横浜流星×吉岡里帆が語る“信じられる人の条件”「大切なのは相手の領域に土足で踏み込まないこと」
人を信じるとは、どういうことだろうか。もしかしたら目の前にいる人は、嘘をついているかもしれない。何か意図を持って近づいてきているのかもしれない。あるいは殺人犯かもしれない。 【全ての写真】横浜流星×吉岡里帆の撮り下ろしカット 自分が見ているものは、相手のほんの一面かもしれない。それでも、なぜ信じるなんて言えるのだろうか。 映画『正体』は、殺人罪で死刑判決を受けた青年・鏑木による343日間の逃亡劇だ。鏑木は行く先々で名前と顔を変えながら、息を潜めるようにして暮らしていた。鏑木はなぜ脱走したのか。鏑木は本当に罪を犯したのか。過酷な逃亡劇の果てにあるのは、それでもこの世界を信じたいという一筋の希望の光だ。 主人公・鏑木を演じるのは、横浜流星。鏑木が潜伏先で出会うキーパーソンの一人・沙耶香に扮するのは吉岡里帆。映画づくりを通じて深い信頼で結ばれた二人に聞いた「あなたはこの世界を信じたいですか」の答えとは――。
役として生きるだけでは見えないものがある
――横浜さんは、近年枷を負った役どころに果敢に取り組み続けています。こうした役を演じていると、やはり役に侵食されるようなところはありますか。 横浜 もともと自分は器用な人間じゃないので、私生活でも作品だったり役について極力考えていたいタイプではありました。ただ、年々、それはいかんと。 吉岡 変わってきたんですか? 横浜 変わってきました。『ヴィレッジ』のときに藤井(道人)さんから「流星は役に入りすぎるからコミュニケーションがとれなくなる。それはあんまりよくない」と言ってもらって。自分でもわかっているんですけど、今もまだどうすればいいか模索しているところです。 吉岡 私も作品に入っている間は役のことで頭がいっぱいになるタイプなので、流星くんの言ってることはすごくわかります。 横浜 やっぱりみんなと作品をつくる上ではコミュニケーションは大事なので、『正体』を撮っている間も役に入り込みすぎないように、スイッチのオンオフができるように意識していたつもりではありますけど、できていたかどうかは自分ではわからなくて。 吉岡 今って、銀幕のスターの方々のように、撮影中のひとつの役だけのことを考えて過ごすことが難しいというか、他のことと同時進行しなくちゃいけない時代。でも、私も映画の撮影に入っている間に別のことをやるのは苦手で、全然うまくできないです。 横浜 難しいですよね。 吉岡 難しい。どうしていいかわからないですよね。 ――お芝居においても、役にのめり込む情熱の部分と、俯瞰で捉える冷静さが必要ですよね。 横浜 そこはもう仕事や芝居にかかわらず、どの物事においても大事だなと思います。空手や格闘技もそうなんです。やっぱり頭は冷静でいなくちゃいけないので。僕はずっと役として生きることを正義だと思ってやってきたけど、それだけでは見えないものがある。いろんな目を持たないといけないなと今課題にしているところです。 吉岡 でも、そういう流星くんだから鏑木を演じられたんだと思います。今回、夏と冬に分けて撮影を行ったんですね。夏は那須という名前でフリーライターを装った鏑木とのシーンを撮っていて。そのときの流星くんは誠実さとピュアさの中に痛みを背負った影が見てとれて、対峙していると自分が強くいなきゃと自然と思いました。でも、冬にまた現場へ合流したときは、ありのままのの鏑木としての再会だったからか、毒が抜け切ったような表情をされていて。そのまっすぐな目を見ていると、彼が幸せになれない世の中だとしたら、それは世の中のほうがおかしいと思うぐらい、ただ鏑木が幸せであれと願う気持ちになりました。 ――今回、情熱と冷静のバランスを意識したからこそ辿り着けた境地というのはありましたか。 横浜 鏑木はいろんな人からたくさんのものを与えてもらう側だったので、それをすべてこぼさないように受け取ることを大事にしていました。ただ、そこにいる自分は、本当の自分だけど偽っている自分でもあるので、与えてもらったものを100%そのまま受け取ることはできないんですよね。その微妙なニュアンスは冷静に意識しながら演じていました。