アメリカによる日本の支配はなぜ続くのか?…日本が近代国家として「信じられない状況」にある理由
アメリカとの密約をコントロールできていない外務省
けれども残念なことに、現実はまったくそうではなかったのです。 現在、日本の外務官僚たちは、戦後アメリカとのあいだで結んできたさまざまな軍事上の密約を、歴史的に検証し、正しくコントロールすることがまったくできなくなっている。 というのも、過去半世紀以上にわたって外務省は、そうした無数の秘密の取り決めについて、その存在や効力を否定しつづけ、体系的な記録や保管、分析、継承といった作業をほとんどしてこなかったからです。 そのため、とくに2001年以降の外務省は、「日米密約」というこの国家的な大問題について、資料を破棄して隠蔽し、ただアメリカの方針に従うことしかできないという、まさに末期的な状況になっているのです(*1)。 私が「戦後史の謎」を調べるようになってから知ったさまざまな事実のなかでも、この無力化した外務省のエリート官僚たちの姿ほど、驚き、また悲しく感じられたものはありませんでした。 昨年から大きな政治スキャンダルとなっている財務省や防衛省の資料改ざん問題や隠蔽問題も、その源流が過去の外務省の日米密約問題への誤った対応にあったことは、疑いの余地がありません。
永遠にウソをつきつづけてもかまわない
あれほど国民から厚い信頼を得ていたはずの日本の高級官僚たちが、いったいなぜ、そんなことになってしまったのか。 もちろん密約は日本だけでなく、どんな国と国との交渉にも存在します。 ただ日米間の密約が異常なのは、アメリカ側はもちろんその記録をきちんと保管しつづけ、日本側が合意内容に反した場合は、すぐに訂正を求めてくる。また国全体のシステムとしても、外交文書は作成から30年たったら基本的に機密を解除し、国立公文書館に移して公開することが法律(情報公開法:FOIA)で決まっているため(*2)、国務省(日 本でいう外務省)の官僚たちもみな、明白なウソをつくことは絶対にできない。 ところが日本の場合は、 「アメリカとの軍事上の密約については、永遠にその存在を否定してもよい。いくら国会でウソをついても、まったくかまわない」 という原則が、かなり早い時点(1960年代末)で確立してしまったようなのです。 そのため密約の定義や引き継ぎにも一定のルールがなく、結果として、ある内閣の結んだ密約が、次の内閣にはまったく引き継がれないという、近代国家としてまったく信じられない状況が起こってしまう。 * さらに連載記事〈なぜ日本だけが「まともな主権国家」になれないのか…アメリカとの「3つの密約」に隠された戦後日本の「最後の謎」〉では、日本が「主権国家」になれない「戦後日本」という国の本当の姿について解説しています。 * (*1)「核密約文書、外務省幹部が破棄指示 元政府高官ら証言」(「朝日新聞」2009年7月10日 (*2)ただし軍関係およびCIA関係の文書や、その文書の関係国(日本など)が反対した場合は、公開されないケースも数多くあります
矢部 宏治