日戦争と安倍首相」をリンクさせるに十分である。

戦後70周年の総理談話を牽制する意味もあるだろうが、ここまでの時間を「中国のニュース」の中で割いている現実は、注目に値する。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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