今、非常にみんな内向的な音楽になっている――日本のポピュラー音楽史を更新してきた細野晴臣が見た「コロナ禍」
アメリカ公演はお礼参り
故・長谷川博一が著した『追憶の泰安洋行』という書籍の中で、細野は自身について「文化的な背景は確実にGHQの洗脳」とまで言い切っている。映画『SAYONARA AMERICA』は、そんな細野によるアメリカ公演を記録した作品だ。 「なんかこう、お礼参りというか(笑)。GHQの洗脳もあるけど、それはいい面もあったわけでね。いい音楽に出会えているっていうことは、非常に得したことだと思います」 ほんの2年前に撮影されたドキュメンタリー映画だが、コロナ禍の2021年に見ると、遠い昔のようにも感じられる。 「アメリカ公演は、お客さんも入って喜んでくれた。で、日本に帰ってきたら、こういう時代になっちゃったと。そこにピリオドを打つしかないんですね。音楽を聴かなくなっちゃったしね。だから、あの映画を監修するときに、そういう気持ちでまとめたんですよね。『タイトル、何にしましょう?』と言われて、『SAYONARA AMERICA』と、すぐ決めちゃったんですよね」 『SAYONARA AMERICA』とは、はっぴいえんどの『HAPPY END』の収録曲「さよならアメリカ さよならニッポン」に由来する。 「あのライブは、人々も自由だったし、マスクもしてなかった。でも、こういう時代になって、もう今、コミュニケーションがしづらくなってるわけですよ。簡単に海外にも行けなくなっちゃったし。分断は確かですね」
今、みんな内向的な音楽になっている
細野が自身の音楽制作を「非常に孤独な作業」と語るように、彼が多く制作した「アンビエント」と呼ばれるパーソナルな手触りの電子音楽は、国内外で近年さらに支持されつつある。 「今、非常にみんな内向的な音楽になっていると思うんです。やっぱり自分を癒やすためとか、自分が心地よくなるために作っている人が増えてるんだと思うんですね。聴く人もそうなんでしょう。それに共鳴しているんだと思うんです」 そう分析する細野の次回作はどんなものになるのだろうか。『SAYONARA AMERICA』では、音楽をやめることをやめる、という発言もあった。 「自分でも気になります(笑)。マイクロリセットというか、自分の中で白紙にしちゃったんですよ。でも、音楽はね、自分にとって唯一の表現手段ですし、唯一の楽しみなんですよ。この2年の経験が出てくるのか、これからのことが出てくるのか、ちょっとまだわからないんですけどね」 『SAYONARA AMERICA』に記録されているアメリカ公演のあった2019年まで、非常に活動的だったと振り返る。 「でも、コロナでいろいろな制約があったんで、やり過ごしていくうちに、2年が経っちゃったんです。気持ちが、ますます活動的じゃなくなっているんですね(笑)。何かスタジオで、自分の音楽ができるかもしれないんで、そっちを考えてるところですね。たぶん、そんな遠い先じゃないですね。うん、やりたいとは思ってますね。目星はついてないんだけど(笑)」