駿希さんが亡くなる１カ月前に発売された米津玄師さんのＣＤアルバム。遺族は亡くなる瞬間まで収録曲を聴かせていた

　京都市中京区の京都医健専門学校で9月2日、1基のモニュメントが披露された。4年前に福井県で行われたダイビング実習中、生徒だった大津市の伊藤駿希さん=当時（19）=が溺死した事故を伝える「学校安全の碑」だ。再発防止を求める遺族の声を学校側が受け止め、二度と事故を起こさない決意が記された。 【写真】大のサッカー好き。スポーツを裏方から支えたいと夢を描いていた伊藤駿希さん 　■サッカーに情熱を注いだ少年 　「いつも姉2人の後ろに付いて回る子どもでした」。母の美はるさん（56）は振り返る。駿希さんは3人きょうだいの末っ子。幼少期はおとなしい性格で福井県の祖母に会いに行くのが好きだった。 　小学4年生の時、友人の影響を受けサッカーにのめり込んだ。家に帰るとランドセルを放り投げ、小学校の校庭でボールを追いかける毎日。両親を説得し、スポーツ少年団に入った。中学校も高校もサッカー部。長姉のゆきのさん（27）は「口を開けばサッカーの話だった。海外サッカーの話をよくしてくれた」と懐かしむ。 　駿希さんは、選手を支えたり、サッカーの面白さを世の中に伝えたりしたいと思った。多くの友人が大学進学を希望する中、運動指導などの専門知識を学びたいと考え、京都医健のスポーツ科学科を進路に選んだ。 　■夢膨らんだ学生生活 　京都医健に入学したのは2020年4月。コロナ禍まっただ中だった。入学式もなく、当面はリモート授業が続いたが、家でも毎日トレーニングし、応急処置の技術などを磨いていた。6月に対面授業が始まると、前後にアルバイトに励み、サッカーは欠かさなかった。 　ある日、9月に行われる学校のスキューバダイビング実習の案内を持ってきた。美はるさんは不安がよぎったという。駿希さんは泳ぎが得意ではない。「コロナなのに行くの?サッカーをやるのに海に潜る必要ないやろ?」と聞いたが、選択が必修だからと覚悟を決めたようだった。 　9月2日はいつも通りの朝だった。美はるさんは、実習に向かうバスの中で食べられるように駿希さんが好きなパンを渡し、「忘れ物ない?」と声をかけて送り出した。これが最後に見た駿希さんの姿になった。 　午後になり、美はるさんの職場に電話が入った。「駿希さんが心肺停止の状態で病院に向かっています」と担任の教員から告げられた。何を言っているのか分からなかった。パニックのまま、家にいた次姉の里紗さん（25）とともに福井の病院へと車を走らせた。