「小池新党」は蓮舫民進党が急接近でいいのか…? 都議会自民党と全面対決へ
小池知事のカードとは?
週末12月10日の土曜日に第3回の小池百合子政経塾「希望の塾」が開催され、週明けからマスコミはこぞって「小池新党」と報道している。
これまで「新党までは…」と消極的に捉えていた人たちも一転、「小池新党」と言い始めている。
筆者は、都知事選の際から、投開票日の7月31日以前の7月29日に書いたコラム「救世主となる「小池新党」はあるのか?」で触れたのをはじめ、これまでも小池新党の可能性について書いてきた。
都知事選の際に有権者に指摘していたのは、次のようなことだった。
〈 小池氏は当選すれば、自ら党首となって「小池新党」シナリオと、都議会自民党と手打ちをして「安定都政運営」シナリオを両天秤にかけ、大阪のように一気に転換できそうなら「新党」、そこまでいかなさそうであれば「手打ち」と選択していくのだろう。その辺りは政策でも言動でも絶妙に通り抜けているような印象を受ける。仮に新党を作ったとしても、その新党は官邸とは連携していくであろうことも紹介しておく 〉
ところが、だ。
「いよいよ新党!」とマスコミが報じ、その可能性が高まると、政治の世界では色々な人が寄ってくる。今回の場合、その代表格が、民進党の蓮舫代表ではないだろうか。
小池塾が実施された翌日の11日、蓮舫民進党代表は新潟市で記者団に「小池氏の頑張っている点を最大限評価し、古い政治と闘う姿に共鳴もしている。何か協力できることがないか探ってみたい」と語っており、来年夏の都議選で小池知事と連携を模索する考えを示したとされる。
蓮舫代表は9月にもTBS「時事放談」で小池知事の政治塾立ち上げに向けて、「我々の仲間も機会があれば参加したい」と述べており、小池百合子s政経塾である「希望の塾」の塾生の中には現職・元職の都議や地方議員などが多数含まれる。
民進党の元都議に至っては、「希望の塾」に入らなかった者が、「あなた以外はほとんどが希望の塾に入っているが大丈夫なのか?」と指摘されるほどの状況になっているという。
3ヵ月前の9月23日、蓮舫氏が小池氏を表敬訪問し都庁で話をしている。
マスコミ報道では蓮舫氏の小池氏への接近ばかりが報じられているが、この時、小池氏側からは都議選等についてかなり踏み込んだ話があったとも耳にする。
来年7月に行われる都議会議員選挙の際に、選挙区によって民進党候補者を応援する代わりに、当選後は民進党は小池新党の候補と同一会派を組むことなどが提示されたとも噂される。
実際に元都議会議員でもある野田数 東京都特別秘書が、民進党の多くの都議や元職たちに積極的な働きかけを続けていると聞くほか、民進党元都議の集会には小池知事の代理としてこの野田数氏が出席し、メッセージを代読したという。
自公を過半数割れに追い込むためには
図表:都議会議員選挙区別定数
出典:筆者作成
東京都議会の議席は選挙区ごとに配分されているが、うち定数8人区が2ヵ所、6人区3ヵ所、5人区3ヵ所、4人区6ヵ所、3人区5ヵ所ある。
小池新党が出来た際には、7月の都議会議員選挙では「最低でも20議席程度を確保」と選挙プランナーが分析、などと報道されているが、我々が簡単に見ても、8人区で各2議席、6~3人区で1議席獲得した場合、これだけで21議席となる。
小池知事側から見れば、問題は、127議席ある都議会の議席の中で、60議席を自民党が占める状態をどう改善させられるかだ。
まずは公明党の23議席を合わせた83議席を過半数割れの63議席に減らしたいところであり、公明党の23議席は現状維持と仮定すると、自民党の60を40まで20議席減らすことが重要だ。
そこまで追い込めば、政策ごとにでも公明党の賛否が変わる可能性が出てくる。状況は大きく変わることになるだろう。
こうした前兆は今議会にもあった。
公営企業会計決算特別委員会におけるいわゆる豊洲新市場の「盛土」問題を含んだ中央卸売市場会計の採決において、賛成の自民党に対して、公明党は他の全ての会派と共に反対に回ったのだ。
これにより可否同数となり、最終的には公明党所属議員である委員長が反対の立場をとり、委員会採決は「不認定」となっている。
都議会においては、自民党単独では60/127しかなく、現状においても公明党の判断によっては、都議会自民党の意見と異なる結論になることがあるのだ。
