Oasis再結成はいかにして実現したのか 紆余曲折あった15年間&近年の“再結成事情”を解説
ノエル・ギャラガーが一儲けしたくなったのか、ようやくリアム・ギャラガーがSNSで兄を批難するということがまったく無意味だと気づいて直接申し入れすることにしたのか、The 1975(というよりマシュー・ヒーリー)がこれ以上ロックバンドとして支持されることにギャラガー兄弟がいい加減耐えられなくなったのか(マシューとギャラガー兄弟はこの数年ほど舌戦を重ねている)、ソロ新作のインタビューを受けるたびにメディアから「で、再結成するんですか?」と聞かれるのに兄弟揃ってウンザリしたのか、あるいはその全部かもしれないが、いずれにしても2009年の解散から約15年の時を経て、遂にOasisが再結成することになった。2025年夏にUK/アイルランドを巡るツアーを開催し、現時点では未発表だが、来年後半にはヨーロッパ以外の大陸での公演も予定しているという。 【写真】90年代半ばのノエル&リアム・ギャラガー兄弟 複雑な感情を抱くファンも少なくないだろうとは思いつつ、これは控え目にいってもポジティブな出来事であり、近年の再結成関連の話題の中でも飛び抜けて大きなニュースなのは間違いない。本国イギリスのSpotifyチャートではさっそく「Wonderwall」や「Live Forever」といったOasisの名曲が軒並みチャートインしており、再結成に対する反響の大きさを感じさせる。 本メディアでも何度も書いてきたが、2000年代のOasisを通して海外の音楽に触れるようになり、ようやく海外アーティストの来日公演に行けるようになった頃にOasisの解散を経験して計り知れないショックを受けた身としては、これほど嬉しいことはない。何より重要なのが、双方がソロアーティストとして確固たるキャリアを築き、昨年はそれぞれが来日公演で素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた今のギャラガー兄弟であれば、まず間違いなく最高のライブを見せてくれることだろうということだ。とはいえ、解散以降は彼らをそこまで熱心に追っていないという方も少なくはないと思うので、ここで2009年の解散以降の2人の軌跡を簡単に辿っておこう。 端的に言えば、Oasis解散以降の15年間は、「兄がいなくてもやれる」と息巻きながらも紆余曲折と挫折を繰り返して何とかシーンの最前線へと帰還を果たしたリアムと、そんな弟のもがく姿をよそに淡々と音楽と向き合い、安定した支持を獲得し続けたノエルが並走しながらUKロックシーンを盛り上げている、そんな時間だったと言えるだろう。 ノエル脱退後の元Oasisメンバーで構成された新バンド Beady Eyeを2010年に立ち上げたリアムは、初期こそOasisの楽曲を演奏せず、あくまで自分たちが作り上げる楽曲にこだわって活動を続けていたが、作品のセールスは伸び悩み、2014年には解散に至ってしまう。Beady Eyeは2012年の『ロンドンオリンピック』の閉会式にも出演していたが、その時演奏した楽曲がOasisの大名曲「Wonderwall」であることが、何よりバンドの悲しい実態を物語っていたと言えるだろう(ちなみに筆者個人としてはいいバンドだったと思っているので、この機会にぜひ聴いてほしい)。だが、約3年の休止期間を経てソロでの活動を始動させたリアムは、自身のソングライティングやバンドにこだわることをやめ、グレッグ・カースティンなどの外部のソングライターやプロデューサーを起用し、自身が持つ(そして兄に勝つことができる)圧倒的な才能である歌声を武器に、音楽シーンに再び挑むことを決める。その結果、現時点で3作リリースされているソロアルバムはいずれも全英チャート1位を記録。2022年にはOasisの伝説のライブが行われた場所として名高いネブワース・パークでの単独公演を成功させるなど、まさにキャリアハイの時期を迎えているのが今のリアムだ。 一方のノエルは、リアムがBeady Eyeを立ち上げた翌年となる2011年にソロ活動を本格化し、現在まで続くNoel Gallagher's High Flying Birds名義でのデビューアルバム(セルフタイトル)をリリースする。「アンセムを作らなければならない」というOasis時代の呪縛から解き放たれたかのように風通しのいい同作は初作から評価・セールスともに見事な成功を収め、自身の持つ圧倒的なソングライティングの才能を活かした、イギリスを代表するシンガーソングライターとしての立ち位置を確立する。現在までに4作品リリースされているソロアルバムはいずれも好調(1st~3rdは全英1位を記録。4thも全英2位)で、今年の『FUJI ROCK FESTIVAL '24』でも最終日のヘッドライナーを見事に務めていたのが記憶に新しい。 つまり、この15年で自身がボーカリストであるという責任を引き受けることにしたのがリアム・ギャラガーであり、「Oasis的なもの」から解放されて自由にソングライティングやパフォーマンスを楽しむことができるようになったのがノエル・ギャラガーである。バンド時代を思えばとてつもなく大きな変化だが、一方で変わらなかったものもある。それは解散から現在に至るまでに数え切れないほどに繰り返されてきた、メディアやSNSを介した兄弟喧嘩であり、その多くはまさに「Oasisの再結成」という話題をきっかけに発生するものだった。 本当に数え切れないので詳細は各自で調べていただくとして、大まかな変遷としては、解散直後の数年間は兄弟の双方がOasisの再結成を「絶対にない」と語り、互いへの憎悪を剥き出しにする時期が続いていた。だが、2010年代中頃から徐々に「やってもいいかも」という可能性が示唆され(主にノエルは金銭面、リアムはファン目線で語ることが多い)、2020年代前半にはリアムは再結成にかなり積極的になり、ノエルがやんわりと否定するようになっていく。2023年以降は「ものすごく再結成したいが、兄に直接連絡するのは絶対に願い下げ」なリアムと、「絶対に再結成しないというわけではないが、だったら直接連絡してこい」と牽制するノエルによる心理戦が主軸となっていた。今になって思えば、互いのソロキャリアが充実していくにつれて、少しずつ再結成のハードルが下がっていったようにも感じられる。 2024年はOasisがデビュー30周年を迎えるアニバーサリーイヤーということもあって、多くのメディアやファンが「再結成するなら今年では」と期待に胸を寄せ、実際にリアム側はデビューアルバム『Definitely Maybe』の再現ツアーの準備を進めていたのだが、結局、Oasisとしてその夢が実現することはなく、同ツアーはリアム単独で行われることになった(ちなみに、一応リアム側はノエルにオファーしたものの断られたらしいが、本人曰くツアーの各公演にはノエル用の席が用意されていたようだ/※1、2)。だが、同ツアーではノエルのボーカル曲「Half The World Away」や、ノエルのソロ曲「Lock All The Doors」(Oasisデビュー以前のデモ音源が原曲)が披露されるなど、かなりリアム側がノエル側に歩み寄る姿勢を見せていたのも印象的である(再結成のティザーがアナウンスされた『Reading and Leeds Festivals』でも、リアムは「Half The World Away」を「ノエル・ファッキン・ギャラガーに捧げる」と言って披露していた)。