物価高対策で下振れた9月全国CPI:基調的物価上昇率は2%割れ。日銀の政策は為替の影響を強く受ける
基調的な物価上昇率は2%を下回る
総務省は18日、9月全国CPI(消費者物価)を発表した。生鮮食品を除くコアCPIは、前年同月比+2.4%と前月の同+2.8%を下回った。これは5か月ぶりの下落だ。ただし、その主な要因は、政府が電気・ガス料金への補助金を復活させたことの影響である。9月東京都区部に基づく事前の予測値とほぼ一致する結果であった。 電気・ガス代は、9月のCPIの前年同月比を前月と比べて0.43%ポイント低下させた。他方、生鮮食品を除く食料は、9月のCPIの前年同月比を0.05%押し上げた。うるち米(コシヒカリを除く)が前年同月比で46.8%へと上昇率を高めたことも影響している。 このように、コアCPIは、政府の物価高対策や米価の動き、エネルギー価格の変化などによって毎月変動する。そうした変動の大きい部分を除く、より基調的な物価動向を見るために、「食料(酒類を除く)・エネルギーを除くCPI」に注目したい。9月の指数は、前年同月比+1.7%と前月と同水準となった。CPIの基調的な部分に注目すれば、円安の輸入物価上昇の影響が薄れていく中、その上昇率は物価目標の2%を下回り、さらに緩やかな低下傾向にある。 また、日本銀行は、賃金上昇がサービス価格に転嫁されていくことで、輸入物価上昇による一時的な国内物価の上昇が持続的な物価上昇に転換し、2%の物価目標が達成される、としている。しかし、春闘で上振れた賃金上昇が、サービス価格に顕著に転嫁されているようには見えない。9月のCPIで、サービス価格の前年同月比は+1.3%と8月の同+1.4%から低下している。固定電話料金や宿泊料の下振れなどが影響したと推察される。
日本銀行の金融政策は、引き続き為替動向の影響を強く受ける
こうした基調的な物価動向やサービス価格の動きは、2%の物価目標の達成が難しいことを示唆するものであり、日本銀行の追加利上げを慎重にさせる可能性がある。 ところで、7月以降の円安修正による物価見通しの上方リスクの低下、米国経済の下振れリスク、発足直後の新政権の金融政策への注文、8月の金融市場の混乱などが、日本銀行の追加利上げを慎重にさせている。日本銀行が追加利上げの決定に大きな影響を与えるのは、月次の物価指標よりも、こうした外部要因だろう。特に為替動向は重要だ。 ドル円レートは9月に一時1ドル139円まで円高が進んだが、その後は円安方向に揺り戻され、18日には150円台に乗せた。これを受けて、財務省からは円安をけん制する発言も出ている。 円安がさらに進めば、155円から160円の間で、政府はドル売り円買いの為替介入に踏み切る可能性が出てくることが予想される。その場合には、追加利上げに慎重な姿勢を見せた新政権も、物価高を助長しかねない円安の阻止に向け、政府と日本銀行が協調するように期待するのではないか。つまり、一転して日本銀行の追加利上げに期待する可能性がある。 そうした場合には、日本銀行は12月の決定会合で追加利上げに踏みきる可能性が出てくる。ただしそれはリスクシナリオであり、そこまで急速に円安が進まない中では、上記のような多くの要因に制約される日本銀行の追加利上げは、来年1月まで後すれすることを、引き続き標準シナリオとしたい。 いずれにせよ、日本銀行の政策が為替動向の影響を強く受けることは、この先も変わらないだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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