ただ、こうした状況を考えると、小池新党が一定の議席を確保することはもちろんだが、同時に反自民を増やす構造が必要であり、その議席が現状18議席ある民進党から取るのではなく、自民党から取るという仕掛けが必要になるということだ。
その意味では、定数が1や2である選挙区での戦いも重要であり、非自民で統一候補で戦うというのは1つの重要な戦略だと言える。
今回の塾開催後、小池氏は記者に「カードはたくさん持っていたい」と話しているが、おそらくこのカードの一つが民進党との連携であることは間違いなさそうだ。
2枚目のカードは、自民党都議の引き抜き
しかし、そうは言っても民進党との連携は「カードのひとつ」に過ぎない。より効率的なカードもあるはずだ。自民党都議を直接引き抜いて小池新党から擁立する方法だ。
小池知事の人気が、多少の上下はあるもののこのまま続いた場合、都議会自民党の一員としての出馬では当選が厳しい議員も多い。
一方で地盤がある自民党候補が小池新党から出馬することになれば、そうした候補も一転して次の選挙は実質的な「当確」になる。
小池知事の地元を中心に仮に10人もの自民党都議をひっくり返すような事態にでもなったら、自民党都議団は選挙の前に、60から一気に50に減る事になる。
おそらく、特別秘書の動きなどから、狙いは、当選期数の少ない若手などを中心に、こうした仕掛けを同時に行っていくことなのではないだろうか。既に自民党都議の中にも造反が出てきているとも噂される。
革新派の新党と異なり、自民党議員による新党の形成は、自民党議員を引き抜く際のハードルが低くなる。その意味でも小池新党には大きな可能性があると言える。
事実、大阪における大阪維新の会の場合、自民党会派を2分した構造が、そのまま新党となったことで、一気に過半数を奪う結果となった。
オリンピック関連での森元総理との関係、議会での都議会自民党の構図、そして自民党都連の7人の侍の除名処分と揃ったことで、小池知事の言うところの「大義」は揃ったように見える。
政府との関係は別にして、都議会自民党との全面対決を前提に、一気に都議会の構造を変えたいと考えた場合、こうした手法が最も重要な一手とも言えるのではないかと思う。
都民・国民が期待するは「第3勢力」
将来的に首相の目を残すこと、オリンピックを成功させるためにも政府との関係を維持することを考えると、都政においては都議会自民党と対立しながら、国政レベルの問題については「第2自民党」として対応できるオプションも考えるという、ある意味綱渡りのような絶妙の選択が求められる。
おそらくここが一足飛びに「小池新党」と言えない最大の理由であり、小池氏はカードをいくつも揃えた上で、そのタイミングが来るまで選択を保留したままにしたいのだろう。
ただ、そうは言っても、国民が期待する3つ目のカードは、自民でも民進でもない第3勢力としての「小池新党」なのではないだろうか。
政権交代による民主党政権からの反発による「自民党しか受け皿がない」といった消極的選択による自民党という枠組み。
一方で、自民党の独裁状態を解消するためには、分散していては太刀打ちできないと「選択支を減らすことで非自民の受け皿になろう」という民進党と共産党を中心とした野党共闘・・・。こうした構造の中で、国民が望んでいるのは、紛れもない自民でも非自民でもない、国民本位の第3の道なのではないだろうか。
噂される第1のパートナーは日本維新の会である。
冒頭紹介の「希望の塾」の会合でも、小池知事自身が「3大都市圏の連携」という話をした。
このことから素直に考えれば、行政的な3大都市の連携だけでなく、政治おいても、大阪圏の維新、さらにこの塾の講師として参加した河村たかし名古屋市長が代表を務める名古屋圏の減税日本との連携なのだろう。
維新との連携で気になることと言えば、橋下徹元代表の動向である。
今回の第3回「希望の塾」において、当初は講師で参加する意向だった橋下氏が講演を断った。
橋下氏の発言を見ると、その理由は、「小池塾サイド、維新議員サイドが好き勝手にやっている」、「文春にしょうもないことを書かれたらうっとおしいだけなので、距離を置く」といったことのようだ。
これを見て、私は2つのことを考えた。
1つは、「小池新党を絶対に作らせてはならない」と、安倍政権の周りから横槍が入ったというシナリオだ。
橋下氏が次の内閣改造で民間人からの大臣起用で入閣するなどといった話が、裏で安倍首相や菅官房長官と話がついたという想像だった。現実的にはこの可能性はなさそうだ。
