専科の凪七瑠海が特別出演!星組演者たちも繰り返し歌う曲「瞳の中の宝石」も注目の作品「バレンシアの熱い花」('23年星組・全国ツアー)
昨年、全国ツアーとして上演された星組「バレンシアの熱い花」は、1976年に初演されて以来これが4度目の再演となる、タカラヅカファンにはおなじみの名作である。作者は柴田侑宏、今回の上演では演出を中村暁が手がけた。 ナポレオン支配下にあった19世紀初頭のスペイン、バレンシアでは領主ルカノール公爵(朝水りょう)が悪政を敷いていた。父親の非業の死がルカノールの差し金であることを知ったフェルナンド・デルバレス侯爵(凪七瑠海)は「退役して詩人になる」と、許嫁のマルガリータ(乙華菜乃)に偽りを告げ、復讐に向けて密かに動き出す。 【写真を見る】 ルカノールの甥ロドリーゴ(極美慎)も、恋人のシルヴィア(水乃ゆり)をルカノールに奪われたことを恨んでいた。フェルナンドはまずロドリーゴを仲間に誘い、酒場でのいさかいから知り合った剣の達人ラモン(瀬央ゆりあ)も仲間に引き入れた。三人は「黒い天使」を名乗り、行動を開始する。そんな中、フェルナンドは酒場で出会ったイサベラ(舞空瞳)と恋に落ちる。 身分違いの恋に身を焦がすフェルナンドとイサベラ、報われぬ恋に殉じるロドリーゴとシルヴィア。そして、イサベラを想うラモンと、フェルナンドを想うマルガリータ。痛快な仇討ち物語と並行して、切ない恋愛物語が進んでいく。 今回、主演したのが専科から特別出演の凪七瑠海だ。2003年の初舞台の後、宙組、月組を経て、2017年に専科へ移った。2018年の花組「蘭陵王」で主演、最近では雪組「心中・恋の大和路」 の丹波屋八右衛門や花組「激情」のプロスペル・メリメ/ガルシア(2役)での、男役としての懐の深さを感じさせるお芝居が印象的だった。現在上演中の花組公演「エンジェリックライ」「Jubilee」が退団公演となる。 その凪七が男役として積んできた経験を存分に活かして演じるフェルナンドからは、婚約者がいることと自身の想いの両方を率直にイサベラに告げる誠実さ、真面目さが切々と伝わってきた。 舞空瞳演じるイサベラも、恋ゆえに感情的になって我を忘れたりはしない、賢さと強さを備えた女性である。立場をわきまえた大人の男女の恋だから美しい。 瀬央ゆりあ演じる熱い男ラモンがハマり役だ。フェルナンド、ロドリーゴとは「黒い天使」としては同志でありながらも、貴族である2人とは別世界の庶民であることも、手堅い芝居で明確に示してみせる。 極美慎演じるロドリーゴは登場の瞬間から目を見張る華やかさ。シルヴィア(水乃)との並びも絵のような美しさである。 実は一枚岩でない部下たちに囲まれ安穏としているルカノール(朝水)は愚かで、哀れでさえある。ルカノールにおもねるホルヘ(大輝真琴)とフェルナンドに力を貸すドンファン・カルデロ(天飛華音)。異なる道を歩む父子の愛と確執も、この作品の第4の軸として厚みを加えていた。 劇中で繰り返し歌われる名曲「瞳の中の宝石」にも耳を傾けたい。1度目はフェルナンドとイサベラ、2度目は主要キャスト6名の関係性を描くダンスシーンでのソロ(都優奈)、3度目はロドリーゴとシルヴィア、4度目はラモン、そして最後に再びフェルナンド。それぞれに意味が違い、歌詞も変わっているのが何とも味わい深い。 文=中本千晶
HOMINIS