「SL人吉」牽引した大正11年製造の「ハチロク」、豪雨復興願い展示…「地域の宝に」
全国的に人気だった観光列車「SL人吉」の車両を牽引(けんいん)した蒸気機関車(SL)が17日、熊本県人吉市のJR人吉駅前に展示され、記念式典が開かれた。機関車は、2020年夏の九州豪雨で被災した同市に、JR九州から無償譲渡された。地元の関係者は、豪雨からの復興の象徴と位置づけており、国内外の観光客誘致と経済波及効果に期待している。
展示されるのはSL「8620形58654号機」で、1922年(大正11年)に製造された。「ハチロク」の愛称で親しまれ、2009年から熊本(熊本市)―人吉駅間を走行していたが、路線の一部だったJR肥薩線が九州豪雨で被災。その後は鳥栖(佐賀県鳥栖市)―熊本駅間で運行したものの、老朽化や修理が難しいことから、今年3月に引退した。
お披露目式には関係者約100人が出席。仮設の大型テントにかけられた布が下ろされ、黒光りしたSLが姿を現すと、「おー」という歓声と拍手が起こった。
松岡隼人市長は「人吉の新たなランドマーク、観光資源として多くの人が訪れるように取り組む。展示を機に、観光客や地域住民に鉄道の街・人吉の魅力を再発見してほしい」と話した。
JR九州が無償譲渡を決めたのは、九州豪雨で被災した地元から「地域の宝にしたい」と要望があったからだ。同社の三浦基路熊本支社長はあいさつで「やはり人吉の地がしっくりくる。今後もシンボルとしてかわいがってほしい」と述べた。
熊本県は、菊陽町に半導体受託製造の世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)が進出し世界的に注目を集めていることから、国内外の観光客誘致への期待が大きい。式典に出席した人吉温泉女将(おかみ)の会「さくら会」の有村政代会長(74)は「TSMC進出により台湾からのお客様も少しずつ増えており、SL人吉は観光復興の起爆剤になる。海外の方も含め、幅広い人に見に来てほしい」と話した。
人吉市は25年度にSLが雨風をしのぐ格納庫を整備し、レールを約25メートルから約60メートルまで延長する考えだ。将来は圧縮空気を使って車体を動かし、乗車体験などができる「動態展示」の実現を目指す。そばには、肥薩線の魅力や歴史を伝える「人吉鉄道ミュージアム」があり、市はこれらを合わせて国内外の鉄道ファンらを呼び込みたい意向だ。明治時代につくられた石造りの機関庫も近くにあり、外観を見ることができる。