高橋是清も指摘していた国債のリスク
1935年6月の閣議で当時の高橋是清蔵相は、「毎年巨額の国債が発行せられて行く時は、現在すでに相当多額の公債を保有している金融業者等は内心不安を覚え、少しでも公債価格の下落が予想せらるるようなことがあれば、進んで公債保有額を増加せぬことは勿論、すでに保有している公債もこれを売却しようとする気になり、一度このような事態が起きれば加速度的に拡大してたちまち公債政策に破綻を来し、市場に公債の消化を求めることができなくなる」と説明しています。
アベノミクスは日銀による国債引受による経済政策を行った高橋財政に似た政策といえます。大量に発行される国債を日銀が買い入れることによって、大胆な金融緩和策により、インフレを引き起こそうとしたものです。つまりここには、国債を仲介しての財政政策の拡大と大胆な金融緩和をセットにした、いわばフリーランチ政策が意識されていたとの見方も可能です。
これにより表面上は国民負担はなく、積極的な財政政策が可能となり、金融緩和によって景気が刺激され、さらに円安も呼び込もうとの政策ともいえます。
しかし、国債は国の債務であり、それは徴税権が担保になっている点を注意すべきです(建設国債と赤字国債が該当)。高橋財政後、戦時中に発行された国債は、日銀引き受けとなっていましたが、それは結果としてハイパーインフレーションと預金封鎖並びに新円切り換えにともなう財産税などによって「償還」されています。政府と日銀は同じサイフなので、債権と債務が相殺できるとの意見がありますが、中央銀行制度はそれを許さないシステムとなっています。
MMTという理論もあるようですが、現在その理論が成り立っているかにみえる日本でも、80年以上も前に高橋是清蔵相が指摘したリスクが存在しています。そのリスクを顕在化させないため、財務省なり日銀なりが必死で信任を維持させようとしています。その信任をいまのところ市場参加者も共有しています。しかし、いったんそのバランスが崩れると、「加速度的に拡大してたちまち公債政策に破綻を来す」ことが予想されるのです。