日本映画史上、最も切ないラストは? 苦すぎる結末の邦画(1)罪悪感に泣き崩れる…リアルな別れを描いた名作
ギリシャの哲学者アリストテレスは、魂を浄化する「カタルシス」の条件として、「怖れ」と「憐れみ」の感情が必要だと述べている。つまり、精神の浄化には、ハッピーな展開ではなく、バッドな展開を観ることが必須なのだ。そこで今回は、ほろ苦い結末を迎える日本映画5本をセレクト。心を浄化してくれる作品を紹介する。第1回。(文・シモ(下嶋恵樹))
『ジョゼと虎と魚たち』(2003)
原作:田辺聖子 監督:犬童一心 脚本:渡辺あや 出演:妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里、新井浩文、新屋英子 【作品内容】 平凡な大学生・恒夫(妻夫木聡)は、麻雀店でアルバイトをしながら細々と生計を立てていた。 そんなある日。犬を散歩している彼の元に、ベビーカーに乗せられた少女・ジョゼ(池脇千鶴)が現われる。包丁を振り回す彼女にびっくりする恒夫だが、彼女と交流するうちに次第に惹かれていく。 【注目ポイント】 本作は、田辺聖子の同名小説を実写化した作品。監督は後に『メゾン・ド・ヒミコ』(2005)を発表する犬童一心で、障がいを持つ女性ジョゼと恒夫の恋愛模様を描いている。 誰とでも関係を持ってしまうような、やや浮ついた大学生活を送っていた恒夫。彼ははじめ、興味本位でジョゼの家に出入りしていたが、一緒に過ごすうちに次第に恋愛感情が芽生える。同じくジョゼも恒夫を大切な存在と思うようになり、2人の関係はかけがえのないものに変わっていく。 恒夫はある日、身体が不自由なジョゼに外の世界を見せたいという思いから、彼女をドライブに連れ出し、動物園に行ったり、海に行ったりと、2人だけの思い出を作る。しかし、やがて2人は別れてしまう。 その後、大学生の同級生・香苗(上野樹里)と付き合い始めた恒夫は、なにげない会話の最中に突然泣き崩れる。障がいのあるジョゼから逃げ出した自分の情けなさと、彼女を振ったことへの後悔が堰を切ってあふれ出したのだろう。 しかし、ジョゼはというと、何事もなかったかのように日常に戻り、家で魚を焼いていた。恒夫のほろ苦い感情と、淡々と前を向くジョゼの力強さ―。2人の心持ちの対比で物語は幕を下ろす。 (文・シモ(下嶋恵樹))
シモ