「新」クールジャパン戦略が成功するには?ニッポンを“発見”するのは世界!やるべきは「私たち」のコンテンツを作りを邪魔しないこと
印象派につながるジャポニズムの発端は、日本から欧州に輸出された陶磁器の箱詰めのクッションとして使われていた版画の数々だった。葛飾北斎の「富嶽三十六景」の富士から発想して建設されたのが、エッフェル塔ではないか、という説を唱えているのは美術史家の東北大学の田中英道名誉教授である。エッフェル塔を描いた絵が「富嶽」と同じ36枚存在するのである。
最も重要なのは「民」を邪魔しなこと
「新たなクールジャパン戦略」が縷々述べている、これから克服しなければならない課題として「PDCAサイクルの欠如」や「分野連携」、「インテリジェンス機能が乏しい」などが並んでいる。もっともではある。 しかし、政府の政策は「民」を邪魔しないで、コンテンツづくりの整備に努めることだ。映像・ドラマは監督ばかりではなく、照明や音声、装置など総合芸術である。それぞれの専門家の養成が欠かせない。いま日本にある高等教育機関としては、東京芸術大学・映像研究科、日本大学藝術学部・映画科、日本映画大学といったものがある。 山田洋次監督は、国立の映画大学の設立をかねてより提案している。英国には王立演劇学校がある。シャークピアの芝居が演じられたグローブ座も再建されている。 ニューヨークにはブロードウェイが、ロンドンにはウエストエンドの演劇場街がある。 歌舞伎や文楽、落語の殿堂だった国立劇場は29年度の再開を目指して閉鎖、PFI方式によるホテルなどを併設する建て直し計画を立てたものの、入札に応札する企業が現れずに「不調」となって再開のめどがたっていない。歌舞伎と文楽は「通し狂言」というひとつの芝居を最初から最後まで演じることで、後進の養成を図ってきた。 舞台も歌舞伎の大劇場と文楽の小劇場は、演技にふさわしい構造になっている。閉鎖によって、演者たちは都内各地の文化ホールなどで不十分ながらも公演を続けている。 日本のアニメーターの平均年収は約440万円である。日本人の平均年収467万円を下回る。海外のアニメーターの年収は約780万円である。AIの導入などによって、作業効率があがるといわれている。 19年の海賊版法制改正案においては、漫画家たちの反発を招いた。日本のアニメ、コミックはほかの作品を参考にしながら、造形や色彩を発展的に進化させる構造にあることを当時の政府は知らなかった。マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(MANGA議連)の古屋圭司会長が当時の安倍首相に直接電話をかけて、漫画家の要望を伝えて法制改正案は先送りになった。 「文化国家」を標ぼうするならば、日本文化についての造詣が必要である。議員たちが、歌舞伎や文楽を楽しみにいったという話は寡聞にして聞かない。 「新たなクールジャパン戦略」は、前回と同じようによくできた官僚の作文に終わりはしないだろうか。
田部康喜
【関連記事】
- 【単なるPV稼ぎ?】靖国神社に落書きする中国人、増加する迷惑系ユーチューバーが「愛国」「反日」感情を利用する背景
- 「君たちはどう生きるか」「ゴジラ-1.0」の米アカデミー賞受賞でも、まだまだ足りない日本のアニメ・ゲーム輸出への努力
- 【音楽界でも米中対立?】テイラー・スウィフトがTikTokから消えた…音楽業界とプラットフォーム対立の新たな2つのトレンド、AIが揺るがす音楽ビジネスの未来
- 『セクシー田中さん』原作者死去で日本人が見つめ直すべき3つのこと 日本のコンテンツ産業に横たわる根深い問題は解決できるのか?
- 大河ドラマ「光る君へ」視聴率最低でも映像配信時代の「成功」Netflixドラマを手がけた脚本家・大石静のあざやかな手腕