不祥事相次ぐも沈黙する検察 「組織として黙秘権を行使している」現職からも批判 求められる説明責任
●検事正の性犯罪事件、会見さえ開かず
「未曾有(みぞう)の危機」 元検察官の弁護士がそう表現したのが、大阪地検の検事正だった北川健太郎氏が在任中に部下の女性検事に性的暴行を加えた疑いで逮捕された事件だ。 犯罪の成否は裁判で明らかにされることだが、不可解なのは、大阪地検トップの立場にあった人間が在職中に性犯罪事件を起こしていた疑いが持たれている状況で、大阪高検が記者会見を開かず、逮捕容疑の詳細さえ発表しなかったことだ。 10月に大阪地裁であった初公判と女性検事が開いた記者会見で事件の概要が明らかにされると、社会に衝撃が走った。 事件が表面化する前に北川氏は早期退職し弁護士として活動しており、検察庁として何らかの事情を把握していたのではないかとの疑念も拭えない。
●無罪が確定した袴田さんを犯人視する検事総長談話
再審(裁判のやり直し)をめぐる動きにも注目が集まった。 1966年に発生した静岡県一家4人殺害事件で、長い間死刑囚とされてきた袴田巌さんの無罪が確定した。 捜査機関のねつ造を認定した静岡地裁の無罪判決に対して検察庁は控訴断念を表明したが、検察トップの畝本直美・検事総長が袴田さんをいまだに犯人視していると受け取れる内容の談話を公表した。 これに対し、袴田さんの弁護団は「到底許し難い」「名誉毀損にもなりかねない由々しき問題」と強く抗議。 検察内部からも「なぜあのような談話を出したのか?」「ありえない」などと検事総長談話への疑問や批判の声が上がった。 1986年に福井市で女子中学生が殺害された事件では、名古屋高裁金沢支部が10月、すでに服役を終えた男性に有利な証拠を検察が隠していたことなどを批判し、再審開始の決定を出した。
●民間では当然の説明責任から逃げる検察
以上のように、検察ではこの1年、不祥事が噴出した。 昨年も、取り調べでの供述誘導や起訴が取り消された「大川原化工機」事件の違法捜査などが判明し、組織的な問題を抱えていることが明らかな状態だ。 先日、三菱UFJ銀行で銀行員が貸金庫から金品を盗み取っていたことが発覚し、頭取ら会社幹部が記者会見を開いた。 民間企業でも不祥事が1件起きれば社会的な説明を求められる。 しかし検察庁は、短期間にこれだけ重大な問題が相次いでいるにもかかわらず、記者会見などで国民への説明責任を果たそうとする様子が見受けられない。 検察関係者からは「職員の多くは誠実に職務にあたっている」との声を聞くが、検察庁上層部の内向きな姿勢が外部の批判を増大させている面も否めない。 「検察庁は組織として黙秘権を行使している」 ある検事は、問題が起きても社会的な説明責任から逃れ続ける今の検察幹部を皮肉混じりにそう批判する。