「行き過ぎた探偵行為、悪質と判断」 ストーカー犯罪で摘発 過去には殺人事件も
探偵を悪用したストーカー事件が京都で起きた。探偵業者は顧客の依頼を受け、尾行や張り込みによって情報を集めることが法的に認められているが、収集した情報が犯罪に用いられるリスクをはらむ。関係者は「探偵行為が犯罪を助長することがないよう、業界の健全化を進めるべき」と指摘する。 40代女性の自宅周辺を執拗(しつよう)にうろつくなどしたとして、京都府警中京署は6月、無職の男(63)をストーカー規制法違反などの疑いで逮捕した。2人は店員と客の関係で、男は警察の調べに「自分の好意に気付いてもらえなかったのでやった」と容疑を認め、8月に京都地裁であった公判では「結婚したい気持ちが強かった」と話した。 男が女性に近づくために利用したのが、探偵業者だった。男は昨年9月、京都市内の探偵の男(55)に女性の身元調査を依頼。探偵は女性の住むマンションに入り、女性宛ての郵便物に書かれた個人情報を盗み見て、男に伝えていたとみられる。同署は邸宅侵入と窃盗の疑いで探偵を逮捕。捜査関係者は「行き過ぎた探偵行為で悪質と判断した。その上で、ストーカーをきっかけに重大な犯罪につながる危険性もあった」と語気を強める。 他方、探偵による調査は法律で認められている。探偵業法は探偵業を「他人の依頼を受け、特定の人物の情報収集を目的に聞き込みや尾行、張り込みといった調査を行い、その結果を報告すること」と定義。日本調査業協会によると、同法に基づき各都道府県の公安委員会に営業を届け出ている業者は全国に約8千社あるという。 同協会の金澤秀昇会長は「依頼者の中には、うそをついて元配偶者や元恋人の調査を頼む人もいる。相談者の本質を見極め、法や倫理に反する依頼を拒むことが重要」と強調する。一方で、中には契約を続けてもらうために、犯罪を助長する可能性があると分かっていても依頼を受ける悪質な業者もいると指摘。「業界全体で健全化に取り組まなければ、探偵業への風当たりは強くなる」と危機感を抱く。 過去には探偵を悪用した凶悪事件も発生している。2012年、神奈川県逗子市の女性が元交際相手の男に度重なるストーカー行為を受けた末に刺殺された事件では、犯行前日に男が探偵業者から女性の住所を伝えられていたことが判明している。 ストーカー犯罪に詳しい京都文教大の川畑直人教授(臨床心理学)は「探偵を利用するという知識や資金がストーカー側にあれば、被害者の情報を得る有効な手段になりうる」とし、業務の特殊性を踏まえ、「探偵業者は依頼を受けることで犯罪を手助けしてしまうかもしれないことを常に意識する必要がある」と指摘する。