もう1つが、逆に、新党の件などで小池知事と既に話がついていて、その上で、今回のような講演をするしないという小さいことで余計なトラブルを生むのはやめよう、ということになったというシナリオだ。
ここまでは決まっていなかったとしても、今月に入っても橋下氏は、「小池さん、新党結成するなら年内がタイムリミット」などと前向きな発言を続けており、小池知事の覚悟次第で、その連携は大きく進む可能性があるように見える。
新党結成なら「年内がタイムリミット」
橋下氏が「年内がタイムリミット」というのは、大阪での事例をもとに選挙準備にかかる時間という意味合いからだろうが、この「年内がタイムリミット」には他にも考えられる意味がある。
2011年から2015年までに設立された国政政党16党のうち、半数に当たる8党が12月から翌年1月に発足しているのだ。新党結成はある意味で「年末年始の風物詩」とも言える。
この時期に集中するのには特別な理由がある。政党交付金だ。
政党を創るのにはお金がかかる。最近では、みんなの党を作った際に渡辺喜美代表がDHC会長から8億円の資金提供を受けたとして大きな問題となった。
民主党結党の際は25億円の費用が掛かり、うち15億円を鳩山家から、残りの10億円を連合が出したと言われる。
今回、「希望の塾」への募集で新党への準備金を2億円つくったと言われるが、新党を創って国政レベルにまで候補者を擁立するということになればこれではとても足らない。
年間総額約320億円の政党交付金は年4回に分けて交付される。毎年1月1日を基準日として、各党の議員数などを基に交付額が決まる。
国政選挙が行われた場合などは再計算するため交付額も変わるが、原則は「1月1日時点に存在する政党」となっている。そのため年末年始に駆け込みで届け出が相次ぐのだ。
最近は短期間で浮かんでは消えていく政党が相次いでいるが、2014年12月の衆院選後に国会議員4人となり、政党要件の一つである「議員5人以上」を割った生活の党が、当時無所属だった山本太郎参院議員を入党させて政党要件を確保した上で、この年も4億円以上の政党交付金を得ている。
もう一つ、直近のトピックとして横たわるのが衆議院の解散である。
個人的には、1年以上前から2016年12月解散を唱えてきたが、実際には少しズレて、1月解散2月投開票の線が現実的になってきた。遅くとも都議会議員選挙3ヵ月前の3月までには総選挙が行われる可能性が極めて高い。
「小池新党は地域政党」との割り切りもあるだろうし、「維新の失敗は国政にうつつを抜かしたからだ」と指摘する人たちもいる。
しかし一方で、閉塞感あるこの国の政治をなんとかしてもらいたい国民の期待という意味では、自民、民進に代わる第3の選択を国政レベルで創ってもらいたいものだと考える。
ちなみに、橋下氏への講師依頼の際に間に入ったといわれる維新の議員とは、日本維新の会副代表の渡辺喜美参議院議員であり、都知事選の際に、音喜多都議や上田都議、両角都議など元みんなの党の都議たちを小池知事とつなげたのもこの渡辺氏だと言われる。
小池氏と渡辺氏は、いみじくも小泉政権を閣僚として支えた同志でもある。
少なくとも、小池新党結党時における日本維新の会との合併はないだろうが、現時点で政党交付金の政党要件を満たす国会議員5人を集めるとなると、この元みんなの党の議員たちであれば、一定の可能性があるのではないかと思う。
参考までに、小池百合子知事が自民党総裁選に出た際の推薦人についても合わせて掲載しておく。
図表:元みんなの党議員・自民党総裁選推薦人一覧
出典:筆者作成
さらにウルトラCということで言えば、かつて新進党、自由党と小池氏と共にした小沢一郎氏との連携だろうか。
蓮舫民進党との連携と同様に、小沢氏との連携が、「小池新党」にとってプラスとなるかどうかは分からないが、少なくとも小沢氏にとっては直前に迫る総選挙に向けて非常においしい話に映るのではないか。
都知事選の際には、石破事務所などが裏選対を支えたなどとも言われる。
中期的にはこうした自民党内の動きも注目だ。
昨夜には、都議会の公明党が自民党との連携を見直すとの報道が入った。
いよいよ都議会の構造改革が動きだす。
まずは、今月中に政党要件を満たした国政政党ができるのか、それが難しい場合には、来月中に地域政党としての結党、さらには衆議院解散総選挙への対応・・・新党の船出は慌ただしくなりそうだ。